第三十二話 凍気一閃
蚊人打倒の足掛かりとして、強化体Bこと美月を救出することにした盛弥達。盛弥とオニコは、実行役を買って出たオカルト研究会のメンバー、常長、奥野、沙月と共に蚊人本部へ向かう。
世間的にも弱体化してきている蚊人を確実に倒すためにも、美月の救出は確実にしておきたいが、果たして無事に救出できるのだろうか?
沙月、奥野、オニコの3人が蚊人本部に向けて出発した頃。蚊人本部では、リンキとブゲンが話し合っていた。
「ブゲン。敵の状況はどうだ?」
「はっ。クザスめは見張りを数名置いていますが、これと言った動きはありません。また……」
「クザスの事はどうでもいい!見張りも無用だ。あれは動かん。あの憎き吸血鬼共はどうしている?」
ブゲンの言葉を遮って、リンキが怒りを露わにする。ブゲンは、慌てて要求事項に答える。
「き、吸血鬼共であれば、はっきりした動きは見えません。」
「そうか。私は、近々攻めてくると思う。守りを固めておけ。」
リンキはそう言い残して自室へ引っ込んだ。このところ彼は、計画がうまくいかない焦燥感に駆られて、気が短くなっている。
「最初はうまく行っていたのだが……。」
クザスが離反したあたりで、大きく数を減らした構成員の補充も間に合わず、実行に移した計画で成功と呼べるものは少ない。結果、人間に対して大胆な宣戦布告をしたにもかかわらず、勢力は衰える一方で、まさに竜頭蛇尾である。
「何か、ここから持ち直せる策がないものか……。」
頭を悩ませるリンキだったが、慌てて部屋に入ってきた使い魔の蚊に、考えを中断せざるを得なかった。
「どうした?」
蚊に呼びかけると、耳元にやってきて報告する。
「……何?」
もたらされたのは、敵襲の報告だった。
リンキが建物の外へ急いでいる頃。いち早く到着したブゲンは、強化体を従えて襲撃者と相対する。
「敵は3名。ひとまずは……!」
ブゲンが幹部固有の指揮権限を発動し、蚊人達が3名を囲む。そこへリンキが到着した。
「ブゲン。どうなっている?」
「リンキ様。3名の侵入者です。結界に反応がありました。」
すると、それを聞いた襲撃者のうちの1人、男が挑発的な言葉を発した。
「へぇ。あれが結界。物理的な肉の結界ですね。」
ブゲンが囲んでいる蚊人達に指令を送ると、3人に蚊人達が迫る。
「雷迅剣!」
オニコが瞬時に大太刀で薙ぎ払う。
「それじゃあ、手はず通りに。」
沙月がオニコと奥野に指示すると、2人とも頷いて自分の標的に向かっていく。まずは、オニコがリンキに飛びつき、この場から無理矢理引き離す。稲妻のスピードで繰り出された蹴りは、無防備な状態のリンキを直撃して吹き飛ばす。それを確認した沙月は、ブゲンに詰め寄ってクナイを1本突き立て、反対側へ距離を取る。奥野は刀を抜いて美月を見定め、決意を込めた眼差しを彼女に向ける。
「今、俺が助けます。」
そう呟いて、目を赤く光らせて敵意を示した想い人へ向かっていった。
林の中。木々の間を抜けて、漆黒の針を携えた触手が迫り来る。その触手を避けて、黄色い尾を引いたオニコの残像が縦横無尽に駆け巡る。
「やっぱり、数が多い分厄介。」
オニコとしては、触手の数が多いほど進行方向を変更する手間がかかる。盛弥からの提供があっても、魔力の消費は多くなってしまう。それでもある程度は動かなければ、触手が数本束になって襲いかかってくる。リンキは初手で蹴飛ばされて以降、怒りの満ちた顔でひたすら触手を繰り出してくる。
「おのれちょこまかと!我らの亜種風情が!」
リンキの一言が気に障ったオニコは、動きを止めると襲い来る8本の触手を呼び寄せた。8本がギリギリに迫ったところで切り落とし、針の再生の間に本体との距離を詰める。怒りのせいか、状況を把握してはいるものの理解が追いついていないリンキは、針の再生に躍起になる。その結果、再生し終えた頃には、オニコが眼前に迫っていた。
「私は、お前達の亜種なんかじゃない!」
オニコが、元人間で吸血鬼という両方のプライドから放った鋭い一言。その直後、リンキの右肩をオニコの突き出した大太刀が直撃し、鮮血が噴き出す。
「ぐあぁぁっ!」
