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王都襲撃(5)

「ロゼライト!おい、ロゼライト!」

 誰かが僕を呼んでいる。

 僕は咳き込みながら意識を取り戻し、勢いよく上体を上げた。

「良かった、しかしあまり無理はするな。下級魔族と言っても、並の実力じゃ太刀打ちできないぞ。」

 暗に僕の実力が「並」と言われ、今までの鍛錬は無駄だったのかと、少なからずショックを受けた。

「しかし、何でこんな所にいる?戦闘は騎士団に任せ、早く避難するんだ。」

 僕は早口でエドワードに言われたことをテレーズ王女に説明した。

「分かった。フローレンスは逃げ足だけは早い。城内で襲われたのであれば、何とかするだろう。でも急がなければならない。あいつは魔法が、からっきしだからな。」

 そう言うと、テレーズ王女は待機していた騎士団に軽く指示を出すと、城の西側へと移動を開始した。

 僕は、行っても良いのだろうか。

 今すぐ走り出したい気持ちもあるが、先程の事を考えると、足手まといにしかならない気もする。

「どうした、ロゼライト。」

 テレーズ王女が声をかけてくれる。

「しかし、足手まといでは?」

 テレーズ王女が僕の顔を覗き込んできた。

「そんな事を気にしてたのか?お前はフローレンスの何だ?言ってみろ。」

「護衛・・・です。」

「世話係、だろ?じゃあ世話を焼きに行くぞ。」

 テレーズ王女が走り出した。少し遅れて僕も急いでテレーズ王女を追う。


 テレーズ王女は西側にフローの姿が無い事を確認すると、次は中庭へと向かった。

 中庭でフローは様々な花を育てているらしい。

「何かあると、フローレンスは中庭に足を運ぶ。一番落ち着くんだそうだ。」

 こんな状況で不謹慎だが、フローと花壇、似合いすぎてて笑えると思ってしまう。

 ふと、テレーズ王女に目を向けた僕は、不思議な事に気づく。

「テレーズ王女、武器を何も持っていないようですが?」

 テレーズ王女の代名詞と言えば、漆黒のハルバード。しかし、今のテレーズ王女の手にはハルバードの姿は見えない。

 それどころか、剣も弓も、ナイフでさえ持っていないように見える。

「そうか、ロゼライトはまだ魔法の学習を始めて間もなかったな。」

 テレーズ王女は面倒くさそうに溜息をつくと、少しだけ走る速度を緩めて僕を見た。

「時間がない手短に言うぞ。それぞれの加護精霊は精霊核と呼ばれるものを持っている。」

 精霊核?初めて聞く言葉だ。

「簡単に言うと、精霊の能力の基となる力のことを言う。」

 う〜ん、全然分からん。

「分かりやすいのは、水の精霊と土の精霊だ。水の精霊の精霊核の力は『浄化』。そして土の精霊の精霊核の力は『付与』だ。」

 テレーズ王女は僕の顔を一度見て、理解していない事を悟ると苦笑いをした。

 微笑みともとれる優しいその表情は、出来の悪い弟に勉強を教える姉のようでもあった。

「水の魔法は、病気の治療や毒の治療、つまり『浄化』はできるが、弱った人間の生命力の回復はできない。逆に土の魔法は生命力の回復、つまり『付与』はできるが、病気の人間は治療できない。まぁ、これは一例にすぎないが・・・。」

 なるほど!

