第三十一話 救出作戦決行
蚊人本部を調査した結果から、強化体Bこと今田美月の救出を決めた盛弥とオカルト研究会のメンバー。仲間を助けるために、オカルト研究会のメンバーが主体となって作戦を練る。世間的にも大きく数を減らして、勢力も下火になった蚊人を倒すための第一歩として決行に移す。
ある日。常長、沙月、奥野の3人はオカルト研究会の部室に集まった。理由はもちろん、蚊人に捕われ、強化体にされたまま未だに帰って来ないもう1人のメンバー、今田美月の救出作戦会議である。部長の常長は、盛弥に作戦の指揮を任された。
「それじゃあ全員集まったな。早速だが、作戦会議を始めよう。今回は、今田さんの解放が最優先になる。その鍵は遊馬、君に頼もうと思う。」
奥野は、真剣な顔で頷く。しかし、手を挙げて質問した。
「僕も戦闘には参加ですよね?」
常長は、頷きながら答える。
「そうだな。頼む事になる。見ての通り俺は、非戦闘員だ。高平曰く、オニコを貸してくれるらしいが頼りきりになるわけにもいかない。肝心な場面は遊馬と岡さんにお願いするしかない。」
常長は頭を下げているが、思うところのある奥野は、思い切って発言した。
「快斗さん。自分としては、岡さんの力も借りていいのか疑問です。望んで手に入れた訳ではないのに、借りてしまっていいのか……。」
「奥野君。」
奥野の話に沙月が割って入った。
「確かに私の力は、望んで得たものじゃないよ。でもね。使いたくない訳じゃないの。使える限りは使ってやらないと、なんか癪。それに、少なくとも今回ばかりは、あってよかったと思ってる。だから、私のことは心配しなくていいよ。ありがとう。」
沙月は奥野の優しさを感じて、最後にお礼を付け加えた。奥野は、自分の心配が杞憂だった事に内心ホッとした。しかし、同時に感じた恥ずかしさと、お礼を言われてしまったことで、言葉が出て来なかった。沙月は、無言で戸惑う奥野に笑みを向けると、常長に言った。
「部長。続きをお願いします。」
常長は、2人の様子を確認してから続けた。
「えっと、というわけで詳細だけど、2人にはブゲンと今田さんの相手をお願いしたい。もしリンキが出てきたら、オニコに頼もうと思ってる。場所は、蚊人本部。何か聞きたい事はある?」
特に疑問点は出なかったので、細かい事は決めずにその場の状況判断ということで解散になった。
盛弥が大学の図書室で課題をこなしていると、恭平が隣の席に腰掛けた。
「よっ。何の課題?」
「ん?経済学。」
図書室の共用スペースなので、これくらいの会話であれば許される。
「マジか。俺もやらんとな。てかさ、お前最近マジで眠そうだよな。寝てんのか?」
頻繁に朝帰りする彼に心配される程眠そうなのかと気になるが、心当たりはある。2日に1回のペースでオニコに血を吸われるのもあるが、ここ最近は夜の行動が増えたことも影響しているのだろう。深夜に帰宅し翌朝目覚めると、オニコが上で寝ていることが増えたのは、彼を心配してのことかもしれない。
「まあ、寝れない日は増えたかな……。夜が忙しくなってさ。」
盛弥の発言を勘違いした恭平は、いきなり爆弾発言をされたような反応を示す。
「いや、まさかのカミングアウトかよ。お前がそういう事言うとは思わんかった。……眞利ちゃんってそんななのか?」
「バカ。そんなこと言ってんじゃねーよ。」
意外と真剣な盛弥の返答に、思わず詫びる恭平。
「悪い。つい言っちまった……。」
「課題やりに来たんじゃねえのかよ?」
自分の手元に視線を移し、当初の目的を問いかける盛弥。恭平は『お、おう……』と言うと、課題を進め始めた。1時間程で課題を終えると、恭平が食事に誘ってきた。
「盛弥。飯行こうぜ。」
「なんだよ急に?」
唐突な誘いに、少し戸惑う盛弥。しかし恭平は、誘った流れのまま返して来た。
「何って、普通に誘っただけだぞ?」
あまりの変わらなさに拍子抜けだったが、誘いに乗ることにした。
恭平の案内で、一軒の大衆食堂に入る。2人で鍋を1つ頼み、シェアすることにした。鍋が運ばれてくるまでの間、恭平が雑談を始めた。
「そういえば、最近例の殺人集団のニュース減ったよな。」
「例の?」
盛弥は、恭平の発言内容を何となく察したが、その先を促す。
「ほら、なんて言ったっけ?吸血鬼みたいなことする奴ら。」
