第三十六話 ボス戦スタート
世間に再拡大し始めた、蚊人による殺人事件。これを抑えるために、蚊人首領のリンキを倒すことに決めた盛弥達。限られた戦力で作戦を練り、新しいアイテムを手に入れ、いざ蚊人本部に殴り込む。しかし、そこで起こった異変とは。また、市街地のパトロールに出発した盛弥と奥野は、予想外の人物と遭遇する。
作戦実行日当日。目覚めた盛弥は、腹部に重みを感じる。昨夜、そろそろ寝ようと布団に入ると、オニコが一緒に潜り込んできた。
「一緒に寝る。」
それだけ言ってしがみついてくる彼女を見た盛弥は、追い出すことを諦めてそのまま寝たのだった。
「オニコ。そろそろ起きろよ。」
「んーーー。」
聞こえているのかそうでないのか、分からないような返事が返ってくる。
「ったく。しょうがねえなぁ。」
オニコを起こさないように注意して布団から出ると、朝食作りに取り掛かる。キッチンに立ち、冷蔵庫を開けていると、スマホがメッセージの着信を知らせた。通知を確認すると、眞利からだった。
「おはよう。起きてる?今から行ってもいいかな?」
「今起きたとこ。大丈夫だけど、何かあった?」
「早っ!ちょっと、一緒にいたくて……。」
「ん。分かった。待ってるよ。」
しばらくすると、インターホンが鳴って眞利がやってきた。
「ねぇ盛弥。お願いがあるんだけど……。」
ドアを開けるなり、こう切り出す眞利。
「俺で出来ることなら聞くけど?」
「むしろ盛弥にしか頼めないし、出来ないの。」
そう言って抱きついてくる眞利に圧倒され、思わず抱き返すしか出来ない。
「……どうした?」
盛弥の問いかけに答えず、顔を押し付けてくる。頭を優しく撫でると、短い返事があった。
「ばか。」
その後顔を上げ、強めの口調で言った。
「昼間は、一緒にいたい。お家デートでいいから相手して。」
盛弥は、眞利を家に入れてドアを閉めた。
部屋に上がった眞利は、オニコが寝ていると知ると、思いっきりくっついて来た。
「なぁ眞利。くっついてくれるのは嬉しいんだけどさ、なんか理由があるんだよな?」
盛弥は、どうしてそこまでくっついてくるのかが知りたかった。
「だって、今夜は2人とも危ないところに行くんだから、甘えたっていいでしょ?」
眞利が言わんとしている事を察した盛弥は、自分がそこまで気が回らなかった事に気付いた。
「そうだよな。ごめん。」
そう言いながら頭を撫でると、盛弥の腕を抱き締める力が強くなった。そして最初の宣言通り、夕方に家を出るまでお家デートをして行った。
そして夕方。眞利とオニコを見送るために、家の前で常長の車を待っていると、常長から連絡が入った。
「高平。お前の彼女から連絡ないけど、一緒にいるって事でいいのか?」
「あ、すみません。一緒です。」
「ん。了解。もうじき着くから待ってて。」
そのやりとりの少し後。常長の車が到着し、眞利とオニコを乗せ、奥野を降ろして出発した。
「よし。じゃあ、行くか。」
「はい!」
盛弥と奥野は、市街地の方に向けて歩き出した。蚊人による被害が再拡大しているニュースを見てからも、数件の似たような事件のニュースが流れてきていた。駅前に比べ規模すら小さいものの、被害者に共通点はなく、手口からしても蚊人の仕業であるのは確かだった。盛弥と奥野は、ひとまず人通りの多い場所を捜索する事にした。
「やっぱり蚊人見分けるのって、難しいですよね。ほぼ人間だし。」
街行く人々を見ながら、そんな事を漏らす奥野。
「まあ、しょうがないよな。人間の中に紛れ込んで生きてる奴らだから。」
盛弥がそう返した時、多くの人が歩く幹線道路の歩道に、甲高い悲鳴が響き渡った。
「キャアーー!」
途端に血相を変えて、路地に向かって走る盛弥と奥野。急いで向かった先には、壁を背に怯える女性と、その女性に腕の針を突きつけながら迫る男性がいた。
「遊馬。俺が蚊人をやる。女の人を頼む。」
「分かりました。」
奥野の返事を聞いた盛弥は、蚊人に近付きながら声をかけた。
「あの、何やってるんですか?相手の女性、かなり嫌がってると思いますけど?」
その言葉に、蚊人が盛弥の方を見る。盛弥に標的を変えた蚊人は、腕の針を向けて向かってくる。襲われていた女性はその場に崩れ落ちるが、奥野が安全な場所まで手を貸して移動した。迫る蚊人に対し、右手に少し長めの片手剣を投影する盛弥。相手が剣の間合い入ったところで針を払う。力の向きを変えられた蚊人は、体がついて行かずによろける。よろけて背中を見せる相手に柄頭で打撃を入れると、そのまま地面に打ち付けられた。とどめとして左の背中に剣を突き刺すと、蚊人は霧散して消えてしまった。
