第二十七話 クザスの策略
クザスと沙月の拠点を舞台にした、蚊人とクザス、そして盛弥達の三つ巴の削り合いが終了した。結果はコビャが死亡、ブゲンは強化体Bこと今田と合体して逃亡。クザスと沙月は、それぞれ軽傷だった。盛弥達は眞利が重傷、コビャの使役していた強化体Fを回収となり、それぞれ痛み分けになった。
その後、クザスが企てた策略とは?それぞれが次のステップに向けて動き出す。
クザスが拠点としている空き家に戻ると、沙月が傷の手当てをしていた。彼女の右手の指からは、蚊人であれば喉から手が出る程求める鮮血が出ている。しかしクザスは、欲求を押し殺すと自らの手当てをするために隣に座る。
「盛弥達は?」
クザスに気付いた沙月が尋ねてくる。
「撤退よ。あなたの友達も大怪我のようね。」
血の臭いから推測した事を伝える。心配そうな顔になる沙月だが、クザスに対してボソッと呟いた。
「ありがとう・・・。」
驚くクザスだったが、小さく笑って返した。
「いいわよ。」
その時、沙月が思い出した様に聞いてきた。
「そういえば、そろそろ解放してもらえるの?」
クザスは、自分を取り巻く現状に考えを巡らせる。自分との敵対勢力は、蚊人のリンキとブゲン。そして盛弥達となる。今彼女を解放すれば、間違いなく盛弥達に合流するだろう。そうすれば、自分に対する彼らの敵対心は無くなるだろうか?それとも、相手の戦力を増やしただけで、自分不利になるかもしれない。また解放した時点で、蚊人サイドに自分から仕掛ける気はなくなるが、向こうから仕掛けてくる可能性は十分ある。その場合は、確実に不利になる。いろいろ考えた上で、クザスが出した答えは、沙月に蚊人の情報を持たせて解放することだった。
クザスは沙月に、リンキ達の情報と蚊人本部の場所の予想などを知っている限り教えた。
「いい?今伝えた事が私の知る限りよ。今から解放するわ。」
沙月は、少し驚いている様だ。
「情報を教えていいの?私の行先くらい分かるでしょう?」
「ええ。もちろん。これはあなた達のためじゃないわ。私が攻められないためよ。早く倒して頂戴。」
沙月は、もちろんクザスを許した訳ではない。何処までも自分中心な彼女に腹が立つが、逆に利用しようと考えた。そしてあえてクザスに聞いてみる。
「帰してもらえるなら、人間に戻して欲しいのだけど?」
クザスは、頷かなかった。その上、こんな事を言い出した。
「そのまま帰すわよ。戦闘能力がある方がいいでしょ?あと、幹部と強化体の繋がりも残すから。戦況把握のためよ?因みに他言無用だから。」
クザスが自分を利用する気だと確信した沙月は、気付いていないふりを演じて空き家を出て行った。
盛弥が、眞利を抱えて蘇我医院にやってきた。診療時間前だったが、眞利の傷を見た蘇我は大急ぎで手当てをしてくれた。それが終わると、少し話があると引き留められた。
「以前言っていた薬の件なんだけどね。ついに出来たよ。」
待ってましたと言わんばかりの反応を見せる盛弥。しかし蘇我は、条件を付け加えた。
「強化体にされた人を戻すのに十分な効果はある。でも、吸血鬼を戻すのには足りないと思う。」
盛弥が説明を求めると、蘇我は結論に至る過程を話し始めた。
「強化体は人間の体内に、蚊人の持つ何かしらの成分を入れて強化されている。その成分を解毒できれば、人間には戻れる。でも、吸血鬼になると話は別だ。本来は人間の血を大量に吸わないと戻れないと言っていたね?」
盛弥が頷いたのを確認して先を続ける。
「ということは、血の成分が関係している事になる。ここで、強化体との関係が出てきた。」
「血の成分・・・!」
盛弥が恐る恐る答えると、正解の反応を示した蘇我が、その先を続けた。
「それぞれの血の成分を調べると、一か所だけ違う場所があったんだ。そこを簡単に説明すると、強化体よりオニコちゃんの方がより強い成分が含まれていたんだ。」
つまり、強化体の成分が変化して、より影響力が強まった成分がオニコの中にあるらしい。蘇我曰く、その成分を弱める薬を投与するらしい。厳密にいうと、極限まで人間に近づけるイメージなのかもしれない。強化体を戻せる量を含んだ薬をオニコに投与し、足りない分は今まで通り蚊人からの吸血で賄う事にした盛弥は、眞利を連れて帰宅した後に、オニコにその事を話した。
「そっか・・・。人間には戻れるんだね・・・。」
オニコは一瞬、寝ている眞利の方に目をやると、意を決した様に聞いてきた。
