第二十八話 情報収集
クザスに様々な情報を渡されて解放された沙月。盛弥達と合流すると、早速情報を教える。沙月に教えてもらった情報に意味を感じた盛弥は、これからどう動くべきか関係者に聞いてみることにした。議論の末に出た結論は、敵情視察だった。そこで彼らが得るものとは?
蚊人本部のリンキのもとに戻ったブゲン。報告を済ませると、岩で生成したゴーレムに自らの意識を移し、強化体と分離した。
「ブゲンよ、よく戻った。まずは事の顛末を聞こう。」
「はっ。かくかくしかじかでして・・・・・・という始末で、コビャは落命いたしました。」
ブゲンは、コビャの亡くなった状況を事細かに説明した。リンキは、考え込むとブゲンを下がらせた。
「リンキ様は、次にどうなさるおつもりなのか・・・。クザスの奴を叩いておくのがいいとは思うが、例の連中が攻めて来ぬとも限らん。偵察連中によると、強化体を解放したという情報もある。そこで我らのすべきこととは・・・・・・。」
入手している情報をもとに、最善策を考えるブゲン。彼は、残された最後の幹部としてリンキに命を賭することを決意し、強化体が残っていることを幸に、より一層の強化をすべく動き出すのだった。
大学のオカルト研究会の部室に、盛弥達の関係者が勢ぞろいした。集まったのは盛弥、オニコ、眞利、奥野のパトロールメンバーに加え、解放された沙月、オカルト研究会部長の常長、フリーライターの彩子、時空研究所所属の椎名に蘇我医院院長の生斗と、まさにオールスターだった。
「えーっと皆さん、集まっていただいてありがとうございます。今日集まってもらったのは、今後の方針を決めるために、皆さんの知恵を貸してもらいたいと思ったからです。」
盛弥はそう言うと、現在の状況とそこに至るまでの展開を事細かに説明した。その説明が終わると、次に取るべき選択肢を提示してそれぞれの意見を聞いた。
「これから取るべき選択肢は、次の通りです。」
ホワイトボードに書き連ねた選択肢を差しながら読み上げていく。
「まずは、クザスの思惑に乗っかって蚊人本部を攻める。これは、本部の場所の調査に時間が必要なため、準備期間に攻められる可能性があります。次に、クザスを攻める。単純な考えでは最もやりやすいですが、沙月ちゃんが操られる可能性があるのと、どうなるか分からないという点では一番危険です。そして、こちらからは手を出さない。防御に徹することになるので受け身になりますが、対策を立てる時間は結構あると思うので安全と言えば安全です。相手の出方も窺えるので、対処も問題ないと思います。」
盛弥が皆に意見を尋ねると、まずは沙月が手を挙げた。
「私は、クザスを攻めるのだけは反対。また操られるのかもしれないし、もっとひどいことになるかもしれないから。」
「うん。それは至極もっともな意見だね。あくまで可能性の1つだから、そうなる確率の方が低いと思うけど・・・・・・
」
周りの反応を伺うと、皆が当たり前だというような表情をしている。沙月は、頭を下げてお礼を言った。
「皆さん、ありがとうございます。」
眞利がそばに寄りそっている。
「じゃあ、クザスを攻める案はとりあえずなしということで。他に意見がある人はいますか?」
今度は、常長が手を挙げている。
「どちらにするにせよ、まずは相手の情報があった方がいいんじゃないか?」
彩子ら大人たちも頷いているので、意義はないのだろう。彩子が代表して手を挙げると、こう提案した。
「一旦、次にどう動くかは置いておいて、まずは、敵状視察をしたらどう?敵の情報が分かれば、対策も立てやすいと思うわ。」
その場は満場一致で、その案に賛成となった。
家に帰った盛弥は、偵察用の布陣を考えていた。
「蚊人の方は、場所を知ってる沙月ちゃんと、戦えるオニコだな…。クザスのほうに眞利は避けた方がいいから…。」
