第六話 鍛錬と協力
オニコの提案で、戦闘用に投影魔法を練習し始めた盛弥。しかしトントン拍子とはいかず、先の長さを実感する。そんな中、蚊人幹部のクザスが2人の前に現れる。手を引くように警告されたが、オニコのためにあらがうことを決めた盛弥は、オカルト研究会へ情報収集に向かう。そこで部長の常長怪斗に提案された内容とは?
登場人物4
クザス 蚊人幹部の一人。炎を操る力を使う。
オニコが言う投影魔法とは、頭の中で思い描いた物を実際に手元に出すというものらしい。要するに、事前の製図やプログラミングのいらない3Ⅾプリンターのようなもののようだ。話だけ聞けば、非常に便利な魔法に聞こえるが、世の中そんなうまい話は簡単に転がってはいない。この魔法には、出せるものの大きさに制限がある。例えば、自動車やビルといった大きなものは出せない。出せるものと言えば、剣や銃などの武器類に簡単な形状をした食器や文房具などの、手のひらサイズを少し超えるぐらいのアイテムといった具合だ。盛弥がこの魔法を使えるようになろうとする理由は、戦闘で使う武器を作る為なので、これと言って問題になることはない。盛弥は、オニコに習得を提案された翌日から練習を始めた。
「オニコ、この魔法のコツって何かあるの?」
「まずは、とにかくイメージを膨らませること。最初は分かりやすくこれを投影してみて。」
オニコはそう言うと、大太刀を取り出す。盛弥は、大太刀を細部まで観察して特徴をつかむと目を閉じてイメージする。オニコの大太刀は刀身の幅が広く、柄も太めでそこそこの重量がある。頭の中で形をイメージすると、オニコに言われたとおり右手に意識を集中させる。オニコは、魔力操作の補助として盛弥の左手を握ってくれている。右手に意識を集中させると、体の中を何かが右手へ向かって流れるのを感じた。流れが止まり目を開けると、右手には何もなかった。
「大抵、最初はそうなるよ。どんな感覚になった?」
「そうだな。何かが体の中を流れているような気がした。」
「その流れてるのが魔力。今は私が補助してるから大丈夫だけど、セーヤが1人でやるとまず暴走する。」
「マジか!危ないな!どれくらい練習するんだ?」
オニコによると、具体的な期間は人によって違うため一概には言えないが、毎日やっていけば早くても1カ月程度かかるらしい。まず、オニコの補助有りで大太刀を出せるようになるのが目標。そこまでくれば、補助なしでもある程度の物は出せるようになるらしい。毎日コツコツ続けるのが近道のようだ。
投影魔法の訓練を始めて半月。毎日訓練を続けていると、何回かに1回成功する程度のクオリティには上がってきた。しかし、事件は突然起こった。ある日の夜、今日は気分を変えるために違う場所で練習しようと、近くの公園までやってきた。成果はいつもと変わらないまましばらく練習していると、魔力を感知したのかどこからともなくスーツ姿の女性が現れる。しかし、その女性の胸ポケットには以前対峙した男性にはなかった鳥の紋章があった。
「あなたね。私達の計画の邪魔をしようとしているのは。」
「なっ!お前は誰だ?」
「フフッ。私は次期文明創造組織蚊人幹部、クザスよ。」
彼女は、右手の甲から針を伸ばすと舌で舐める。何ともサイコパス感の強い印象を受けた盛弥だったが、敵の攻撃に備えて身構える。投影魔法は未完成。オニコが背中の大太刀に手を添え、少し前に進み出る。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。今日は警告しに来ただけ。今後私達に一切手出しをしなければ、こちらも何もしないわ。命が惜しければ、手を引く事ね。」
クザスと名乗った女性は、そこまで言うと炎で全身を包みどこかへ消えてしまった。
「セーヤ。投影魔法の習得まで猶予がなくなったね。」
「ああ、そうだな。」
クザスに忠告されたが、こちらもオニコを人間に戻して元の時代に返すために、手を引くつもりなど毛頭ない。その日はとりあえず帰宅することにして、翌日眞利や沙月に相談してみることにした。
