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求血記  作者: 香双狐
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第三十九話 蚊人消滅

リンキの前に、オニコに後を託して気絶してしまった盛弥。後を託されたオニコも、リンキに押され気味になってしまう。しかしそこに、遅れてやってきた眞利が合流し、オニコの援護に入る。果たして、リンキを倒すことはできるのか?いよいよ最終決戦も大詰め。そして、オニコや沙月達は人間に戻れるのだろうか?

 夜の市街地。人気のない路地裏に、蚊人(ぶんじん)のリーダー・リンキがいた。背中から生えた、8本の触手を周りに漂わせ、目の前に立つ大太刀を携えた吸血鬼の少女と対峙している。彼女だけではない。彼女の仲間である男も、自分に立ち向かって倒れた。彼らが自分の身を犠牲にして倒れていく姿を見て、リンキはその行動がどうしても理解できない。目の前の吸血鬼の少女は、そんなリンキにこう言った。

「信頼できる仲間がいないから理解できない。」

その言葉を聞き、動揺しているところに背後からの銃撃を受けた。

「仲間、だと……。」

「そう。仲間。」

前屈みに倒れ、手をついているリンキの元に、オニコが歩み寄ってくる。足音がやけに響いてくる。

「仲間を信頼して背中を預けたり、別の局面を任たりする。あんた達に足りないのは、そういう所。人間性が欠けているのに、人間に成り代わろうなんて、そんなのは無理。」

リンキから少し離れた場所で、足を止めたオニコ。大太刀を握りなおし、とどめを刺すべく魔力を流す。

稲妻吸血(ライトニング・ヴァンピール)。」

飛び上がって大太刀を振りかぶり、落下の勢いと共に魔力を放出してリンキを斬り裂く。

火炎弾(フレイムバレット)!」

その様子を見た眞利も、援護射撃を行う。オニコが斬り終わると同時に着弾し、リンキの体が炎に包まれた。雷による引火に弾丸の炎が加わり、リンキを燃やし尽くさんと激しく燃え盛る。やがて炎がおさまり、黒焦げに燃え尽きたリンキが倒れる。

「やった!?」

眞利が離れた位置で小さく呟いたその時、黒くなって空中に停止していた8本の触手が、針もろとも復活して一直線に上空へ伸びていく。そして、建物の屋根の上の人影を貫いた。

「さっちゃん!」

遠くから触手を追いかけた眞利のスコープは、オニコに合流しようとやってきた沙月の体を、触手が貫くのを捉えた。丁度、心臓の辺りを貫いたのか、前後に彼女の血が飛び散る。沙月の血からエネルギーを吸い上げたリンキは、みるみるうちに回復する。

「やはり強化体の血は、人間のそれより何倍も回復スピードが早いな。」

そう言うリンキに照準を合わせたまま、怒りのあまりワナワナと震える眞利。スリングショットのゴムを引き絞った右手を離そうとした時、どこからか声が聞こえて、スコープ内のリンキが、突然炎に包まれた。

「奥義!雀流憑依(じゃくりゅうひょうい)!」

「え?」

沙月へ目をやると、心臓を貫いた触手を抜かれて倒れ込んでいたはずの彼女が、目を赤く光らせて浮いていた。眞利が、聞き覚えのある技名に記憶を辿ると、1つの結論に行き着いた。

「クザス…………!」

しかしそんな眞利を置いて、沙月に憑依したクザスは、リンキに攻撃を仕掛けた。

爆炎(ばくえん)っ!」

更なる炎の追加に、リンキが(うめ)く。

「ぬあっ!なぜ、お前が出て来るっ!クザス!」

リンキの問いに、クザスが屋根の上から答える。

「自分の強化体が、被害を受けたからかしら?ノーマークだったおかげで、非常に動きやすかったわ。」

クザスに答えをはぐらかされ、身を業火に焼かれ、声を出すのを諦めたリンキ。

「フッ。ここでおしまいね。さっさと消えなさい!爆烈業火(エクスプロージョン・フレア)!」

クザスはそう言うと、頭上に大きな炎の塊を生み出した。自分の身長ほどの直径のそれをリンキに向かって放つと、炎の塊がリンキを包んで、豪快に爆発した。近くにいたオニコと奥野は爆風で吹き飛ばされ、離れている眞利も強い熱風を浴びた。熱風がおさまり、眞利が顔を上げると、眼前に沙月(クザス)が立っていた。クザスへの過去の恨みから、思わず右手でゴムを引き絞る。しかし、目に映る沙月(クザス)の姿が涙で滲む。このままゴムを離せば、クザスを倒せる。しかし、沙月の姿をしているのでやりづらい。そしてクザスを倒した時、同時に沙月まで殺してしまうかもしれない。その怖さが、右手を止めた。

