第九話 突然の絶望
大学のオカルト研究会のメンバーと共に、蚊人のパトロールに向かった盛弥とオニコと眞利の3人。見つけた蚊人を倒すと、その後から幹部の内の一人クザスに出くわす。戦闘の末に撃退に成功した一同だが、クザスが残していった炎の玉を巡ってある問題が発生する。果たしてその問題とは?
暗闇に、クザスの残した火の玉がポツンと浮かんでいる。肝試しであれば怪しさ満点の光景だが、今はそんな雰囲気ではない。
「なあオニコ、あの火の玉って何なんだ?」
「さあ?分かんない…。」
盛弥とオニコがそんなやりとりをしていると、後ろからゴム弾が2発飛んできて火の玉に当たる。眞利と沙月が放ったものだ。ゴム弾は火の玉に当たるか当たらないかのところで跳ね返されて炎が燃え移り、飛んできたのと同じ軌道を高速で戻っていく。呆気に取られた眞利と沙月は、避けることができずに被弾してしまった。しかし、2人から血が出ることはなく、燃えたゴム弾は2人の体内に吸い込まれてしまった。
「ちょっ!!」
盛弥が駆け寄るが、2人には驚くほど何の変化もない。
「え?大丈夫なの?」
「う、うん。特に何もない、よね?」
眞利が沙月に同意を求める。
「そう、だね。大丈夫だよ?」
「いやいやいや、てか何で撃ったんだよ?」
「それがね、よく分からなくて…。気付いたら目の前に炎があったの。」
盛弥が声を荒げようとすると、常長から制止が入った。
「高平君、ちょっと待ってくれ。岡さん、確か似たような事件があったよね?」
沙月は、頭の中にある事件簿を遡ると閃いた顔になった。
「そうだ!確か、火の玉吸収事件ですね。」
盛弥が説明を求めると、沙月が話し始めた。
「少し前なんだけどね、夜にランニングしていた人が、道で火の玉を見つけたの。そうすると、その火の玉がフワーっと近づいてきて、体に入っちゃったらしいの。結局その人は、家に帰らなくて行方不明になったっていう事件だよ。」
不確実性の高い要素の多い情報に、怪しさを感じた盛弥は、いろいろ聞いてみることにした。
「それって、どこの情報?」
「私がいつも見てるサイトだよ?まあ、中には嘘みたいなやつもあるから何とも言えないけど、今回と似てるかなと思ってね。」
盛弥の怪しさへの懸念が伝わったのか、沙月が追加で答えてくれた。
「そうなると、2人はこの後行方不明になるわけだけど?」
常長が指摘する。その時、オニコが閃いた。
「誰かの家に泊まればいいんじゃ?例えば、セーヤの家とか?」
「そうか。2人を見張るのか。って、眞利だけならまだしも、4人も寝れないぞ?」
オニコの意見に理解を示しながらも、しっかりツッコむ盛弥。その時、今田が手を挙げた。
「じゃあ、沙月ちゃんはうちに来なよ。」
眞利と沙月の要観察という事でまとまった一行は、その夜は一旦解散ということになり、後日2人の事で打合せということになったのであった。
盛弥は、何ともない様子でニコニコしている眞利を連れ帰ると、家に着くなり玄関で抱きつかれた。
「盛弥、ごめんね。ありがと。」
靴を脱いだ盛弥が、ん?と振り返ると、背中にまわした手に力を入れて、泣き出しそうになるのを堪えている眞利が目に入る。眞利は、盛弥に体を預けたままゆっくり話しはじめた。
「まずは、謝らなきゃ。今日は、軽率な行動しかしてないよね・・・ごめん。迷惑かけちゃって。」
「いいよ。気にすんなって。それより、大丈夫か?痛いとことかないか?」
震えながら涙を堪えて、顔を埋めている眞利の頭を優しく撫でる。すると、ストッパーが外れたのか、とうとう泣き出してしまった。やがて、泣き疲れて寝てしまった眞利をベッドに寝かすと、今度はオニコがスッと抱きついてきた。
