王都襲撃(7)
雲ひとつ無い青空。
透き通った空気は遠くの山脈をもはっきり見せ、その存在を近くに感じさせる。
立ち上る黒煙と、風に乗って漂ってくる硝煙の臭いが、この地が魔族の襲撃にあったという事を思い出させる。
復興にはどれほどの期間がかかるのであろうか・・・。
各騎士団の働きにより人的被害が少なかったのが、せめてもの救いと言えるだろう。
歓声がが聞こえている。
王城のバルコニーから眺める景色は圧巻だった。
眼下には大勢の市民が英雄の姿を見るため、我先にと押し寄せていた。
「ロゼライト君、胸を張って。」
そう言ったのは、僕の左隣にいるシャルロット王女だ。
見慣れている学園の制服とも、昨日来ていた聖騎士団の鎧とも違う、式典用の荘厳な衣服を身に纏っている。
「そうですよ、何しろロゼサイトさんは英雄なんですからね、え、い、ゆ、う。」
シャルロット王女を挟んで反対側に立ったフローが、クスクスと笑いながら僕に言った。
フローもシャルロット王女と同様に式典用のドレスを来ているが、こちらはシャルロット王女ほど畏まったものではない。
「柄じゃない」と言って、まんまと逃げ仰せたテレーズ王女を、今は本当に羨ましく思う。きっとど、こかで僕の様子を見ながら、ニヤニヤと笑っている事だろう。
「我が国の騎士団は中級魔族からの攻撃も押し退けるほどの実力を・・・。」
先程よりバルコニーで行われているカーネリアン王の演説は、まだまだ終わりそうもない。
事の発端は、中級魔族の存在をカーネリアン王に報告に行った時だった。
「一応、当事者なんだし、ロゼライト君も一緒に来てもらってもいい?」
グランデールの襲撃を退けた後、軽い口調でそう言ったのは、シャルロット王女だった。
城内の至るところから聞こえていた戦の音は収束し、今はどこからも聞こえていない。
シャルロット王女は先程までの王女モードはどこかに消えてしまったようで、騎士団や衛兵がいなくなった今、完全に自宅モードに入ってしまったらしい。
「ふあぁあぁぁ。」
シャルロット王女が大きな欠伸をした。
・・・おいっ!口を手で隠せ。
「頑張ったから眠くなってきたよ〜。」
「鍛え方が足りないんだ。」
大きなため息をつきながら、テレーズ王女がシャルロット王女に言った。
「テレーズ姉さんみたいに鍛えたら、筋肉ムキムキになっちゃって、結婚できなくなっちゃうんだから。」
シャルロット王女が口を尖らせる。
「ふん、そんな男はこっちから願い下げだ。」
「でも、テレーズお姉様も魅力的ですよ。スタイルも良いですし、肌なんてスベスベで・・・ね、ロゼライトさん!」
何故、こっちに振る!
「そ、そうですよ。テレーズ王女の魅力が分からない奴なんて、ほっとけば良いんですよ。」
急いで僕もフォローする。
「な、何言ってるんだお前ら!」
そっぽを向いたテレーズ王女の顔は真っ赤になっていた。そういえばテレーズ王女は照れ屋だったな。
「姉さん、耳まで真っ赤!照れちゃって可愛い〜。」
すかさずシャルロット王女が、テレーズ王女をからかう。
「うるさいな!大体ロゼライトが変なこと言うからいけないんだぞ!」
え?僕?
「でも、お姉様。ロゼライトさんは渡しませんからね。」
フローが突然変な事を言った。
そ、それって・・・。
「あれ〜?もしかして、フローレンスはロゼライト君の事が・・・。」
柄にもなくドキドキする僕。
「ロゼライトさんは、ずっと私のお世話係なんですから、渡しませんっ!」
ですよねー。
「そんな事言ったら、ロゼライト君は私のお世話係でもあるんだからね。」
シャルロット王女が僕の右腕に抱きついてきた。
それを見たフローが少しだけ動揺する。
「馬鹿なこと言ってないで行くぞ。父さんに報告に行くんだろ?」
しびれを切らしたテレーズ王女はそう言うと、スタスタと歩き出してしまった。
「ロゼライトさんは、どちらのお世話係が良いんですか?」
今度はフローが左腕に抱きついてきた。
何なんだこの状況は・・・。
その後もふたりの王女は両腕を引き合いながら、僕がどちらのお世話係かという不毛な言い合いを謁見の間の扉の前まで続けたのだった。
謁見の間ではカーネリアン王と、スピネル王妃が僕たちを迎え入れてくれた。
中級魔族を迎え撃ったという話に、カーネリアン王もご機嫌だった。
「中級魔族を撃退するとは、さすが伝説と呼ばれる4人だ。」
カーネリアン王の言葉にスピネル王妃も大きく頷く。
僕は先程から、自分はたまたま居合わせただけで役に立っていないと伝えているのだが、興奮したカーネリアン王は全く聞く耳を持たない。
「これは市民に報告をしなければならないな。大臣、布令を出せ。」
聞けよ!おっさん!
いやいや、王様をおっさん呼ばわりはいけないな。
「布令の内容は、「中級魔族に襲われた王女達を救いしは、伝説の賢者の少年。その正体は?!」でどうだ?」
おい、おっさん!!
大臣に相談するカーネリアン王。
それ、事実無根だし!
「良いと思います。」
良いのか?!
「悲しい出来事があった直後です。こういう時は多少ドラマチックな方がいいかと。」
「うむ、わしもそう思う。」
大臣の言葉に、カーネリアン王は大きく頷いた。
それで、こういう状況に陥っている。
布令の内容は多少変えてくれたが、大げさすぎるフレーズは恥ずかしくてしょうがない。
「・・・若者たちが切磋琢磨し、力をつけている。我が国の将来は・・・。」
退屈なスピーチも終盤に差し掛かった。
「フローレンス?大丈夫?」
シャルロット王女の、心配そうな声。
視線の先には息を荒くして、苦しそうなフローの姿があった。
心臓を押さえ、息が荒く、今にも倒れてしまいそうだ。
「熱い・・・体が、熱い・・・。」
フローはとても苦しそうだった。先程まで何ともなかったのに、一体どうしたというのだ。
緊急事態を察したのか、集まった市民たちの間に不安が広がっていくのが分かった。
「救護兵、フローレンスを頼みます。」
シャルロット王女が、後方に付いていた兵士に声をかけた。
「ロゼライト君、フローレンスについていてあげてくれる?あなたがいれば、フローレンスはきっと頑張れる。」
シャルロット王女は「自分もすぐに行く」と付け加えると、カーネリアン王と共に事態の収集に向かった。
「熱い・・・。」
紅潮したフローの額は思ったよりもずっと熱かった。
一体、いつからこんな状態だったのだろうか?我慢強いにも程がある。
「ロゼサイトさん、すいません。」
なぜ謝る。
「ロゼライトさんの、せっかくの晴れ舞台なのに。」
こんな偽りの晴れ舞台なんかの為に我慢してたのか?!
それだけ言うと、フローは意識を失った。
回廊に響く救護兵たちの乾いた足音だけが、やけに鮮明に耳に残った。




