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王都襲撃(3)

 城門をくぐった僕は、まっすぐメインストリートを走り抜け、王城へと急いだ。

 今日は休日なので、フロー達は王城にいる可能性が高いからだ。

 場内には、かなり多くの魔族が侵入してしまっているようだ。衛兵だけではなく、騎士団も城下に出て戦闘に参加している。

 この分なら、それほど時間をかけずとも、場内の魔族を殲滅できることだろう。

「ロゼライト君!」

 噴水広場を通り過ぎようとした時、僕は不意に名前を呼ばれて立ち止まった。

 声がした方向を見ると、シャルロット王女が騎士団を引き連れてこちらへ近づいてくるところだった。

「ロゼライト君、無事で良かった。」

 シャルロット王女が安堵の溜息を漏らす。

「王女こそ、ご無事で何よりです。」

 騎士団の目もあるので、一応恭しく一礼する。

 ていうか、この人こんな所で何やってるんだ?!早く避難してくれないと、とても迷惑なんですけどっ!

「騎士団は噴水を中心に放射隊形をとりつつ、付近の魔物を排除。市民の安全を守り、広場に安全地帯を設けなさい。」

 早口で作戦を指示する、シャルロット王女。

 ・・・いや、何であなたが指示だしてんの?しかも何だか的確っぽいし。

「あら、意外って顔してるわね。」

 呆気にとられてた僕の顔を見て、シャルロット王女がそう言った。

「聖騎士団の団長は私。知らなかったの?」

 得意げな笑みを見せるシャルロット王女。何だか無性に腹が立つぞ。

「ロゼライト君、来るわよ!気をつけて!」

 シャルロット王女はそう言うと、腰に差してあった細身の剣を抜き、僕の手を取り走り出した。

 直後に上空より放たれた火炎球が、街の石畳を弾けさせる。

「ちょっ、ちょっと待って。僕も急いでるんだけど・・・。」

「話は後にして、今やらなきゃならない事があるでしょ!」

 聖騎士団の作った円の中には、すでに数人の市民が避難していた。

「安心してください。魔物はすぐに殲滅し、皆さんの安全を確保しますので。」

 魔族に注意を払いながらも、一人ひとりの顔をしっかり見ながら話しかけるシャルロット王女。

 素のシャルロット王女を知っているので違和感しか湧かないが、さすが女神の化身と呼ばれる事はある。

「騎士団は、地表に降り立った魔族に注意を注げ!上空にいる魔族は私が何とかする。」

 一人で?!

 僕は耳を疑った。

 ほとんどの魔族が地表付近に降りてきたとはいえ、まだまだ上空に待機している魔族も多い。

 これを一人で相手をするなど、無謀すぎる行為だ。

「ロゼライト君、これを。」

 シャルロット王女が僕に手渡したのは、騎士団が使用している大盾だ。

「これは?」

 シャルロット王女に尋ねた。

「聖騎士団の盾には地の魔石を埋め込んでいるの。この盾なら、多少の攻撃は耐えられるはずよ。」

 それで?

 何を言ってるのか、訳が分からない。

「私を守れって言ってるの。そのくらい察しなさいよ。」

 シャルロット王女が、僕の耳に顔を近づけながら言った。

 騎士団に対する態度と、僕に対する態度の違いは、一体何なのだろう。

 早くフローやテレーズ王女の無事も確認したいのだが、そうも言ってられない状況だ。

 僕は渡された大盾を構え、シャルロット王女の前に立つ。

 白を基調としたその盾は、縦長の五角形を形取り、中央に大きな十字架が描かれている。十字架のクロスする部分に埋め込まれた茶色の石が、シャルロット王女の言う魔石なのだろう。

「重い・・・。」

 想像以上に重いその盾は、頑丈ではありそうだがとても戦闘で使えるような代物では無いように思えた。

「ロゼライト君、ゆっくり魔石の力を開放して。」

 そうか、地の精霊の力は防御の性能を上げるだけでなく、重力操作にも使うのか。

 ゆっくりと盾に作用する重力を小さくするようにイメージする。

 同時に魔石が淡く光り、びっくりするくらい盾が軽くなった。

 これなら戦える。

 僕は盾を構え直し、シャルロット王女の前で腰を落としてから剣を抜いた。

「じゃあ、守りは頼んだからね。」

 そう言ったシャルロット王女は、集中するために目を閉じた。同時に両手が金色に輝き出す。

 光の魔法か。

 初めて見るその魔法は、今まで見たどの魔法よりも美しかった。

「穿て!」

 シャルロット王女が短い言葉を発すると一瞬手元の輝きが増した。

 同時に空中を漂う魔族が苦悶の声を上げ、紫色の血を噴き出しながら地面に落ちた。

 何が起こった?!

 理解不能だった。早すぎて見えないとか、そういうレベルの問題じゃない。

 魔法を発動すると同時に、相手にダメージを与える。こんな魔法が存在して良いのか?

 正に神の力。いや、使い方によっては悪魔の力になり得る危うい魔法だ。

 僕はシャルロット王女の方を見た。

 「どうだ!」とでも言いたげな表情で、胸を張っている。ドヤ顔とはこういう物だと教科書に写真付きで出てきそうな表情だ。

「ねぇ、見た?すごいでしょ?」

 シャルロット王女が顔を近づけてくる。何だこの王女。とってもうざいぞ。

「さあ!どんどんいくよ!」

 驚いた表情の僕を見て気を良くしたのか、シャルロット王女はさらに気合を入れて魔法を発動していく。

 もちろん、僕以外が見ているところでは、女神の化身の表情を崩さずに。

 何て器用な人なのかと、くだらないところで感心してしまう。

 シャルロット王女の手が輝くたびに、魔族が一匹断末魔の叫びを上げて地面に落ちる。

 それは距離が遠くても変わらないようだ。城門付近に小さく見える魔族でさえ、例外無く光の餌食と化してしまう。

 伝説の存在である光の術士の実力を目の当たりにして、僕は少しだけ恐怖を覚えた。

 程なくして、噴水広場に魔族の姿は見えなくなった。

 防御を任されていた僕であるが、結局やることが無く、ただ盾を構えて突っ立っていただけだった。

 それほど光の魔法が凄いという事なのだが。拍子抜けしたというのが正直な感想だ。

 シャルロット王女は聖騎士団の面々に労いの言葉をかけ、市民を守るように新たな指示を出している。

 ひとまずこの場の安全は確保されたようだ。

「シャルロット王女、僕はフローの無事を確認しに王城へ向かいますので、これで失礼します。」

 僕は一礼すると、踵を返す。

「ロゼライト君、王城に行くんだったらこれを持って行って。」

 そう言ってシャルロット王女が投げてきたのは、シルバーのロザリオ。

「これは?」

「私がいつもしてるロザリオ。身分の証明ぐらいにはなるでしょ?」

 僕は受け取ったロザリオを首にかけ、シャルロット王女にお礼を言うと、王城に向かって走り出した。


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