第三十話 決戦準備
蚊人陣営とクザス陣営との三つ巴合戦の後、次の出方を探るために両陣営に探りを入れた盛弥達。それぞれの成果を報告し合った後、半ば罰のように、対策や布陣は盛弥に一任となる。リンキを相手にする前に、クッションを挟むことにした彼が考える次の一手とは?
盛弥達が、クザスと蚊人の動向を視察した翌日。再びオカルト研究会の部室に集まった一同は、調査結果の報告をしていた。司会役の眞利が、オニコと沙月に話を振る。
「えっと、オニコちゃんとさっちゃんは、危なかったみたいだけど……大丈夫だった?」
2人は、互いに顔を見合わせた後で沙月が答えた。
「私達は、蚊人本部へ向かったの。建物の周りは、蚊人達が等間隔で配置されてた。そこを越えると、建物に入れたよ。」
沙月がオニコに目配せをして、オニコがその先を引き継ぐ。
「建物の中は、さっちゃんの情報通りで間違いなかったよ。一通り回り終えて、最後に訓練室みたいな部屋の前を通ったら、蚊人のリーダーがいたの。様子を伺ってたら、理由はよく分からないんだけどバレてね。一目散に外まで逃げたら、さっちゃんも戦ってたの。」
その続きは、再び沙月が引き継いだ。
「私は、建物の周りを調べてたの。そうしたら、運悪く警備の蚊人と鉢合わせちゃって。そいつ自体は強くないから倒せたんだけど、騒ぎを聞きつけた幹部のブゲンが出てきて……。そこにオニコちゃんが来たの。そこからは、逃げるのに必死だった。オニコちゃんが、美月さんとブゲンをダウンさせて、リンキの気を引いてくれたから、私が一発食らわせて逃げてきた。追手は多分いないと思うけど……。」
沙月は、自分の失態を悔いているのか言葉が続かない。そんな彼女を、眞利がフォローした。
「2人が無事でよかったよ。大丈夫。もっと危険なことした人いるから。」
そう言って盛弥を見る眞利。事情を知っている奥野と常長、そして昨夜話したオニコも厳しい視線を向ける。
「分かってるよ。悪かったです。だから、そんな怖い目で見るなよ。」
盛弥は、変化のない反応にため息をついてから成果報告を始めた。
「えーっと、俺と遊馬がクザスから聞いてきた話だと、オニコがバレた理由と繋がると思う。」
沙月と彩子は、盛弥がしれっと言った話に遅れて驚く。しかし、オニコが興味を示してくれたので、盛弥はスルーする事に成功した。
「クザスが言ってたのは、リンキの特徴だ。奴は誘蚊体質で、自分の周囲に常に蚊を呼び寄せるらしい。それと、蚊人を生成出来るって言ってたな。奴だけの能力なんだと。」
それを聞いたオニコは、盛弥に問い返す。
「じゃあ、蚊を通して見られたって事?」
「おそらくそうだと思う。なんか気付かなかった?」
オニコは少し考えてから、首を横に振る。彼女のステルスモードは気配を消して動けるだけで、実体は視認される。そこを見られたとすれば、とりあえず説明はつく。ひとまず双方の成果を報告し終えると、眞利がまとめに入った。
「じゃあ、今後はリンキの対策をする感じでいいかな?」
「あとは、ブゲンもだな。オニコがダウンさせたらしいけど。」
盛弥が付け加える。オニコは、ブゲンと美月について情報を付け加えた。
「そんなに戦ってないから詳しくは分からないけど、ブゲンは前に比べて脆くはなってると思う。体が岩で出来てるからかな?代わりに、再生力は上がってるみたい。外見はすぐに戻ってたし。強化体の方は、それなりの量の魔力を吸ったから、しばらく動かないかも。」
それを受けて、眞利が反応を示す。
「それじゃあ、状況把握は充分かな?作戦立案は盛弥に投げるとして、今日は解散でいい?」
特に異議は出なかったので、その日は解散になった。その帰り道。オニコは、盛弥のそばを離れなかった。盛弥を心配するような顔をしたまま、右腕にしがみついている。
「オニコ。少し離れてくれないか?」
しばらくはそのまま歩いていた盛弥だったが、すれ違う人の視線に耐えきれず切り出す。しかし、オニコは拒否した。
「やだ。またどっか行かないように見張ってるの。」
真剣な顔で言い返すオニコ。
「どこにも行かねぇよ。歩きにくいからだって。」
そう言って頭を撫でるが、意外にもデレてこない。
「帰るまで離さないって、マリと約束したから。」
そう言ってピッタリくっついたままである。仕方なく状況改善を諦めた盛弥は、眞利や沙月と仲良くできていることに彼女の変化を感じながら家に向かって歩いた。
数日後。部屋の机で考えこむ盛弥の姿があった。悩みの種は、蚊人戦の布陣だ。自分達の限られた戦力をどう使うか。おそらく最終決戦になるであろう戦いに向けて、考えを巡らせる。
「やっぱり強化体がネックだよなぁ……。」
相手の戦力が少ないほど、1人に対する戦力で優位を取れる。まずは倒しやすさ優先で考えてみる。情報の足りないリンキは後回しとして、オニコと沙月曰く、脆くはなったが再生力の上がった幹部のブゲン。岩で出来たザ・ゴーレムというような感じらしいが、岩であれば割と破壊しやすいように思う。しかし、そこまで単純ではないだろう。それに、ほぼ確実に強化体Bこと美月がそばにいると思われる。案として、彼女をブゲンと引き離すか、事前に取り込めれば楽になる。
「まずは解放だな。そこからブゲンを倒せればだけど……。」
ブゲンの戦闘スタイルとしては、守りに徹する盾スタイルと、岩石砲に大太刀を合わせてくるバズーカスタイルが思い浮かぶ。蚊人幹部の中でも堅実なイメージだ。
「手数を増やして、隙を狙うぐらいしかないか。」
リンキに対しては、オニコと沙月の情報に「ラスボス」というワードを追加して、まずは出方を伺うことにした。
沙月の元に、1通のメールが届いた。送り主は盛弥である。
「ん?高平君から?珍しいね。」
盛弥からの情報は、大体眞利を通して伝え聞く事が多い。今回のように連絡が来るのは非常に珍しい。何か特別な内容かと期待する。しかし、どうやら一斉送信のようで多人数向けの文体だった。沙月は少し残念そうに目を通す。
『対蚊人作戦メンバーに連絡します。リンキとの決戦の前に、強化体Bこと今田さんを解放しようと思います。担当は、沙月ちゃんと遊馬にお願いしたいです。何か意見がある人は、返信して下さい。』
盛弥の人選に、明確な意図を感じた沙月は、彼の信頼に応えようと意を決して承諾の返事をした。後輩の奥野も承諾し、それならばと常長まで参加の意思を表明した。オカルト研究会の絆を感じ、思わず笑みが溢れた沙月だった。
お読みいただきありがとうございます。
ついに本作も、第三十話になりました。内容は徐々にクライマックスに入って行きますが、引き続き10万字目指して更新していく予定です。宜しければお付き合いください。
よろしくお願いします。