「私にその気があれば、あなたの命は無かったでしょうね。」

「やめろ!さっちゃんの姿で喋るな!」

「彼女を救う手段はあるのかしら?」

話しかけてきたクザスに、思わず罵声を飛ばすが、彼女の一言にハッとさせられる。

「今は私が憑依しているから、生きているけれど、憑依をやめたら死んでしまうでしょうね。」

「………………。」

蘇我医院に連れて行けば、なんとかなるかもしれないと思った眞利だったが、必ず助かる保証はなく、言葉に詰まる。そんな彼女に、沙月(クザス)が言った。

「炎の弾で、私を撃ちなさい。私が生命エネルギーになるわ。」

「でも……!」

「大丈夫よ。今の私は、精神が彼女の体に乗ってるだけ。彼女の体に、炎の耐性を与えておけば、精神だけ燃えて消えるわよ。」

それを聞いた眞利は、緊張の面持ちで右手に意識を集中させる。

「クザス、ありがとう。さっちゃん、ごめんね。」

そう静かに呟いてから、弾に魔力を込める。

火炎弾(フレイムバレット)。」

右手のゴムを放し、燃え盛る弾丸が沙月(クザス)に迫る。着弾した炎は、沙月の体を包み込む。クザスの精神を焼き尽くした炎は、

 翌日。盛弥が目覚めると、見知らぬ天井が目に入った。

「あ!起きた?」

そこに、聞き慣れたオニコの声が聞こえた後、視界の左側からオニコの顔が現れる。

「おはようセーヤ。気分はどう?」

盛弥が首を左に向けると、服を着ても隠しきれない量の包帯を巻いたオニコがいた。見た目の割に元気そうなのが気になったが、とりあえず言葉を発する。

「とりあえず大丈……痛っ!」

体を起こそうとすると、全身に激痛が走った。

「まだ起きちゃダメだって。先生言ってたよ。」

「ここは?」

寝たままであれば、会話は問題なさそうだと分かり、そのまま続ける。

「病院だよ。いつもの。」

要するに蘇我医院だろう。

「みんなは?」

続けてそう聞くと、呼んでくると言って出ていった。数分後。オニコが連れてきたのは、医師の蘇我だけだった。

「やあ、目が覚めたかい?」

「はい。あの、怪我の具合ってどうなんですか?」

相手が蘇我ということもあり、まずは自分の容態について聞いてみた。

「そうだね。結構重傷だよ。右腕の骨折と全身の打ち身、それに左腕も小さいヒビが入ってる。全治には結構かかりそうだね。大きい病院に紹介状を書いておくから持っていくといい。」

「……ありがとうございます。」

予想以上の重傷に思わず絶句してしまう。しかし、衝撃を受けてはいられなかった。

「あの、オニコはどうなんですか?」

オニコの怪我について尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「ああ。彼女は、全身に擦り傷が多くてね。見た目が大袈裟になってしまった。」

思いのほか軽傷であることに安堵する。

「眞利と沙月ちゃんは?」

「君のガールフレンドの方は問題ない。至って健康だよ。聞くところによると、今回のMVPらしいけどね。」

俄然気になる内容をブッ込まれた気がするが、ひとまず置いておいて、沙月の様子を尋ねる。

「友達の方は、衰弱こそしているものの、目が覚めれば大丈夫そうだ。今別室で休んでいる。ガールフレンドが付き添っているよ。」

どおりで、1番に駆けつけてきそうな眞利が来ないわけだ。そういう事かと納得していると、蘇我の携帯が鳴り、電話をしながら出て行ってしまった。

「じゃあセーヤ、マリを呼んでくるね。」

「お、おう……。」

オニコもそう言って出て行った。しばらく1人で寝ていると、自分がオニコに後を任せて気絶した後の事が、非常に心配になった。傷だらけのオニコと、衰弱して寝たままだという沙月。どうして2人がそんな事になっているのか、色々と考えは浮かぶものの、どれもしっくりこない。1人で悶々としていると、眞利が勢いよく駆け込んできた。

「盛弥!大丈夫!?」

「痛ててててて!!」

寝ている盛弥に、布団の上から勢いよく抱きつく眞利。しかし全身打ち身の盛弥には、激痛が走る。

「あっ!ごめん。つい……。」

謝る眞利に、苦笑いをしながら答える。

「まあいいよ。気持ちは分からんでもないし。」

「本当にごめん。でも、目が覚めてよかった。先生は何て?」

そう聞く眞利に、盛弥は蘇我から言われた事をそのまま伝えた。

「そっか。じゃあ、退院しても身の回りの世話が必要だね。オニコちゃんだけじゃ色々大変だろうから、私も手伝うね。」

「お、おう……。悪いな……。」

眞利の勢いに押され、歯切れの悪い言葉しか出なかった。

「あ、そうだ。なあ眞利、俺が動けなくなってからの事、聞いてもいい?」

眞利は分かったと言って、自分が到着した時には盛弥が気絶していて、オニコがリンキと対峙しているところから話し始めた。

「……まじか……。」

話を聞き終わった盛弥の反応は、一言それだった。盛弥としては、クザスが最後にいいところを持って行った気はするが、沙月の生きるエネルギーとなるべく消えた事に、自分達の後始末をした様な気がした。