「セーヤ、今日は守ってくれてありがとう。」
「いいや、お前のローブのお陰だ。ありがとな。」
眞利より低く、盛弥の胸ほどの高さにあるオニコの頭を優しく撫でる。撫でられて嬉しくなったオニコは、一緒に寝ようと言って盛弥をソファーに連行する。盛弥が仰向けに横になると、馬乗りになったオニコが、物欲しそうな目で聞いてくる。
「血、貰ってもいい?」
「ああ、いいよ。」
盛弥が頷くと、いただきますと言って左の首筋に噛み付かれる。盛弥の意識は、いつもここで無くなる。そして、今日も例に漏れず消えていくのだった。
翌朝、盛弥が目を覚ますと目の前に眞利の顔があった。
「ほえ?眞利?」
眞利はフフッと微笑むと、小さく「ありがと」と言って顔を近づけてくる。状況が飲み込めていない盛弥は、されるがままに唇を奪われるだけだった。眞利は、顔を上げると人が変わったように今まで通りになった。
「ほら、早く起きて。講義遅れるよ?」
「え?今日って、土曜日だよな?」
盛弥が初耳の情報に異議を唱えると、眞利が怪訝な顔をする。
「もしかして、掲示板もメールも見てないの?来週の世界文化史の授業、休講にするから今日補講やる予定だよ。」
「マジかよ。だるいやつじゃん。」
自分が確認しなかっただけなのだが、当日に土曜補講の存在を知るとやる気はガタ落ちだ。しかし、そんな盛弥を何が何でも出席させようとする眞利と、その背中を押すオニコによって引きずり出されたのだった。渋々学校にやってきた盛弥は、教室で何やら忙しそうに書き物をしている恭平に声をかけた。
「うぇい。何してんの?」
「んお?おお盛弥か。お前、これできた?」
恭平が見せてきたのは、別の授業の課題プリントだった。
「いやまだだ。正直、手も付けれてない。」
「えっマジで?見せてもらいたかったんだけどなぁ。そんな忙しいのか?」
その課題が出たのが今週の火曜日だったので、流石に遅くないか?と言いたいのだろうと察した盛弥。しかし、オニコの世話とバイト、それに投影魔法の練習に時間を取られたため、いろいろ後回しになっていたのだ。帰ったらやらないとな。というやり取りを恭平としていると、怯えた顔の眞利に肩をたたかれた。
「盛弥、さっちゃんが来てない・・・。」
沙月は、いつも盛弥達と一緒に授業を受けている。あまりサボるような性格ではないので、土曜補講にもそれなりに早めに教室にいても不思議はない。
「恭平、沙月ちゃん見てない?」
「あー、そういえば見てないな。いないの?」
そんな感じでそわそわしていると、教授が入ってきてチャイムが鳴った。
「えー、皆さん。すみませんね休日に出てきていただいて。それでは、始めていきたいと思いますがその前に、」
ここまで教卓で話すと、前に進み出てきた教授は何かが宿ったように目が赤く光った。
「皆さん、ご協力感謝します。それでは、私の贄となっていただきますね。」
そう言うと、教授の右腕から極太針が出現する。それを見た学生たちが、悲鳴を上げて教室の出口に殺到する。しかし、狭い出入り口に阻まれて人だかりができる。
「おい盛弥!逃げるぞ!ありゃ蚊人だ!殺されるぞ!」
慌てふためきながらも、盛弥に声をかける恭平。しかし盛弥は、出口に殺到している学生に近づく教授を見据えて、教室の中央の開けた通路に進み出る。
「お、おい盛弥。まさか、お前っ・・・痛っ!」
盛弥を止めようと近づこうとする恭平を、眞利がひっぱたいて止める。
「眞利ちゃん、痛てえよ!オタクの彼氏、バカなの?」
「盛弥は私が絶対連れ戻すから、今は後ろの窓から逃げて!」
「それはなおさら・・・。」
