第二十九話 潜入
沙月に情報を与え解放したクザス。彼女の真意を探る為、拠点としている空き家に正面から乗り込み、新たな情報を引き出すことに成功した盛弥と奥野。彼らが作戦を決行しようとしていた頃、蚊人本部を調査していたオニコと沙月。彼女たちは、クザスの情報の真偽を確かめようとしていたが・・・・・・。
常長の待機場所まで帰る途中、奥野は盛弥に抗議する一方だった。盛弥としても、事前に説明しなかったことは悪かったと思うが、最終的な収穫はあったと思う。車に戻ると、常長が眞利と連絡を取っていた。
「だから、俺も聞いてないんだって。とにかくあいつら、家の中に乗り込んで行ったんだよ。」
盛弥が窓ガラスをノックすると、こちらに気付いた常長が窓を開けてスマホを渡した。
「今帰ってきたから代わるぞ。問い詰めなら本人にしてくれ。」
盛弥が不満気な常長からスマホを受け取ると、眞利の泣きそうな声が聞こえてきた。
「せぇいーやぁー……。勝手に動かないでよぉー。」
「悪い眞利。咄嗟の判断で心配かけちゃったな。けど収穫はあったから、後で話すよ。」
眞利は、盛弥の声を聞いてとりあえず落ち着いたようだった。鼻をすすりながら答える。
「……とりあえず、無事ならよかった……。後で話聞かせて。」
「お、おう。ところで、オニコ達はどう?」
盛弥は、ずっと気になっていたことを尋ねた。
盛弥と奥野が、クザスの家に乗り込もうとしていた頃。蚊人本部に到着したオニコと沙月は、茂みに隠れて様子を窺っていた。蚊人本部は、周りを無数の蚊人がうろついている。恐らくパトロール的な感じだろう。2人は、建物をぐるりと囲む蚊人包囲網を、隙を見て突破すると、沙月が身を潜め、ステルスモードのオニコが正面入り口から乗り込んだ。オニコは、沙月に渡されたマップを頼りに建物の中を進んでいく。今回の調査内容は、敵戦力や建物の位置と内部マップなど、クザスが提供したの情報の確認が主になっている。建物の位置や内部マップは問題ないようだ。建物内部を大体回ったオニコは、マップに訓練室と書かれた場所へやってきた。入り口の前で息を潜めていると、ドアの向こうから凄まじい魔力反応が感じ取れた。中からは、何やら男の声が聞こえてきた。
「モスキートニードル。」
技名と思しき単語の後に、数人の断末魔が聞こえてくる。その時オニコは、直感的に何かを感じ、張り付いていたドアから斜め方向に飛び退く。するとその直後、ドアの破壊音と共に漆黒の巨大な針が顔をのぞかせた。
「どうやら、鼠がいるようだな。」
オニコは、何故気付かれたか分からなかったが、一目散に逃げる。後ろからは触手の様な腕が、先端に漆黒の針を携えて迫って来る。廊下の角を曲がっても、壁にぶつかることなく追って来るそれは、まるで目があるかの様に感じられた。目がある前提で動くことにしたオニコは、ステルスモードを解除すると、稲妻の様な光の尾を引いて加速した。なんとか入り口にたどり着いて外に出ると、沙月がブゲンと対峙しているところだった。沙月は、右手の短刀を逆手に持ち、左手は炎の弾を射出している。対するブゲンは、岩の盾で炎の弾を防ぎ、強化体Bこと美月が以前より大きくなった腕のブレードを振るっている。見た所、沙月は押され気味で、険しい表情を浮かべている。オニコが加わればまだマシになるのだが、そんな事を考えていると後ろから巨大な針が襲ってくる。オニコが飛び退いて、針の主であるリンキが姿を現わす。リンキは、周囲に無数の蚊を従え、背中から先端が漆黒の針になっている触手を8本生やしている。その姿にブゲンは跪き、沙月は美月に動きを封じられ、オニコは息を呑んだ。
「リンキ様、お手を煩わせてすみません。」
「よい。私の調整の邪魔をする鼠がいた故、対処しただけだ。お前が詫びることではない。」
ここで視線をオニコに移すリンキ。
「しかし、鼠がここまで大きいとはな。思わぬ収穫だ。」
オニコは、リンキに見据えられたまま沙月の場所まで後ずさる。
「さっちゃん。あいつの相手頼んでいい?」
「オニコちゃん、何言ってるの?無理だよ。」
オニコは、全力否定する沙月に言い放った。
「大丈夫。私があのブレードを速攻でなんとかする。ダウンを狙うから。だから、少しだけあいつをお願い。」
オニコの真剣な目に、決意のようなものを感じた沙月は、静かに頷いた。オニコは笑顔を見せると、背中の大太刀を引き抜いて美月の前に進み出た。
「何?私を無視するのか?」
オニコを追おうとするリンキの前に、沙月が立ち塞がる。オニコは、大太刀を体の左側に寝かして構えると、雷の力で加速を図る。
「セーヤ。魔力もらうね。」
独り言を呟いたオニコは、地面を蹴ると同時に加速し、横一文字の斬撃と同時に美月から魔力を吸い取る。美月も防御態勢をとったが、間に合わずダウンする。その光景を目にしたリンキは、目の前の沙月に向けて漆黒の針を放つ。沙月は、回避しながら短刀で触手を斬り落とす。しかし、斬り落とされた分だけ無限に再生してくる。
「強化体Fの実力がこれ程とは。」
リンキはそう面白がっているが、沙月としては8本を短刀だけで捌くのは骨が折れる。リンキは楽しんでいるのか、徐々に手数が増えてくる。
「なにこれ。ただのドSじゃん。」
手数が増えてくるに連れて、回避の難易度が上がり、体のあちこちに傷が出来始める。動きが鈍る沙月に、容赦なく襲い掛かる漆黒の針。遂に、8本の針が沙月に狙いを定める。間合いが近く、上下左右から迫る針を飛び退いて避けても、追撃が来るのは間違いない。沙月が覚悟を固めた時、自分に向かって飛んできていたリンキの触手が全て斬り落とされる。
「何?」
リンキが目的を阻まれ、鬼の形相で辺りを見回す。すると沙月の左側に、稲妻の残滓を残しながら着地するオニコが現れる。オニコは、ゆっくり状態を起こして振り返ると、沙月になんとか笑顔を見せた。
「よかった。間に合ったね。」
彼女がさっきいた方を見ると、美月もブゲンもうずくまっていた。リンキがオニコに向けて、鬼の形相のまま無言で針を放つ。オニコは空中に飛び上がると、雷の力で加速しながら逃げる。リンキはオニコを追うのに集中し、自分の事が見えていないと気付いた沙月は、瞬時にリンキの懐に飛び込み、鳩尾付近に炎の塊をぶつける。大きなダメージが狙えるものではないが、逃げるための時間稼ぎには十分だった。リンキの動きが止まったところで、オニコと沙月は撤退に入る。その場から飛び出し、建物を囲む蚊人包囲網を強引に突破。その先は、途中からステルスモードで撤退し、途中で彩子と連絡をとって落ち合い、無事に盛弥の家にたどり着いた。
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