などとひとりごとを言っていると、オニコが側に寄ってきた。
「セーヤ、考えはまとまりそう?」
ふと香ばしい香りに顔をあげると、オニコがコーヒーを持っていた。
「お、ありがとう。そうだな。もう少しかかりそうだ。」
最近、オニコの女子力が上がってきている気がする。今のように飲み物を持ってくるだけでなく、料理のレパートリーもだいぶ増えた。盛弥としては、出来るだけ彼女にやらせたくはないのだが、ここ数日は考えることが多くて頼りきりになっていた。オニコは隣にちょこんと座ると、無邪気な子供のように盛弥のメモを覗き込んだ。
「私はこっち?」
蚊人と書いてある場所に、自分の名前があるのを見て聞いてくる。
「ん?ああ、こっちの方が戦力が必要だからな。」
オニコは、ふーんと言うと今度は盛弥を見て聞く。
「戦っていいの?」
「ダメ。極力見つからないように偵察するだけだ。戦うのは、見つかった時の最終手段だな。」
それからオニコの頭に手を置くと、優しく撫でながら続けた。
「場所は沙月ちゃんが知ってるから。頼んだぞ。」
オニコは、元気よく頷くと猫が甘えるように擦り寄ってきた。
数日後、盛弥は関係者に布陣の連絡をした。彼の立てた布陣は、蚊人の偵察にオニコと沙月、それにいざというときの伝令として彩子を付けた。そしてクザスの偵察には、盛弥と奥野そして常長を付けた。更に拠点として眞利を置いて情報整理と連絡をしてもらうことにした。決行は、日程調整をして明後日になった。
当日。午後8時に盛弥の家に集合した偵察メンバーは、目的の確認をして出発した。
「まず、目的は敵の現状を把握する事。倒す事じゃないから、間違えないように。」
盛弥がそう言うと、オニコが手を挙げた。
「セーヤ。別に、倒してしまっても構わんのでしょう?」
「おいそこ。定番のフラグ台詞を言わない。」
何故か得意げに言うオニコに、即座につっこむ。
「とにかく、出来るだけ見つからないように。あと、眞利にはこまめに連絡する事。眞利は、情報のやり取りを密に頼む。」
眞利が頷いたことを確認すると、全員生きて帰ることを約束して出発した。
オニコと沙月は、自分達の居場所を彩子に知らせながら、2人でどんどん向かって行く。
「さっちゃん。意外と早いね。」
「まぁね。自分の力じゃないのが不服だけど。」
似たような隠密スタイルの2人は、住宅街の屋根の上を音もなく疾走しながら、沙月の案内で進んで行った。一方、盛弥達は常長の運転でクザスの家の近くまで向かうと、家の様子がよく見える場所に車を止め、車内に常長を残して2人で向かった。家の近くに来ると、様子を窺って門の前までやってきた。
「高平さん、どうやって調べますか?」
「偵察っていっても、俺達には潜伏とかできないからな。こうだな。」
盛弥はドアホンに手を伸ばすと、ベルを鳴らした。突然の意図せぬ出来事に、驚愕と戸惑いが同時に押し寄せている奥野を尻目に待っていると、ドアの向こうに灯りがついてクザスが出てきた。
「あら?珍しいじゃない。何か用かしら?彼女なら解放したはずだけれど?」
「分かってるくせに何言ってんだよ。ちょっと話がしたい。」
クザスは、小さく笑うと2人を招き入れた。奥野が小声で聞いてくる。
「ちょっと!いいんですか!?」
盛弥は、いいんだよと制すると通された居間へ向かった。クザスが暮らすこの空き家は、少し前の時代を思わせるような雰囲気だった。炬燵机で待っていると、お茶を持ったクザスが戻ってきた。
「随分馴染んでるな。もう少し趣味悪いかと思った。」
親戚のおばあちゃん家に行ったような展開に、妙に馴染んでいるクザスに少し驚き、小さく笑いが漏れる。
「何よ。別にいいでしょ?これぐらい。それより、話とは何かしら?」
クザスは、2人の向かいに座ると真剣なトーンで聞いてきた。
「なあ。お前達の目的って何だ?幹部のお前なら分かるだろ?」