 数カ月後。打ち身が回復し、骨折の手術も済んだ盛弥は、オニコを連れて蘇我医院にやってきた。中に入ると、眞利に付き添われた沙月と凍結状態になっている強化体被害者が処置室に集められていた。

「おっ、来たかい?それじゃあ早速だが、ここに横になってくれ。」

蘇我はそう言って、オニコをベッドに促した。

「それじゃあ、今から麻酔を打つ。君達は、外で待っていてくれるかい?」

盛弥と眞利は、処置室の外にある椅子に腰掛けた。今からオニコ達は、人間に戻るための薬の投与を受ける。どんな副反応があってもいいように、事前に麻酔をしておくのだとか。

「盛弥。腕、大丈夫?」

首から吊った盛弥の右腕を見て、眞利が聞いた。

「ああ。手術も終わったし、ギプスが外れるのももう少しだってさ。まあ、リハビリは残ってるけど。」

「そっか。順調そうでよかった。ほんとは、もっと傍に居てあげたいんだけど、私もいろいろ忙しくて……。」

沙月の世話やらなんやらで、最近忙しくしているのを知っている盛弥は、はにかむように手を振って許す。

「ねぇ、盛弥。みんな、戻れるよね……?」

「そうだな。俺は信じるよ。」

皆を心配する眞利の肩を抱いてやると、頭を盛弥の肩に預けてきた。心配ないというように頭を撫でると、そのまま大人しくなった。その一時間後。処置室から蘇我が出て来て言った。

「ひとまず、投薬は終了だ。今日は帰っても大丈夫だよ。今後何かあれば、相談してほしい。」

盛弥と眞利が処置室に入ると、目が覚めたオニコと沙月がベッドに上体を起こして座っていた。他の被害者は、まだ寝ているようだ。

「さっちゃん、大丈夫?」

眞利が沙月に駆け寄る。

「うん。ありがと。大丈夫だよ。」

沙月が微笑んでいるのを確認した盛弥は、オニコの元へ向かう。

「オニコ、体の具合はどうだ?」

「うん。元気だよ。特に変なとこはないよ。」

2人とも特に不調はないようだ。他の被害者は、蘇我が対応してくれるとのことで、盛弥と眞利はオニコと沙月を連れて帰宅した。

 数カ月後。自宅のボロアパートが取り壊される事になった盛弥は、眞利の家に転がり込んでいた。

「まさか、こんなに早く一緒に暮らせるとはねー。」

キッチンでコーヒーを淹れながら、眞利がそう言った。

「悪いな。急な話で。それに、オニコまで引き取ってくれて。」

盛弥がそう返すと、微笑んだ彼女がコーヒーを運んできてから抱きついた。

「いいの。オニコちゃんの事、面倒見るって決めたんでしょ?じゃあ、私も付き合うわよ。」

そう言ってキスをしてくる。一緒に住んでからというものの、こうした愛情表現が目に見えて増えた。眞利が嬉しさを感じている証拠だと、盛弥は受け取っている。眞利がキスに夢中になっていると、ドアホンが鳴ってドアの開く音がした。

「マリ、さっちゃん連れて来たよって……。」

「もう……。あんたらいい加減にしなよ。2人っきりだからって、油断しないこと。」

カシャッというシャッター音がして、沙月が写真を撮る。

「あ!さっちゃんダメ!消してよ!」

眞利が、沙月に近づいて迫る。

「俺は、やられてる側なんだがって、おい!」

盛弥が呟いていると、今度はオニコが抱きついてきた。

「眞利、彼氏取られるよ?」

その光景を見た沙月は、揶揄(からか)うように眞利に教える。眞利が盛弥の方を向くと、オニコが気持ちよさそうな顔で抱きついていた。

「ちょっ!オニコちゃん!?ダメだよ!?」

顔を真っ赤にして言う眞利。

「高平君も、罪な男だねぇ。どっちか泣かせたら、許さないよ?」

ニヤリと笑みを浮かべる沙月。その笑みに、ため息を返すしかない盛弥だった。あれから、蚊人(ぶんじん)の被害は報告されていない。リンキの消滅によって、市街地で一般人を襲っていた蚊人(ぶんじん)も消滅したようだと彩子から聞き、彼女が発表した記事も読んで知った。時空研究所の椎名によると、新たな蚊人(ぶんじん)の誕生も確認されていないとのことらしい。彩子から、一連の事件を記録しておきたいとの申し出を受けた盛弥は、全ての記録を書き記した文書の題名に『求血記』と書き記した。オニコを人間に戻す事を最終目的として行った、自分達のオリジナル戦記である。

皆さん、ここまで読んで頂きありがとうございます。

本作「求血記」は、今話をもって完結となります。長らくのお付き合いありがとうございました。10万字を目標に更新してきたので、ひとまず目標達成できて嬉しいです。今後も、話全体の修正等を予定していますので、よろしくお願いします。

また、同じく小説家になろうにて連載中の小説「剣の強者のドラゴン育成」他も、併せてよろしくお願いします。

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