翌朝7時過ぎに起床した盛弥は、まだ寝たままのオニコの朝食を机に置き、早々と大学へ向かった。大学へ着くと、一目散に食堂へ向かう。昨夜、帰宅すると同時に眞利へ呼び出しの連絡を入れておいたからだ。食堂へ入り、視線の先に眞利を捉えるとそこへ向かう。
「あっ、おはよう盛弥。どうしたの?こんな早くに呼び出して。」
「ごめん眞利。実はさ、蚊人関係で進展があってさ。」
盛弥は、昨夜の出来事を事詳細に話して聞かせた。眞利は、盛弥の話を軽くメモすると、沙月に聞いてみようと言って、食堂を後にした。眞利によると、沙月達オカルト研究会も蚊人の情報を集めているようだ。オカルト研究会に着くと、昨夜の情報を沙月達に提供した。
「幹部のザクスね。鳥の紋章を付けてたっていうのは本当?」
「ああ、間違いない。」
「となると、面白いことになってきたね。ですよね?部長。」
沙月は、オカルト研究会の部長、常長怪斗に話を振った。
「そうだね。まだピースが揃ってないけど、確率は上がったね。」
どういうことなのか説明を求めると、常長はホワイトボードを引っ張り出してきて話し始めた。
「まずは、オカルト研究会が得ている情報を共有しよう。我々は、蚊人の幹部の一人にたまたま遭遇した。高平君が出会ったというのは女性だったという話だが、我々は男性に出会った。彼は幹部のブゲンと名乗り、胸ポケットには亀の紋章を付けていた。彼らが接触してきた目的は、高平君と同じで警告だった。これ以上嗅ぎまわるなと言われたよ。」
常長の言うことが正しいとすれば、中国の四神獣に倣って幹部は後2人、そしてボスが1人いることになる。常長はそこまで言うと、ため息をついて沙月にその先を話させた。
「オカルト研究会としては、対抗手段がない以上、今後の調査には常に危険が伴うと思うの。もし、高平君に対抗手段があるなら協力してほしいの。ダメかな?」
盛弥は、オカルト研究会の協力が得られるのであればと了承した。そして、決して口外しないことを条件に、オニコと投影魔法の事を話した。
オカルト研究会を後にし、その日の授業を終えた盛弥と眞利は、帰りながらお買い物デートをしようと大学の近くにあるショッピングモールに来ていた。
「そうだ盛弥。これから家に行ってもいい?」
「え?俺、バイトあるけど?」
「いいよ。オニコちゃんいるでしょ?」
あっさりいなくてもいい宣言をされた盛弥は少しショックを受けるが、オニコに用があると言われて了承した。眞利は、建物内の手芸用品店で布を何枚か購入すると、盛弥と一緒にスイーツを食べてから家に来た。盛弥はこの後コンビニのバイトがあるので、家をオニコに任せるとそそくさと出て言った。
「オニコちゃん、ちょっと来て。」
眞利はオニコを手招きすると、全身を採寸し始めた。
「マリ、何してるの?」
「ん?お洋服作ってあげようと思って。いつまでも家の中にいたら、つまらないでしょ?」
どうやら眞利は、オニコの外出用の服を作ろうとしているようだ。採寸し終わると、オニコが見守る中今日の出来事を伝えながら、慣れた手つきで縫っていった。
午後9時。盛弥がバイトを終えて帰宅すると、フード付きの暗い緑の全身ローブに身を包んだオニコを眞利がスマホのカメラで撮影していた。
「お前ら、何してんの?」
「お、お帰り。オニコちゃんの外出用ローブを作ってみたんだけど、どう?」
「マジか!」
眞利は、手先の器用な所がある。オニコが来ているローブも、市販のものと言っても疑わない程、きれいに仕立てられていた。彼女によると、内側には日光を遮る素材を使っていて、顔さえ隠せれば一切入ってこなくなる様だ。着心地に関してはオニコも大満足のようで、とても嬉しそうにはしゃいでいた。こうして、翌日の早朝にオニコの初外出実験が実施されることになり、それまでは3人で眠ることになった。
お読みいただきありがとうございます。
今後は、不定期更新になると思いますが、お付き合いよろしくお願いします。
引き続き、感想や評価等お待ちしておりますので、宜しければお聞かせください。




