イフリートの試練(5)
「私の名誉のために言わせてもらうが、襲撃の時はちゃんと起きていたからなっ!」
アクアディールがトゥラデルへそう主張した。
トゥラデルが必要以上にアクアディールをからかうから、彼女がムキになってしまった結果だ。
「そう、ムキになんな。ちゃんと言いつけ通り譲ちゃんを近くで守ってたよ。」
そして、僕にだけ聞こえるぐらい小さい声で「眠りながらな」と付け加えるトゥラデル。
やめてくれ。とばっちりを受けるのは僕なのだから。
「あ!皆さん、村がありますよ。」
フローが嬉しそうに前方を指差しながら言った。周りの空気を全く気にしないこの子は、きっと将来大物になる。
フローが指差した方向には、そこそこ大きい村があった。
「街道沿いだからな。村があっても不思議じゃない。」
「寄っていかないんですか?」
トゥラデルに詰め寄るフロー。
「まだ日が高いからな。もう少し先まで進めるだろう?」
トゥラデルの言葉にフローは明らかに不満顔だ。まるで折角見つけたおもちゃを取り上げられた子供のように。
「分かった、分かったよ!ちょっと寄ったらすぐに出発だからな。」
途端にフローの表情が明るくなった。
村には防護柵が設けられ、入り口には槍を持った屈強な男がふたり立っていた。
「何者だ?」
僕らは入り口で呼び止められた。
「何だか、物々しい雰囲気ですね。」
フローが僕に耳打ちした。
「見りゃ分かんだろ、旅人だよ。」
ガラの悪い剣士1名。
聖騎士団の物ではないが、見るからに高価な物と分かる鎧に身を包んだ槍使い1名。
武器も持たず、金糸で飾り付けたゆったりとしたローブに身を包んだ少女1名。
鎧を身に着けず、腰には一本の剣を差した少年1名。
うん、どこからどう見ても旅人一行だね。
「怪しい奴らめ、拘束する!申し開きは村長にするんだな。」
突然襲いかかってくる門番。
まずい、非常にまずいぞ!
「てめぇら、いきなり何をする!」
「姫様に危害を加える行為、許されざるぞ!」
強い。この二人、異常に強いぞ。
またたく間に、地面に這いつくばらせられた二人。
どうする?まずいことになったぞ。
そう。トゥラデルとアクアディールは、一瞬にして「門番を制してしまった」のだ。
「どうすんだよ!これじゃ完璧に悪人だよ。」
僕は二人を避難した。
「知らねぇよ。突然襲われたんだ、正当防衛だろ?」
「このアクアディール、姫様には指一本触れさせません。」
騒ぎを聞きつけ、村人たちがワラワラと集まってきてしまった。
「あ、あの。これはですね・・・。」
考えろ、考えろ・・・どうすれば丸く治まる。
アクアディールは・・・倒れた村人に槍を突きつけて得意気な顔をしている。
トゥラデルなんか村人の上に座っちゃってるし・・・。
ダメだ!何にも思いつかない!
どこからどう見ても、村を襲いに来た山賊か何かだ。
「もしや、フローレンス王女?」
集まった村人の中から上がった思いがけない声に、僕は希望の光を見出した。
「おい!てめぇら。いきなり手ぇ出してきた落とし前、きっちりつけてもらうからな。」
有無を言わせず、喰ってかかる剣士1名。
トゥラデル、余計な事を言うな!
「長老!こんな乱暴な奴らが、フローレンス王女の連れの訳無いですよ。」
「そうだ、村を襲いに来たに決まってる!やっちまえ!」
口々に非難の声を上げる村人たち。
万事休すか・・・。
「旅人に非ぬ疑いをかけ襲いかかり、反撃されればそれを避難する。あなた方は自分達の行動が正しいと思っているのですか?」
辺りに凛とした声が響き渡った。
「フロー・・・?」
いつもの少しのんびりしたフローとは一転した凛々しい声に、僕は一瞬戸惑い、自分の目を疑った。
一瞬で場を制するこの存在感は、正に王族。その姿はシャルロット王女を彷彿させた。
「やはり、フローレンス王女。」
長老がその場に跪き、頭を垂れる。
それを見た村人たちも次々と膝を付き、フローに敬意表した。
「こちらも少々やりすぎました。もう頭を上げてください。それより、何故このように村の防衛に力を注がなくてはならないのですか?」
長老に近づき問いかけるフロー。
「それは・・・。」
長老の話では、昨年あたりから村の近くの街道に山賊が出没するようになったらしい。
当初は旅人の積荷を襲っていたのだが、次第に村にも来るようになってしまった為、自衛団を設立して警護に当たっていた所、ちょうど僕たち一行が立ち寄ったとの事だ。
「そりゃあ、大変だな。じゃ、俺達は先を急ぐから精々頑張んな。」
少し離れた所で切り株に座っていたトゥラデルが、手をひらひらさせながら立ち上がった。
確かに村は大変そうだけど、僕たちは一日も早くフローにイフリートの試練を受けさせなければならないという使命がある。
トゥラデルの言う通り、ここは村人たちに頑張ってもらうしか無いのだろう。
「待ってください、トゥラデルさん。」
トゥラデルを呼び止めたのはフローだった。
「困っている臣民がいるのです。手を差し伸べられない様では王族失格です。」
決意に満ちたフローの声。
「しかし姫様。」
声を上げたのはアクアディール。
「今は姫様の容態を安定させるのが先決。私もトゥラデル同様、先を急ぐべきかと・・・。」
フローが首を横に振った。
「それでも・・・です。それでも市民の事を思う。私は父カーネリアン王にそう教えられました。」
これが王家に生まれてしまった者の定めか。
「ったく、面倒くせぇな。」
バツの悪そうな顔をして、頭をボリボリ掻きながらトゥラデルが戻って来た。
「ありがとうございます、トゥラデルさん。」
「別に嬢ちゃんの為にやるんじゃねぇよ。山賊追っ払ったら、報酬はあるんだろ?村長さん。」
トゥラデルが村長の顔を覗き込んで言った。
「貧しい村ですから、それほど多くは出せませんが・・・少しなら。」
「まあ良い。足りない分は、山賊の溜め込んだ宝でももらうか。」
アクアディールが「それでは私達も泥棒と同類です」と、トゥラデルを非難したが、トゥラデルが聞いている様子はない。
「それじゃ山賊退治、頑張っちゃいますか。」
フローが力こぶを作るポーズでこちらを見て、笑った。