「高平さん、大丈夫ですか?」
女性を避難させた奥野が戻ってくる。
「ああ。駅にも出たけど、こんな市街地にも出るんだな。」
「そうですね……。」
2人は、今いる路地の奥、幹線道路とは反対側の道の先に、何か良くない予感がして進んでいった。
蚊人本部に向かって進む車の中は、少し重たい空気が漂っていた。大戦の前に明るい雰囲気も違うと思いつつ、どうにも違和感が拭えない常長は、助手席に座る沙月に声をかけた。
「岡さん。なんか空気重くない?」
「みんな緊張してるんですよ。怪斗さんはしてないんですか?」
少し強めの口調で後輩にたしなめられてしまった。それ以降沈黙を保ったまま、車は蚊人本部の近くに到着した。車を路肩に泊めた常長は、後部座席を振り向いて伝えた。
「よし、到着だ。オニコちゃんと岡さんは、作戦通りに本部前で待機。仲野さんは、俺と一緒に狙撃ポイントを探そう。」
常長の指示に、了解の意思表示が3人分返ってくる。オニコと沙月を降ろし、一度本部の前を通り過ぎる車。車窓から確認できた本部の様子から、何か違和感を感じ取った眞利だったが、確証はないのでとりあえず狙撃ポイントへ向かった。本部から少し距離を取り、建物の正面をやや上から見下ろす位置に車を止め、後部座席の窓を開けて愛用のスリングショットを手にする。
「こちら狙撃班。こっちは準備OK。そっちはどう?」
眞利は、沙月とオニコに向けて無線機で呼びかける。ノイズの音が少し入った後、返事があった。
「こちら突撃班。正面入り口前に待機中。いつでもいいよ。」
沙月からの返事を受け取ると、常長にその事を伝える。無線機を渡すと、常長が指令を出した。
「突撃班、突撃開始!」
「了解!」
眞利が望遠鏡を覗いていると、沙月とオニコがドアを開けて建物に入っていくのが見えた。
沙月とオニコは、本部内の蚊人を蹴散らしながら、リンキの部屋に向かって駆けていく。
「さっちゃん。入り口のドア、蹴破るよ。」
「OK!3歩で行くよ!」
2人は、呼吸を合わせて踏み切ると、歩数を合わせてドアへ近づく。3歩目を踏み切った後、両足を揃えてドアに蹴りを入れる。
「うりゃああああ!」
2人で気合十分にドアを蹴破る。しかし、そこにリンキの姿は無く、もぬけの殻だった。
「……………………え?」
2人揃って、出た言葉はそれだけだった。その時、無線機がノイズ音を出し始めた。
「さっちゃん!大変!今すぐ戻って、そこにリンキはいないよ!」
目の前の光景が保証され、何とも言えないやるせなさが押し寄せる。しかし、周りの状況に気付き、体を動かした。
「さっちゃん。私の後について来て。」
険しい顔で前を見つめるオニコ。彼女は大太刀を引き抜いて、脇構えをとる。沙月は、オニコのスピードについていく事に集中する。目の前には、通路を埋め尽くす程の蚊人がいつの間にか湧いていた。
「雷迅剣!」
オニコが、自身の最速技を繰り出し、目の前の蚊人やら壁やらを諸共破壊していく。
「くううぅぅ!」
沙月は歯を食いしばり、遅れないようにその後に続く。進行方向の敵を薙ぎ倒し、壁をぶち抜き、力技で建物の外に出る。そのまま迎えにやって来た車に乗り込もうとするが、どうにもスッキリしない沙月。車の手前で立ち止まり振り返ると、顔の前で人差し指を立てて手を組んだ。
「……さっちゃん?」
眞利が、確かめるように声をかけるが、沙月は気にせず技を出した。
「爆炎。」
刹那。蚊人本部を、炎が包み込む。夜の闇に、オレンジ色の火炎が燦然と輝きを放っている。その光景に見惚れている眞利達の方に向いた沙月は、スッキリしたように静かな笑みを浮かべていた。
夜でも明るさの残る幹線道路から、少し逸れた路地に、不気味な雰囲気が漂う。盛弥と奥野が路地の奥に進んでいくと、街灯の明かりの下に見覚えのある人影が現れた。
「ようこそ。私のディナーショーへ。」
ブゲン、ではなくその肉体をのとっている状態のリンキは、盛弥に向かってそう言った。
「ディナーショー、だと?」
盛弥が問いを返すと、リンキは高らかに答えた。
「そうだ。私が人間に代わる新しい支配者へと進化するための、ディナーショーだ。」
周囲にこだまするリンキの笑い声と共に、無数の蚊人達が生成された。
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