 精霊の魔法というのは、精霊核の力から派生されているということか。

「それじゃあ、闇の魔法の精霊核は?」

 それが分かれば、僕も闇の魔法が使えるようになるかもしれない。

「残念ながらそれは分かっていない。精霊核を証明できるほど、闇の魔法の使い手がいないからな。それは光の魔法も一緒だ。」

 僕は愕然とした。テレーズ王女の言葉に少なからず期待を寄せていたからだ。

 そうこうしているうちに、僕たちは中庭についた。テレーズの予想通り、中から弱々しい魔法が発動した音がする。フローに間違いない。急がなければ。

「だがな、ロゼライト・・・。」

 テレーズ王女が口を開いた。

「私はこう思っている。」

 前を走るテレーズの表情は分からない。

「闇の魔法の精霊核の力は・・・『創造』だ、と。」

 テレーズ王女が右手を空にかざす。

 空間が震え、テレーズ王女の手に漆黒のハルバードが出現した。


 中庭に入った僕たちが目にしたのは、明らかにレッサーデーモンと体の大きさが違う、一体の魔族だった。

 森の中で会ったあいつだ。

「テレーズ王女、あいつは・・・。」

「大丈夫、分かっている。レッサーデーモンじゃない。中級魔族だ。」

 中級魔族。下等魔族であるレッサーデーモンと区別されるその力は強大で、一体の中級魔族に襲われ、国がひとつ滅んだと言われている。

 しかし、洞窟等の通常の闇の中から涌いてしまう事のあるレッサーデーモンと違い、中級魔族は、深淵の闇と呼ばれるこの世の歪からしか生まれないとされている。

「人為的に召喚されたのか・・・。」

 テレーズ王女が呟いた。

 考えるのは後だ。

「ロゼライトは私の援護に回れ。魔法で撹乱するんだ。」

 僕は無言で頷いた。テレーズ王女の言うことを聞くしかないだろう。なにしろ魔剣の魔力が切れてしまった僕には、魔族に立ち向かう術は残されていないのだから。

 ――灼熱の炎よ。

 ――力強き大地よ。

 右手には炎を纏わせ、左手の周りには先程拾っておいた小石を回転させる。

「ロゼライト、君は同時に2種類の魔法を使えるのか?!」

 テレーズ王女が驚いた表情で僕を見た。

 両手に別の魔法。物心ついたときから普通にできたことだ。

「器用なやつだ。」

 両親も特に何も言わなかったので、両手に別々の魔法を発動することは、特別な事だとは思っていなかったが、どうやら珍しい特技らしい。

 しかし、そもそもの魔力が小さいため、発現できる魔法が、一種類でも二種類でも大した差は無いように思える。

 魔族との距離が縮まる。

 テレーズ王女が微笑んだ。いつもは無表情で立ち寄り難いイメージがあるが、何故だが今日のテレーズ王女は生き生きしているようにも感じる。

「テレーズお姉様!ロゼライトさん!」

 フローがこちらに気が付いた。

 テレーズ王女の走るスピードが上がる。

 いつの間に創造していたのだろうか、テレーズ王女の周りには数本の剣が浮かんでいた。

「剣よ、舞え!」

 無数の剣が空を舞い、魔族に襲いかかる。間髪入れずに加速し、間合いを詰めるテレーズ王女。

 僕はその間に魔族の左側に回り込んだ。

 中級魔族。一筋縄では行かないこの相手にテレーズ王女の攻撃を当てるため、何とか奴の気を引かなければならない。

 金属が弾かれる音がした。

 数本の剣は弾かれたものの、飛ばした剣のうち数本は魔族の腹部に深々と突き刺さっていた。

 魔族が苦悶の叫び声を上げた。

 既に僕も、両手に発動させた炎と小石を魔族の顔に飛ばしている。

 魔法が直撃し、魔族の顔に噴煙が上がった。

 直後、最初から決まっていたかのような絶妙なタイミングでテレーズ王女が魔族の首にハルバードを振り下ろした。

 避けられるタイミングではない。

 魔族の周りから噴煙が消し飛んだ。

 その様子が、テレーズ王女の剣圧の凄まじさを物語っていた。

 テレーズ王女が目を見開いた。

「そんな、馬鹿な。」

 噴煙が消えたあとに現れたのは、左手でテレーズ王女のハルバードを握り、不敵な笑みを浮かべる魔族の姿だった。


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