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求血記  作者: 香双狐
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第三十三話 後詰出陣

蚊人(ぶんじん)によって強化体に変えられてしまった美月を救出するため、本部に突撃を仕掛けたオカルト研究会メンバーと盛弥、オニコの2人。奥野が想いを伝えるため、美月の解放に挑んでいる間、美月からリンキを遠ざけることに成功したオニコ。怒りのあまり正気に欠けるリンキを翻弄し、見事倒すことに成功したオニコだったが、沙月が同じく美月から遠ざけたブゲンが合流し、死んだはずのリンキがブゲンの肉体を乗っ取ってしまう。

一方美月と相対する奥野は、自らの未熟さも相まって、強化体である美月に押されて苦戦していた。しかし自らの気持ちに奮起し、小さな工夫を重ねて作った隙で見事救出に成功した。

そんな彼らに、再生したリンキが生成した蚊人(ぶんじん)の集団が迫る。果たして盛弥達は脱出できるのだろうか。

 林の中を駆ける沙月とオニコを、無数の喚き声が追いかけてくる。ブゲンの体を乗っ取ったリンキは、蚊人(ぶんじん)の生成能力に加え、幹部固有の指揮能力を手に入れた。更にブゲンの魔力が加わったことで、生成のスピードが格段に上がった。その結果、急速に生成された大量の蚊人(ぶんじん)が2人目掛けて襲いかかってくる。

「オニコちゃん。煙玉とかある?」

沙月はダメ元で聞いてみる。

「ないけど、逃げ切るスピードならある。」

オニコの回答に項垂(うなだ)れた後、何かに気付いた沙月。

「オニコちゃん。私が合図したら最速で逃げて。後ろの敵は私が引き受ける。」

背後の蚊人(ぶんじん)達は、姿は見えずとも喚き声で近づいているのが分かる。しかし、沙月の覚悟を決めた目を見たオニコに、反対は難しかった。

「……分かった。セーヤ達に知らせればいい?」

「うん、お願い。あと、遊馬も出来れば。」

コクリと頷くオニコに、「行くよ」と前振りをして「ゴー!」と合図を出す。オニコは、合図に合わせてステルスモードを切り、稲妻のスピードで加速する。オニコの気配を察した蚊人(ぶんじん)達は、オニコにターゲットを定めて直行する。しかし、彼らが向かった先には、灼熱の炎が待ち構えていた。

爆炎剣(ばくえんけん)!」

沙月が振るった刀からは、フレイムブレード以上に灼熱の火炎が噴き出す。しかし、蚊人(ぶんじん)を瞬時に焼き尽くしたその火力は、どこか自分の力ではないような気がした。とはいえ、迫っていた蚊人の殆どが焼死し、生き残りも負傷して動けない今がチャンスだと捉えた沙月は、新手の追手が来ないうちに逃げることにした。

 オニコが車に戻ると、慌てた様子の彼女に盛弥と常長が驚いた。

「オニコ、大丈夫か?何があった?」

オニコは、見てきたことを全て話した。リンキを一度は倒したものの、ブゲンを乗っ取って復活したこと。リンキが生成した無数の蚊人(ぶんじん)が迫っていること、沙月が追手を引き受けたこと。オニコが話す事実に、敵が更に厄介になった事を知る盛弥と常長。

「おい高平。この後どうする?遊馬もまだ帰ってないぞ?」

問いかけられた盛弥は、オニコにいくつか質問した。

「オニコ。沙月ちゃんと別れてから何か気付いたことはないか?」

オニコは落ち着いて記憶をたどり、気になった事を話した。

「そういえば、逃げてる時に爆発音、かな?そんな感じの音が聞こえたけど、逃げるのに必死だったから確認してない。」

「リンキが生成したっていう蚊人(ぶんじん)はどんな感じなんだ?」

「数は多いよ。囲まれる前に逃げてきたし、戦ってないから分からない。」

盛弥は、聞いた情報から策を考える。

「快斗さん、このままオニコを乗せて沙月ちゃんを迎えに行ってください。車ならおそらく追い付かれないと思います。」

「ちょっと待て。迎えに行って大丈夫か?」

常長が待ったをかける。盛弥は、そう判断した理由を話した。

「さっき、オニコが言っていた爆発音。あれが沙月ちゃんの攻撃によるものだとすれば、追手をどうにかして、逃げていると考えられます。沙月ちゃんは、敵を引き受けたらしいですけど、彼女に限って相討ち狙いは無いと思います。何か考えあっての事だと思います。」