呻き声を残したリンキは、その場にくず折れて静止した。触手は、オニコに届く一歩手前で、力なく地面に落ちた。その時、リンキの名前を呼びながらこちらに近づいてくる声がした。
「リンキ様!」
声の主であるブゲンに続いて、沙月もブゲンを追いかけてやって来る。オニコの元にやってきたブゲンは、リンキの有様に唖然とし怒りを滲ませた。
「貴様ら、よくもリンキ様を……!」
「え?やっちゃったの?すごい!」
ブゲンを無視して、オニコとハイタッチをする沙月。ブゲンはさらに激情し、怒鳴り声を上げる。渾身の怒声が放たれたその時、倒れているリンキの目が赤く光った。しかしブゲンには見えておらず、気付く気配もない。オニコと沙月は、何が起こるのか息を呑んだ。
「ブゲン。その忠義、見事である……。」
場に響き渡るリンキの声。ブゲンは耳を疑い、目を血走らせたまま振り返る。そこには、地面に倒れているのではなく、幽霊のように不明瞭な輪郭で漂うリンキがいた。目撃したブゲンの顔が一瞬で引き攣る。
「リ、リンキ様……?」
「これよりは、我が肉体として忠義を捧げよ!」
リンキはブゲンの体に手を回し、体内に入り込んだ。
「リ、リンキ様っ!お待ちを!ヒィィヤァァァッ!!!」
リンキがブゲンの体を乗っ取り、自我を消し去って完全に支配する。
「フハハハハハ!出よ、我が僕共!」
そう叫ぶと、無限に蚊人が生成され始めた。
「まずい。オニコちゃん、逃げよう!」
沙月はそう言うと、オニコの手をとって走り出した。
本部の前では、奥野が苦戦を強いられていた。まだ戦闘の熟練度も低い上に、以前より強化されている美月のブレードの前では、致命傷にならないように防ぐのが精一杯だ。ボロボロになりながらも、決して立ち上がる事をやめないのは、好きな人を助けたい一心からだった。おそらく美月が強化体にされず、ただ想いを伝えるだけならば、ここまでボロボロにならなくても良かっただろう。しかしこの状況になったからこそ、好きという気持ちに気付いて、助けようと立ち上がれるのかも知れないと思う。
「……ここまで来たら、絶対告白して終わりたいっ!」
奥野は、自分のことを判別できずにブレードを奮い続ける美月の目を変えるため、壁や地面に打ち付けられたり、防ぎきれずに負ったりした傷の痛みに耐えながら刀を構える。
「うおぉぉぉぉぉお!」
刀に氷の力を宿らせ、美月の斬撃を受け太刀するたびに、ブレードを部分的に凍らせる。多少の氷で重さの狂ったブレードは、変化した重さに対応するまでに隙が生まれる。奥野は、その隙を狙うことにした。凍らせる部位を少しずつ増やしていくと、重さが変わった直後の振りで、美月の体がブレードに振られる。そこを狙って、次はからだの一部を凍らせていく。凍った場所は動きが悪くなるだけでなく、痛みや冷たさでいくらかダメージも入れられる。心を痛めながらもしばらく続けていると、徐々に動きが鈍くなり攻撃の威力も落ちてくる。しかし、奥野でも回避が無理なくできる程度に弱っても、強化体である彼女は命令通りに奥野に向かってくる。
「美月さん……。もう大丈夫です……。ゆっくり休んでください。」
奥野は、中段の構えから霞の構えに移行すると、刀に凍気を纏わせる。
「凍結刺突!」
美月を目掛けて繰り出された突きは、危険を感じて突き立てられたブレードを割り、彼女の心臓に直撃した。全身が凍りつき、そのまま倒れ込んでくる美月を抱きとめた奥野は、冷たさをもろともせずに強く抱きしめた。
お読みいただきありがとうございます。
先日、本作のPVが900を突破しました。お読みいただいた皆さん、ありがとうございます。最近になって知っていただいた方が、第一話から最新話まで通して読んでいただけることがあるようです。Twitterでも情報展開しているので、そこで知っていただけることもあるかもしれません。改めて、読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。
また、今後ももう少し続く予定ですので、宜しければお付き合いください。感想や評価等、宜しければお気軽にお聞かせください。今後ともよろしくお願いします。