「セーヤ、前から考えてたんだけど…私が人間に戻っても一緒にいてくれる?」
オニコの懇願する様な目に、思わず抱きしめて答える。
「ああ。当たり前だろ?ずっと一緒だ。」
オニコは、心配事が解決した様に盛弥の腕の中で泣きじゃくった。泣き止むと、静かに寝息を立て始めてしまったので、布団に寝かして、盛弥は大学へ向かった。
眞利が目覚めると、見覚えのある彼氏の家の天井が目に入った。体を起こそうとして、腹部に走る激痛に思わず声が漏れる。手を当ててみると、胸の下から包帯がぐるぐる巻にされていた。
「そういえば私、負傷したんだ。また迷惑かけちゃったかな…?」
盛弥が大学へ行っただろうと思い、連絡しようと、手の届く範囲を手探りで探す。ポケットからスマホを取り出して画面を見ると、沙月からの着信が多数入っていた。もしやと思った眞利は、着信を選択してかけなおした。呼び出し音が数回なって、出る音がした。
「もしもし、さっちゃん?」
恐る恐る聞いてみる。
「眞利ー。何処にいるのー。いつ家に帰るのー?」
電話口からは、途方に暮れた様な疲れ切った声が聞こえてきた。
「ごめん。私、負傷してて今夜は帰れないの。盛弥の家にいるけど、来る?」
『うん。』と、か細い返事がして電話が切れる。眞利がかけ直そうとすると、メッセージがきた。
「高平君の家ってどこ?」
眞利は、苦笑いすると返信で場所を教えた。
盛弥が講義を終えて帰宅すると、まず目を疑った。
「え?沙月ちゃん?何でいるの?」
沙月は、こちらに気付くと明るい声を発した。
「あっ、お邪魔してまーす。」
沙月は赤いジャージに身を包み、横になっている眞利の側に座っている。オニコはまだ眠っているようだ。とりあえず靴を脱いだ盛弥は、2人の近くに行くとそれぞれに様子を聞いた。
「眞利は、大丈夫?」
「うん。ありがと。起き上がれないけど、元気はあるよ。」
「そっか。傷が深いから、しばらくこんな感じかな。で、」
沙月に向き合った盛弥は、とりあえず口を開いた。
「見たところ元気そうだからいいんだけど…いろいろ聞いていい?」
沙月は盛弥の申し出を了承すると、質問に対していろいろ話してくれた。まとめると、彼女の体調などに問題はないが、クザスから戦闘力と情報を与えられて解放された。また、クザスは動く気はない。ということのようだ。
「チッ、あの女・・・。」
もたらされた情報から、クザスの狙いに気付いた盛弥。眞利が様子を伺う視線を向けてくるので、考えを話す。
「奴が動かないのは、本当だと思う。沙月ちゃんに戦闘力と情報を持たせたのは、俺たちの戦力を増やして、代わりに蚊人を倒してもらおうと思ってるから。本当に動かないつもりなのか、漁夫の利を狙ってるのか・・・。そこまでは分からないな・・・。」
「漁夫の利って、何を狙ってるの?」
眞利が聞いてくる。盛弥は、あくまで推測だと前置きしてから答えた。
「クザスからしたら、俺たちも蚊人達も敵対勢力なのに変わりはない。だから、自分の安全を確保する為に、両方倒そうと考えなくもないよ。」
沙月も頷いている。目が真剣なことからも、概ね合っているのだろう。眞利は納得した様だが、クザスへの怒りは増した様だった。
「さて、ところでこれからどうするか・・・。」
このままクザスの狙いに乗っかるか、逆に背くか…。今後のことを考えていると、薬のことが頭をよぎった。盛弥は、眞利と沙月に薬のことを話した。眞利は喜んでいたが、沙月は微妙な表情をしている。
「さっちゃん、よかったね。」
眞利の言葉もあまり届いていない様だった。盛弥が心配すると、言いづらそうに口を開いた。
「私に戦闘力があるのって、倒してこいっていうことだと思う。下手げに敵意を向けたらどうなるか分からないし…。」
盛弥は「そこなんだよなぁ。」と言うと、後ろに倒れて寝転がった。すると、オニコが目を擦りながら起きてきた。
「おかえりセーヤ。ん?」
沙月が視界に入ると、固まるオニコ。それを見た盛弥は、思わず笑い出すと立ち上がってキッチンへ向かった。
「さあて、晩飯にするかね。」
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ物語が佳境に近づいてきました。どこまで続くかまだ未定ですが、宜しければ完結までお付き合いください。
今後も更新していく予定ですので、気に入っていただけた際はブクマや評価等よろしくお願いします。