沙月が自分を犠牲にする可能性は低い、という点は常長も納得した。

「岡さんの件は了解した。お前はどうするんだ?」

「俺は、遊馬の所へ行きます。今田さんに勝っているなら、迫ってくる蚊人(ぶんじん)に対処するのは厳しいですから。」

「そうだな。頼む。それと、彼女は?」

常長がオニコを指して聞く。盛弥は、オニコの消耗具合を確認した後、指示を出した。

「オニコ。魔力はあとどれぐらい使える?」

「1/3ぐらい使ったと思う。」

「それじゃあ、魔力消費の大きい技は緊急時以外使用禁止。俺も自分の魔力を使うから、あまり分けてやれそうにない。その条件で、快斗さんと沙月ちゃんの助けを頼む。」

オニコの了解を得ると、常長に後を頼んで奥野の元へ向かった。

 凍りついた美月を背負いながら、車に向かって歩く。先程、少し離れた場所から聞こえた爆発音に警戒しながら、一緒にいたはずの2人を心配する。すると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「遊馬ー!無事かー!」

聞き覚えのある先輩の声。信頼できるその声に、美月との戦闘が終わってから初めてホッとできたかもしれない。声の主である盛弥の姿が見えると、一気に体の力が抜けるような気になった。

「遊馬!やったのか?」

「はい……。無事、救出です。」

盛弥は、見事有言実行を果たした奥野を称賛する。

「よし。あとは最後だけだな。肝心な所、気張れよ!」

自分をからかうような盛弥の言葉だが、真剣に応援してくれているのは伝わってくる。その気持ちに感謝しながら、他のメンバーの様子を尋ねる。

「高平さん。他のみんなはどうなりました?無事ですか?」

「あーそれなんだけどな、少し厄介なことになってて……。」

先程と異なり、歯切れの悪い返答の盛弥。

「爆発音は知ってるか?」

「はい。なんか関係あるんですか?」

「実は、沙月ちゃんが帰ってきてない。間違いなくあの爆発音に絡んでいると思う。帰ってきたオニコの話によると、大量の蚊人(ぶんじん)を引き受けたらしい。こっちにも来るかもしれないから、助けに来た。」

沙月の情報にも驚くが、自分が今置かれている立場にヒヤリとする。同時に、盛弥が来てくれたことに安堵するのだった。

「っと、来ないうちに逃げるぞ。」

そう言う盛弥に連れられて、移動を開始する。しかし、常長の車があったのと別の方向に行こうとする盛弥に疑問を持つ。

「快斗さんの車に戻るんですよね?」

「快斗さんには、オニコと一緒に沙月ちゃんを迎えに行って貰ってるから、連絡が来るまで待つことになる。」

「じゃあ、どこへ行くんですか?」

盛弥は、すまないという表情で答える。

「悪い……あてはない。とりあえず、離れよう。」

「えぇ……。」

計画性のない計画に項垂(うなだ)れるが、仕方ないのでついていく。しかし、蚊人(ぶんじん)に囲まれて、美月を守りながら戦うよりはよほどマシだ。そう考えた奥野は、美月の体を背負い直して、気合を入れ直してから盛弥について行った。

お読みいただきありがとうございます。

本作の文字数が、目標の10万字を突破いたしました。ここまで読んで頂いた皆さん、ありがとうございます。物語の完結までは更新予定ですので、宜しければ今後もお付き合いください。

また、作者名のTwitterアカウントで更新情報等お知らせしています。本作のブクマと併せてフォローしていただけると、更新時のお知らせがもれなく受け取れますので、よろしくお願いします。

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