「早く!!」
眞利の語気に押された恭平は、何とか窓から脱出する。一方盛弥は、右手に魔力を集中させ、投影魔法を試みる。オニコのいない状況だが、何とか魔力の流れを制御する。そして、手には竹刀が投影された。それを確認した眞利がスリングショットを携えて盛弥の後方に陣取る。その場の魔力の流れを感じたのか、自分を敵対視する視線を感じたのか、教授が盛弥の方を向く。学生達は、教室から脱出するのに必死で目もくれない中、教室の中央では戦闘が始まった。
「おやおや、このように抗ってくる人間が居るとは。ククク。ゾクゾクしてきますねぇ!」
完全に狂気に満ちた目で突っ込んでくる元教授。その眉間を、盛弥の後ろからゴム弾が直撃する。体勢が崩れた隙に、盛弥が脳天を叩く。しかし、その攻撃を回避した相手は、盛弥に向けて針を突き出す。咄嗟に針を竹刀で押さえると、ゴム弾が顔を直撃する。
「それにしても、一方的過ぎないか?」
盛弥がそう思った時、何か違和感を感じて少し距離を取る。その時、元教授の体から蒼炎が立ち上る。元教授がもがき苦しみながら、盛弥に向けて青い炎の玉を発射する。盛弥は、突然のことに動けなかった。そして、炎の玉が盛弥に近づいた時、教室の外に暗雲が立ち込め雷が鳴りはじめた。教室の入っている棟の避雷針に雷が落ちると、盛弥の目の前に稲妻が走り、濃い緑のローブが翻る。
「セーヤ、危ない。」
「オニコ!」
オニコは、盛弥の危険を察知して駆けつけたのだった。そして炎の玉を跳ね返すと、蒼炎に身を焼かれて、もがき苦しんでいる相手を大太刀で斬りつけた。オニコは、炎が収まってから血を抜こうと思っていたようだが、そうはいかなかった。元教授は、蒼炎に焼かれたまま消滅し、後からクザスが入ってきた。
「さすがね。でも、血はやらないわ。そこそこの数の血を得るチャンスを潰されたのだから、これくらい当然よね?さて、次を考えないと。」
そう残して立ち去ろうとするクザス。盛弥とオニコは、逃がすまいと後を追う。眞利もその後を追いかける。校舎の外まで追いかけると、不意にクザスが立ち止まる。
「いい加減しつこいわね。そんなに消し炭になりたいのかしら。」
「なあ、クザスとか言ったよな。どうしてこんなことするんだ?」
盛弥は、クザスに話しかけた。
「こんな事っていうのは?人間を襲う事?それともあなた達と争う事かしら?」
相変わらず、人間で言えば大人の女性的な態度で受け答えるクザス。
「その選択肢なら、両方だ。けどな、お前達の行動全てが疑問なんだよ。そもそも何で人間に成り代わろうとするんだ?」
「それは、私にも分からないわ。リンキ様が仰るんだもの。私が動くのに理由は要らないわ。」
若干熱の入った口調の盛弥に対して、ほとんど態度を変えないクザス。そんな彼女の論理は、自分の意思を含んでいない。まるで、怪しげな集団の長を崇拝している人のようだった。
「リンキ、それがお前の主人か?」
「主人というものでもないのだけれど、従ってはいるわね。彼の邪魔をしようとするなら、容赦なく潰してあげるわ!」
盛弥達から敵対の意思が消えないと判断したクザスは、自分の前に炎の柱を立てる。
「この女を見て絶望なさい!」
そう言うと、炎の柱の中から1人の少女が現れた。その見覚えのある少女に3人は息をのむ。その隙にクザスは炎を纏って消え去った。
「さっ、ちゃん?」
眞利がやっとの思いで声を出す。その少女は、眞利の親友の沙月だった。眞利の親友の名前を呼ぶ声が、その場に響き渡った。
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