第三十八話 自己犠牲
新しく増殖した蚊人によって、一般人が被害にあう事件が再び発生した。それにつられるような形にはなったが、最終攻勢に出た盛弥達。しかしリンキは、本命として戦力をつぎ込んだ蚊人本部にはいなかった。盛弥と奥野の前に現れたリンキを足止めするべく、盛弥は一人で立ち向かう。そんな彼の行動に、リンキが抱いた疑問とは?
近頃の市街地は、夜でもそこそこ明るい。しかし、現在盛弥がいるこの路地は、長めの間隔で置かれた街灯の灯りがあるだけだ。その狭い路地に、禍々しいオーラを放つリンキがいる。リンキが大量に生成した蚊人は、盛弥と奥野には目もくれず、人混み目掛けて散り散りに去っていった。盛弥は、奥野に指示を飛ばす。
「遊馬!悪いけど蚊人の方頼めるか?」
「高平さんはどうするんですか?」
「俺は、こいつを倒す!」
盛弥の言葉に、リンキが笑いだす。
「フハハッ。貴様、見たところあの吸血鬼はいないようだな。それで私に勝てると?」
それを聞いた奥野は制止しようとする。
「無理です!高平さん!」
盛弥は、奥野に歩み寄って言った。
「遊馬。別に俺だって、倒せるなんて思ってない。オニコがいたら、任せたいくらいだよ。でも、あいつらが戻ってくるまでこいつを野放しにしといたら、どうなるか分かったもんじゃない。だから、こいつの足止めが必要なんだ。街の方を頼む。」
そう言って背を向ける盛弥。
「分かりました。でも、絶対に無理はしないでください。やばかったら、とりあえず逃げて下さい!」
自分では止められないと思った奥野は、それだけ言い残して迷いを振り切るように走り去った。
夜道を、一台の四駆車が疾走する。車内は全員、焦りに焦っている。
「本部にいないとかマジかよ!早く戻らないとやばいぞ!」
運転手の常長は、ブツブツ言いながらアクセルを踏み込む。
「オニコちゃん!反応まではどれくらいかかりそう?」
眞利が、オニコに問いかける。
「まだ薄いからもう少しかかりそう。とりあえず駅の方に向かって。」
「っていう事は市街地だね。私達、先に行こうか?」
沙月が、オニコを見ながら眞利に提案する。
「快斗さん、どう思いますか?」
「あ?そうだな。この車より早いってんならいいんじゃないか?直線で行ける分距離は縮まるし、自由も利く。」
眞利の質問に、ハンドル操作とアクセルを緩める事なく的確に答える常長。
「分かった。2人とも、別行動で。盛弥達を助けてあげて。私達も後から行くから。」
オニコと沙月は、眞利に頷きを返すと、常長が車を路肩に寄せた所で飛び出していった。
「お願い。間に合って!」
眞利は、懸命に盛弥の無事を祈るのだった。
「……行くぞ。」
その様子を見た常長は、それだけ言って車を出した。
市街地に響き渡る悲鳴。その悲鳴を追いかけていくと、必ずと言っていいほど倒れた人に出会う。しかし、今までの蚊人による犯行とは異なり、被害者の周りには血が飛び散っている。奥野は、血によってより凄惨な光景になった通りを、悲鳴を追いかけてひたすら走った。そして、追いついた先に待っていたのは、1人の怯える女性を6体の蚊人がホバーリングしながら取り囲む光景だった。
「くそっ!」
奥野は、刀を引き抜いて走った。まずは、目の前にいる1体に斬りかかるため、刀に魔力を集中する。
「凍結刃!」
冷たく研ぎ澄まされ、切れ味の増した斬撃が、蚊人を切り裂く。悲鳴をあげる間も無く凍らされた蚊人が転がる。他の5体は、その様子を見て奥野に狙いを定めた。
「この数を1人で捌けるのか?」
自分に問いを投げかけてみると、意外にも自信が顔をのぞかせた。自然と口角が上がり、やる気が出る。魔力を集中させ、凍気を纏わせた刀を握りしめ、相手の出方を伺う。すると、痺れを切らしたように一体が叫び声を上げた。それと同時に、羽根の動きが速くなり、奥野目掛けて突っ込んできた。それに続いて、残りの4体も突っ込んでくる。最初の一体が、奥野に近づいた所で腕の針を突き出す。刀でそれを払うと、蚊人は凍りついて転がった。しかし、後続が絶え間なくやってくる。2体目を同様に凍らせ、間髪入れない3体目の攻撃をかわし、4体目を凍らせて転がして3体目を巻き込ませる。しかし、奥野が5体目の攻撃に身構えた所、5体目の姿が見えない。周囲を警戒していると、突然警戒を促された。
「危ないっ!」
自分の背後で、金属同士がぶつかる音がする。驚いて振り返ると、炎が5体目を焼き尽くしていた。
「危なかったわね。」
聞き覚えのある声に振り返ると、赤い忍び装束のクノイチ、沙月がいた。
「先輩!来てくれたんですね!」