「ええ。でも、教える義理は無いと思うわ。それに、世間に向けて宣言したのだけれど?」
確かにそれはテレビで観た。しかし盛弥には、別の目的がある気がしてならなかった。世間に向けて宣言したのであれば、国が動かないはずはない。対処の必要性を感じていないというのは、死傷者が出ている状況から見て無いだろう。あるとすれば、蚊人側から手が回っている可能性だ。そして、なぜ手が回っているのかは、今のクザスに聞けば分かるというのが彼の考えである。
「あれは建前的な感じだろ?本来の目的だよ。」
クザスは、小さく笑いながら返してきた。
「フフッ。深読みしすぎよ。あのまんまだから安心なさい。」
「まんまって、まさかそのまま!?」
盛弥達が怪しんでいると、更にクザスが続ける。
「あれは、抽象的にしただけ。具体的な中身はごく一部しか知らないわ。」
つまり、トップと幹部だけなのだろう。
「その中身は、お前が知ってるだろ?」
「あくまで知りたいのね。いいわよ。私はその目的を放棄した身で、奴らがどうなろうと関係ないものね。」
するとクザスは、本来の目的を話し始めた。
「本当の目的は、復讐よ。」
「復讐?何への?」
盛弥達が理解できずにいると、クザスが指をさして答えた。
「あなた達『人間』。」
「に、人間?」
今のところ、盛弥と奥野はクザスの言おうとしていることが見えていない。そんな彼らにクザスは、蚊人について話し始めた。
「最初に言っておくけど、私達は最初からこの姿ではないの。元々は蚊なのよ。」
言いたいことが見えていない2人は、更に新情報を加えられ、一層困惑する。
「蚊人トップのリンキ。彼の前身にあたる蚊が、どういう訳か人間の血を大量に吸い上げてしまったの。すると、人間のような容姿と知能を手に入れたのよ。その知能の中に記憶も含まれていて、彼はそれを見た。あなた達人間であれば、大多数が無意識のうちに経験する夏の恒例行事。彼に復讐を決意させた行為は、もう分かるでしょう?」
そう。リンキが見た記憶とは、恐らくほぼ全ての日本人が経験するであろう夏に蚊を潰すことだった。潰さずとも、蚊取り線香や殺虫剤でも同意だろう。
「てことは、お前とか他の幹部も血を大量に吸ったってことでいいのか?」
クザスは首を横に振って否定すると、リンキについて話し始めた。
「彼だけが持つ能力に、蚊人生成があるわ。これは、蚊を媒体にすれば蚊人をいくらでも作り出せるの。蚊を自分の血で無理矢理変えてる感じかしら?私と他の幹部は、それで作られた最初の4人よ。今でも彼は、戦力増強のために使っているでしょうね。」
「つまり、蚊のゴーレム的なやつか……。」
「加えて彼には、誘蚊体質があるから、実質無限生成可能ね。」
蚊人の戦力があまり減らない秘密を知り、ラスボスのチート性能にうんざりする盛弥だったが、その後もクザスから蚊人のことを詳しく聞くことができた。今回は、蚊人のボスであるリンキの情報を知れたことが大きい。盛弥達が帰ろうと立ち上がると、クザスが待ったをかけた。
「ところで、見返りは期待してもいいのかしら?」
「あーそれな。一応希望だけ聞いとくけど?」
「高平さん!?」と戸惑っている奥野を尻目に、返答する。
「そうね。じゃあ、あなた達が持ってるっていう人間に戻れる薬。私にも使って欲しいのだけど?」
調子に乗るなと怒る奥野を静止し、盛弥は考えておくと答えた。
「返事は保留で。恐らく俺に決定権ないから。あと、蚊人に効くかは分からんぞ。」
クザスは承諾すると、小さく笑って2人を見送った。
お読みいただきありがとうございます。
諸事情があって、久しぶりの更新になってしまいましたが、変わらずお楽しみいただけると嬉しいです。今後は、引き続き更新していきますので気に入っていただけた方は、覗いてみてください。
それでは、今後も宜しければお付き合いください。よろしくお願いします。




