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プロローグ

 この世に生を受けたすべての人間は精霊の加護を受ける。

 一つの精霊の加護を受けた人間を術士。

 二つの精霊の加護を受けた人間を導師。

 三つの精霊の加護を受けた人間を賢者。

 そして、四つ以上の精霊の加護を受けた人間を魔人と呼んだ。


 春。

 どこまでも広く、抜けるような青空の昼下がり。僕は王都グアラに向かっていた。

 馬車から望むどこまでも続く肥沃な大地が、この土地の裕福さを物語っている。

「ロゼライトさん、見えてきましたよ。」

 御者の言葉を聞き、僕は馬車から半身を乗り出して前方を見た。遠くに王都を囲む高い城壁がそびえ立っているのが見える。

 僕は目を凝らした。

 吊橋は下げられ城門は大きく開け放たれているようだ。

 これは、王都周辺地域の治安の良さに起因するところであろう。

 王都グアラには、最強と謳われている騎士団が常駐する。

 周辺各地が魔物の驚異に晒される中、この騎士団のおかげで、魔物はおろか、盗賊の姿さえも見ることは稀な状況だ。

「んんー。」

 僕は大きく伸びをした。故郷の田舎町エールベーラを出て3日、やっと王都に着いた。手足の関節が、ポキポキといい音を立てて伸びていくのが心地よい。

 馬車から身を乗り出して、もう一度王都を見た。あと半刻もすれば到着するだろう。

 来週から始まる帝国魔術学園の生活を考えると、憂鬱さを覚えないでもないが、新生活というものはそれだけで気分が浮かれるものだ。

 僕は手荷物をまとめ始めた。

 鞄ひとつ分の小さな僕の荷物。必要なものは王都で揃えるつもりだ。

 王都に着いたら、まずは街を見て回ろうと思う。午後になったらこれからお世話になる寮に行き、挨拶を済ませて、時間があったら学園を下見しておくのも良いかもしれない。


 城門をくぐり停車場に着くと、僕は鞄を斜めにかけ王都に降り立った。

 石造りの整備された道、赤や青のカラフルなレンガで作られた家の数々。道行く人もエールベーラとは比べ物にならないほど優雅に見えた。

 馬車の停車場は、城門をくぐってすぐの大通りに面して設置されていた。

 大通りを進んだ遥か先、小高い丘を登った先には王城が見える。ここからでは見ることはできないが、噂の騎士団の詰め所等も、王城の近くに建てられている事だろう。

 大通りには、様々な店が軒を連ねていた。

 食事は寮と学食、そして外食で済ますことができるため、調理器具の購入をしなくて良いのは有り難い。

 僕は城門から王城に続く大通りをゆっくりと進んだ。

 食堂、宿屋、服屋、道具屋といった生活に直結する店が多い。

 意外なことに武器や防具、魔道具というような戦いを目的とした店舗は見られない。どこか別の所に固まって出店しているのだろうか。

「フローレンス様、待ってください!」

 声がした方向を見ると、大通りの反対側に一人の女性と身なりの良い初老の男性の姿が見えた。

 女性の年は僕と同じか少し下ぐらい。深くかぶった帽子の下からは、肩まで伸ばした銀色の髪が見える。落ち着いた雰囲気の衣服を纏い、いかにもお嬢様といった出で立ちだ。

 歩く速度が早すぎて、お供の男性がついていけなかったのだろう。ここからでは会話は聞こえないが、従者に対して必死に謝っている様子からして、高圧な人物では無さそうだ。

「パレードが始まるってよ!」

 大通りを王都側に走りながら、若者が言った。

 そういえば、春になると王都ではパレードを行っていると聞いたことがある。

 噂の騎士団も見れるかもしれない。

 僕は若者が走っていった方向に急いだ。どこかの店に入ったのか、フローレンスと呼ばれた女性の姿は見当たらなかった。


 大通りの両側は、人々がごった返しており、移動するのもままならない状況だった。

 僕は人混みの一番後ろ、文字通り建物の壁と人混みに挟まれながら、パレードが始まるのを待っていた。

 路地に目をやると、一人の女性と目が合った。

 年齢は僕よりも少し上、漆黒のような黒い髪を切り揃え、鋭い視線で大通りを凝視している。

 暗殺者?

 不吉な言葉が脳裏を過ぎった。

 パレードと言えば、お偉いさんが行うものだ。これから誰が通るかは知らないが、犯罪の可能性が無い訳ではない。

 花火が上がった。

 人々は我先にと先頭に出ようとする。

「おっと。」

 もみくちゃになりながらも、何とか体制を整える。

 路地に目をやると、さっきの女性は既にいなくなっていた。


 パレードの先頭は噂の騎士団だ。

 白を基調とした鎧に身を纏い、やはり白を基調とした旗を持った旗手を先頭に整然と行進している。団長と思われる人物の号令と共に抜かれた剣が光を帯び、荘厳ささえ感じる。

 集まった人達は、口々に王の名前や国名、騎士団長の名前を叫んでいる。

 田舎から出てきた僕は、その規模、その騒ぎに只々度肝を抜かれるばかりだ。

 一際大きい歓声が上がった。

 通りを見ると、馬車に乗った一人の女性の姿が見える。

 年は僕と同じか少し上ぐらいだろう。キラキラと光る腰まで伸ばした金髪が印象的な女性だ。その佇まい、その雰囲気が、神秘的とも言えるほど神々しい。

 誰だ?

「何だ、兄ちゃん。シャルロット様を知らないのか?」

 思ったことが声に出ていたのか、隣にいたおっさんが声をかけてきた。

「この国の王女は奇跡の三姉妹って呼ばれててな、中でも次女シャルロット王女は、女神の化身とも呼ばれる特別な存在だ。有り難く拝んどきな。」

 そう言うと、おっさんは手を合わせだした。女神像じゃないんだから、それはそれで失礼だと思うが、おっさんは真剣な顔をして拝み続けている。

 馬車が過ぎても興奮冷めやらないところから、シャルロットの人気の様子が伺えた。


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