「私達の方はハズレだったからね。奥野君は市街地担当?」
「はい。高平さんを止めたんですけど、止められませんでした。」
沙月は、肩を落とす奥野の背中を軽く叩いて言った。
「まあ、彼なりの無難な判断よね。でも大丈夫。さっき、オニコちゃんが加勢しにいったわ。眞利もそのうち着くだろうし、私達も街を片付けて加勢しよう。」
「……はい。」
沙月の提案に、幾らか希望が見えた奥野は、前を向いて再び悲鳴を追いかけ始めた。
夜の市街地のあちこちで、様々な悲鳴が上がる。その悲鳴を聞き、それと対照的な色とりどりの灯りを見下ろしながら、稲妻が建物の上を駆け巡る。
「大きい反応は……こっち!」
蚊人の反応があちこちで確認できるが、オニコはとてつもなく大きい反応へと一直線に駆けていった。しばらく行くと、大通りから少し外れた路地で盛弥とリンキが対峙しているのが見えた。
「セーヤ!」
剣を構える盛弥に、リンキの触手が襲い掛かる。剣で攻撃を避けるも、盛弥では先端の針を弾くのが精一杯のようだ。それも針の圧に負け気味である。そしてついに、圧をまともに受けて後ろに吹っ飛ばされ、後ろの壁に叩きつけられて座り込んでしまう盛弥。そんな彼に8本の針を突きつけ、止めを刺そうとするリンキ。それを見たオニコは、瞬間的に加速してリンキの触手を切断する。
「雷迅剣!」
8本の触手を斬り落として着地したオニコは、盛弥とリンキの間に入ってリンキの攻撃に身構える。
「オニ……コ……。悪……い……。」
ぼやける視界にオニコの姿を確認した盛弥は、一気に緊張の糸が切れてまぶたの重さに負ける。
「フッ。ようやくお出ましか。まさかここまで粘られるとはな。」
リンキはオニコに目をやると、触手の針を再生して攻撃の準備に入る。そして、1本の触手をオニコに向かって飛ばし、先制攻撃する。オニコは、その攻撃に合わせて跳び、上空に移動する。しかし、移動した場所に次の触手が飛んできて回避することを続ける。そのせいで、次第にリンキとの距離を広げられるオニコ。
「雷迅剣!」
オニコは、リンキとの距離を縮めるべく加速する。
「うっ……!」
しかし途中で、横から触手の一撃を受けて体勢を崩される。
「ふんッ。止めだ。」
体勢を整える前に8本の触手で捕らえられ、身動きを封じられるオニコ。リンキは、蹴りの姿勢をとると足裏から針を1本生やす。そのままオニコに向かって蹴りを放つ。針がオニコに迫り、突き刺さる直前。リンキの正面から炎の弾丸が迫ってきた。
「なっ!?」
「火炎弾!」
炎の弾丸は触手の間を通り抜け、オニコに向かって突っ込むリンキに直撃する。リンキに直撃した炎の弾丸は、勢いのまま爆発してリンキを吹き飛ばした。
「オニコちゃん!大丈夫!?」
「マリ……ありがと……。」
立ち上がったオニコは、駆け寄ってきた眞利にお礼を言う。しかし、爆発から戻ってきたリンキの声で場に戦慄が走る。
「まさかスナイパーが出張ってくるとはな。探す手間が省けた。」
その言葉と同時に、眞利に向けて触手を飛ばす。しかし、針が眞利に届くことはなく、間に割り込んだオニコによって弾かれる。
「眞利。離れて援護をお願い。ついでにセーヤを回収してくれると動きやすいかな。」
眞利は、後方で気絶している盛弥に目を向け、承諾した。
「うん分かった。気を付けて。」
眞利に向かって放たれる攻撃をオニコが防ぎ、眞利が盛弥を担いで離脱した。
「お前たちは、つくづく分からんな。敵わないと分かっていてもなお自己犠牲を買って出る。非常に謎だが、こちらとしてはありがたい限りだ。」
リンキはそう言うと、引き続きオニコに攻撃を仕掛ける。オニコは、繰り出される針を何とか弾きながら、反論する。
「これが分からないようじゃ、人間にとって代わるなんて到底無理だね。」
「何だと?」
攻撃の手を緩めることなく、リンキが問い返してくる。しかしオニコはすぐに答えず、体を翻しながら攻撃をかわし、時には大太刀で防ぎながら時間を稼ぐ。その行動を見たリンキは、自分が弄ばれているように見えて怒りがこみあげてくる。声にならない怒りを表し、一手一手の攻撃に力を込める。オニコが何とか耐えていると、オニコに集中しているリンキの背後から、炎の弾丸が飛んできた。それを確認したオニコは、リンキの問いに対する答えを口にした。
「私達の行動が理解できないのは……あんたに信頼できる仲間がいないからだよ!」
その答えにリンキが顔をしかめた時、背中に炎の弾丸が直撃した。
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