第二十六話 蚊人の奥義
蚊人幹部が仲間割れして、争うことになった。そんな戦場に乗り込んだ盛弥達。オニコと眞利の連携で、四神の白虎枠である幹部を倒したが眞利が重傷を負ってしまう。
そんな中、戦況は次の段階に進んだ。家の裏手で、自我はあるもののクザスに捕らわれたままの沙月の説得を試みる盛弥。強化体の解放を優先する彼の作戦は、成功するのだろうか。
オニコは、コビャの絶命を確認すると屋根の上に取って返した。屋根の上では、眞利が傷の痛みを堪えて蹲っている。
「マリ、大丈夫?」
見たところ、そこそこ深めの傷が4本腹部に走っている。眞利は、悔しそうにオニコに伝えた。
「オニコちゃん。私は、しばらく動けそうにないからここにいるよ。盛弥達を助けて。さっちゃんをお願い。」
オニコはそう言う眞利を抱えて下に降りると、離れた木にもたれさせて休ませ、盛弥達の元へ向かった。盛弥は、眞利が負傷する一部始終を見ていたが、沙月の相手をするのに手いっぱいで何もできなかった。オニコがやってくるのを確認すると、沙月に聞こえるように大声で尋ねた。
「オニコ!眞利の様子は?」
オニコが、あまりよくないとばかりに首を横に振る。その様子に、明らかに動揺する沙月。彼女は盛弥が説得を試みるも、戦わないと自分の身が危ういと言って頑なだった。
「沙月ちゃん。俺も、眞利も、君とやり合うのは望んでない。戻ってきてくれ。」
「ダメだよ高平君・・・。私は、体に強化因子を入れられているの。もう人間じゃないの。だから、もう眞利と一緒にはいれない!それに、クザスは私を自由に操れる。クザスを倒さないとダメだよ・・・。」
沙月が自ら語った自身の現状に、つい閉口してしまう盛弥だったが、眞利の為でもあると考えて、伝えるべきことは伝えることにした。
「今、オニコを人間に戻す薬を作るついでに、強化体にされてしまった人を戻せないかも調べてもらってるんだ。だから、人間に戻れる可能性はまだある。それだけは覚えておいてほしい。」
沙月は小さく頷くと、逃げるように家の向こう側へ行ってしまった。盛弥が奥野を確認すると、ちょうど相手を追い詰めてとどめを刺すところだった。奥野は、魔法で刀に氷の力を付与させると相手のみぞおち付近に突き刺した。
「凍結刺突。」
相手は一瞬で凍り付き動かなくなる。奥野は、刀を引き抜き盛弥の方を向く。彼の視線の先には、木にぶつかって気絶したままの美月の姿があった。
コビャの絶命を目の当たりにしたブゲンは、クザスを振り払って撤退しようとするが、クザスがそれをさせないようにまとわりついてくる。クザスを振り払うことに自棄になっていると、彼女の使役する強化体が合流した。数的に不利だと感じたブゲンは、強化体Bに合流の指示を出す。しかし、いつも帰ってくるはずの反応が返ってこない。
「指示を出してもダメですよ。」
不意に相手の強化体が、話しかけてきた。怪しんでいると、更に言葉を続けてくる。
「あなたの強化体は気絶中で動けないので、どんな指示でも動きませんよ。」
伝えられた事実を否定したいが、強化体Bからの反応がないことが、正しさを物語っている。それに続けて、クザスも口を開く。
「それに、もし動けるようになってもこちらには来れないわね。彼らに阻まれるもの。」
彼らが盛弥達を差していることは、沙月には容易に理解できた。どうやらクザスは、盛弥達も利用してブゲンを足止めする気らしい。ニヤリと不敵な笑みを浮かべたクザスは、双剣に炎を付与してブゲンに歩み寄る。沙月も刀に炎を付与すると、クザスとの間にブゲンを挟む位置に移動する。2人がそれぞれ斬りかかる体勢に入ると、ブゲンは決死の覚悟で、奥義の使用を決意した。
「フレイムブレード!」
「ツインバースト。」
ブゲンの前後から、炎の斬撃が迫ってくる。ブゲンは目を閉じると、強化体Bとのつながりに意識を飛ばす。
「奥義!蛇流憑依!」
ブゲンが一匹の蛇に変化すると、光の筋となって家の裏手に飛んでいく。沙月とクザスは、急に標的が消えたことで勢い余り、相打ちになる。
「くっ・・・!やられたわね。」
「今・・・奥義って言ってたけど・・・どうなるの?」
沙月は傷つきながら、ブゲンの行動の説明を求める。クザスは、悔しそうにブゲンが飛んでいった方向を睨みながら答えた。
「奥義は、蚊人幹部が自分の魂を他の個体に移して生き永らえるための術よ。最も、死を覚悟した時しか使わないのだけれど、どうやらその時だったようね。今裏手では、彼らが被害を受けているでしょうけど。」
沙月は、幹部が使えるということは・・・とクザスを見ると、クザスは首を振って否定した。その反応にとりあえず安堵した沙月が、盛弥達を案じるように遠い目をしていると、それを見たクザスが指示を出した。
「あなたは、家の中に入りなさい。私は裏手を確認してから戻るわ。」
それを聞いた沙月は、じゃあと言うと一言だけ言い残した。
「彼らと争うのはやめて。私の本意じゃないわ。」
「そうね。考えとくわ。」
クザスの返事を聞いた沙月は、頼むよというように手を振ると家に入って行った。
白虎枠の幹部が従えていた強化体を回収した盛弥達は、木にぶつかった衝撃で気絶してしまった美月の周りに集まっていた。
「遊馬。さっきやった技って、どういうやつなんだ?」
「凍結刺突ですか?あれは強化体捕獲のために考えたんですけど、刀で刺して対象を凍らせることで、冷凍保存みたいな感じにする技です。」
「そうか・・・。今田さんにもできる?」
「わ、分かりました。やってみます。」
奥野が美月に向かって刀を向け、突き刺そうと決心した時、光の筋が飛んできて美月に吸い込まれていった。
「え?」
予想外の現象に、オニコも驚いているようだ。光の筋が全て吸い込まれると、気絶しているはずの美月の目が開き、眼球が青く光った。
「まずい!離れろ!」
盛弥の指示が飛ぶ。全員が飛び退くと、美月が立ち上がる。盛弥達は身構えるが、美月は彼らを一瞥しただけでどこかへ去ってしまった。盛弥達が想定外のことにあっけにとられていると、屋根の上から声が聞こえてきた。
「残念だったわね。ちなみに私達に戦う意思はないから、失礼するわよ。」
見るとクザスが、真っ赤なマントを翻して反対側へ降りていくところだった。盛弥は、何とも言えない不完全燃焼な感覚になったが、眞利の事が頭をよぎりオニコの後について急いで彼女の元へ向かった。眞利は、木にもたれて眠っていたが、オニコにも聞いた通りお腹にはそこそこ深い傷があった。
「今は・・・7時か・・・。とりあえず、蘇我医院に連れて行くぞ。」
盛弥は眞利を抱きかかえると、オニコと奥野を連れて蘇我医院へ向かった。
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