吸血鬼と聞いて一瞬ドキッとするが、オニコのことではないと否定する。
「蚊人?」
「あーそれ。前までめちゃめちゃ人死んでたじゃん?最近そんなに聞かないよな。」
事実、蚊人の勢力自体は衰えている。盛弥達が人知れず倒している事と、先日の衝突で構成員の数を大きく減らした事が大きい。とここで、盛弥は現在の状況に疑問が湧いた。
「リンキが生成してはいるけど、勢力は衰えている……?」
疑問に対して考えを巡らせていると、恭平に呼ばれるのが聞こえた。
「おーい。顔怖いぞ?どうかしたか?」
「あ、悪い。少し考えごとしてた。」
恭平は『そっか』と言うと、自分の話に戻した。
「んで?お前はどう思うよ?蚊人。」
「んーやっぱり、何の関係もない人達を殺して血を吸うってのは、違う気がする。」
「だよなぁ。あれって、血を吸われたら人間じゃなくなる的なやつなのかな?」
盛弥からすれば全く見当違いなのだが、恭平は知らないので無理はない。
「それじゃ蚊じゃなくてゾンビだろ?前、知り合いのフリーライターの人に聞いたのは、単純に吸われる量が多いから死ぬらしいぞ。」
恭平が「へぇー」とあまり興味なさげな反応を示す。そんなことを話していると、鍋が運ばれてきた。鍋と締めの雑炊でお腹を満たすと、恭平が更に誘ってきた。
「なぁ、2軒目どうよ?知り合いの女子達とカラオケの約束しててさ、来る?」
恭平ともそれなりに長い付き合いなので、一緒に行ってやりたいが、今夜の予定を思い出した盛弥は、断るしかなかった。
「あー、すまん。今夜、眞利が泊まりにくるから帰るわ。」
適当な嘘を言ったのだが、恭平は真面目に受け取ったらしい。
「マジかよ。楽しそうじゃん。そっち行こうかな?」
「バカ。絶対来るなよ。」
互いに笑みを交換して別れる。恭平は以前から、適切な距離感で接してくれるので、一緒にいて苦にならない事を改めて感じた盛弥だった。
盛弥が帰宅すると、オニコが出迎えてくれる。
「おかえりセーヤ。遅かったね。」
オニコは、外出用の服装で立っている。おそらく今夜の任務に向けてのことだろう。
「お?準備万端だな。ちょっと待ってて。」
オニコが頷くと、部屋に入って鞄を置く。身軽な服装に着替えて外に出ると、ちょうど常長の車がアパートの前に止まった。車内には沙月と奥野が乗っていて、盛弥達が最後のようだ。盛弥が助手席に乗ると、常長が話しかけてきた。
「悪いな高平。付き合ってもらって。」
「いや、こちらこそありがとうございます。勝手に決めた作戦なのに、立候補してもらって。」
盛弥がそう返すと、後ろで沙月が話した。
「いいの。美月さんは、私達の仲間だから。むしろ、私達で助けるべきだと思うし。ありがとう高平君。」
奥野も沙月に同意しながら意気込む。
「美月さんは、俺が絶対に助けます。チャンスを貰えたからには、絶対に助けますよ。」
それを聞いた常長は、少し嬉しそうだった。
「よし遊馬。作戦の鍵はお前だからな。ちゃんと助けて、想いをぶつけてこいよ?」
「は、はい!」
奥野は、恥ずかしさを滲ませながらも、ノリと勢いで答える。場の雰囲気が和み、気のせいかピリついていた空気が少し柔らかくなった気がした。
やがて、車が蚊人本部の近くに停車した。沙月、奥野、オニコの3人が車を降り、盛弥と常長は待機ということになった。
「オニコ。相手はリンキだ。もし、やばそうなら遠慮なく魔力持ってけ。」
頷くオニコを見送り、沙月と奥野にも声援を送る。3人が目的地へ向かうと、無意識にそわそわしていたのか、常長に嗜められた。
「少しは落ち着けよ。気になってたまらん。」
「あ、すみません。なんか落ち着かなくて……。」
今回盛弥は、常長と共に待機である。いつもは戦闘参加組なので、あまり落ち着かない。
「お前はいつもあっちだからな。今日は、万が一要員なんだから大人しく待ってろ。下手に動くと、また彼女に怒られるぞ。」
眞利を出されては何も言えない。仕方なく、シートにもたれて連絡を待つことにした。
お読みいただきありがとうございます。
最近は隔週更新となっていますが、新作の連載小説と交互に更新しています。その連載小説「剣の強者のドラゴン育成」も、合わせてよろしくお願いします。
また、本作のPVが800を突破しました。お読みいただいた皆さん、ありがとうございます。今後ともお付き合い頂けると幸いです。よろしくお願いします。




