第二十四話 潜伏先
蚊人幹部による定例会議で、ブドラを見殺しにした嫌疑をかけられた上に、挽回チャンスとして無理難題を吹っ掛けられたクザス。強化体に調教中だったものの、反抗心に邪魔されてうまくいっていなかった沙月を、解放を条件に彼女の自我を残したまま牢から出すと自分の配下に加える。無理矢理従わされた沙月だったが、盛弥達の元に帰る為蚊人本部を脱出する。脱出に成功した二人は、新たな拠点を見つけるが、沙月を解放するという約束は実行されなかった。その理由やいかに?
一方眞利は、沙月からのメッセージを受信する。盛弥に相談し、救出の作戦を立てた一行は早速向かうが様子がおかしく・・・?
蚊人本部が、炎に包まれて崩れようとしている。その様子を名残惜しげに見ながら、幹部達に促されて歩みを進めるリンキ。
「クザスめ。逃げた報いは必ず返してやる。」
そう息巻くコビャ。ブゲンは、静かにコビャを宥めながら、クザス許すまじと闘志を燃やしていた。彼らは、コビャとブゲンの僅かな部下を引き連れ、リンキ直属の部隊が拠点としている場所へ向かった。
眞利が、盛弥の家でオニコの相手をしていると、スマホが沙月からのメッセージを知らせた。慌ててアプリを開くと、メッセージと共に自撮り写真が添えられていた。
『眞利へ。心配させてごめん。色々あったけど、無事に解放されたよ。でも、すぐに合流出来そうにないの。ごめん。また連絡するね。』
写真は元気そうだったが、文面と写真に映るスーツの女が気になった。盛弥に見せると、驚きながらも冷静な分析をしてくれた。
「可能性としてはいくつかあるな。まずは、完全に解放された可能性。これは、すぐに合流出来そうにないってのが引っかかる。次は、スマホだけ渡されてメッセージを送らされた可能性。最悪だけど、理由が分からない。そして、解放されたのか、されてないのか微妙な可能性。」
「ん?どういうこと?」
うんうんと聞いていた眞利だったが、最後の可能性に引っかかった。
「つまり、スマホを扱える程度の自由は与えられたけど、行動は制限されてるみたいな感じ。」
眞利がなるほどと納得すると、盛弥が続けた。
「で、俺はこの微妙な可能性が高いと思う。他は、不自然だからな。」
眞利が同意すると、盛弥はオニコを呼んだ。
「オニコ。今夜、偵察に行ってきてくれないか?場所はここ。クザスの手がかりを探してきて欲しい。」
オニコは頷いて了承すると、ふざける様なトーンで返した。
「セーヤ、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
盛弥は、オニコの頭をポンと叩くと、追加で注文する。
「ったく、どこで覚えたんだよ。いいか。普通の蚊人なら好きにしていいけど、幹部と強化体が出てきたら撤退だ。」
オニコは笑顔で頷くと、その日の夜に隠密装備で出かけて行った。
翌日。帰ってきたオニコに、盛弥が様子を聞いた。
「オニコ、昨日はどうだった?なんかあったか?」
オニコは頷くと、昨夜のことを話してくれた。
「セーヤに教えてもらった場所に行ったら、あたりを伺っている蚊人が4人いたの。そしたら後から4人やってきて、争い始めたの。」
オニコが述べた事に、当然引っかかる盛弥。今まで蚊人同士が争う所は見たことがない。むしろ、一体となって人間を襲う印象しかない。
「なんかあったのかな?」
盛弥はそう考えるが、オニコはあまり気にならない様だ。
「まあ、人間じゃないからよく分からないってのもあるけどね。」
そんなふうに言った後で、そのあとを続けた。
「それで、試しに乱入してみたら、戦わずに逃げ出す奴もいたの。その反応を追っていったら、一軒の家に入っていったの。なんか嫌な予感がしたから、そこからは行ってないよ。」
おそらくその家にクザスがいると考えた盛弥は、パトロールで行ってみることにした。
盛弥、オニコ、眞利、奥野の4人がクザスがいると考えられる家の近くまでやってきた。都会から少し離れた場所に建っているその家は、数年前に空き家になったと彩子が調べてくれた。家の門には、クザス配下の蚊人が番をしている。
「ねぇ盛弥。あの家だよね。」
今にも突撃しそうな眞利が、興奮気味に尋ねてくる。
「ああ。絶対出るなよ?オニコ、見てこれるか?」
オニコは頷くと、隠密モードで様子を窺いに行った。門番に気づかれない様に、家の周りを囲っている塀を乗り越えると、クザスと沙月の声が聞こえてきた。
「私は、いつ解放して貰えるのよ!」
「ちょっと待ちなさい。こんなのが届いたのよ。」
沙月は解放を催促している様だが、クザスが何かを見せた。紙の音がしたので、おそらく手紙か何かだろう。すると、沙月の驚いた声が聞こえてきた。
「明朝6時って、どうするのよ!」
「ここまで来たら、徹底抗戦ね。そこで奴らを壊滅なさい。そうしたら解放してあげるわ。」
沙月は、舌打ちをひとつすると部屋から出て行った。オニコは、息を殺してその場から離脱した。盛弥達の元へ帰ると、待ってましたと話を聞きたがった。オニコが聞いてきたことを話すと、盛弥が作戦を立て始めた。
「眞利。明日って、授業あったっけ?」
「あるけど、最終コマだけ。」
「よし、いけるな。遊馬は?」
「昼からです。」
全員の予定を聞き終えると、意を決した様に話し始めた。
「今日はこのまま引き返す。明日の早朝にもう一回来るぞ。俺は念のため徹夜するから、眞利にあとを頼む。いい?」
眞利に確認を取ると、ひとついい?と質問してきた。
「明日の授業はいいとして、私はオニコちゃんと奥野君を返して連れてくればいいの?」
盛弥が肯定すると、分かったと言って2人を連れて帰った。オニコが少し我儘を言ったが、最大戦力だからと帰らせた。
盛弥の読みでは、その家にクザスとなんらかの理由で一緒にいる沙月がいる。そして、オニコから聞いた話では、明朝何者かが攻めてくるのだろう。そこで、相手を確認した上で乱入し、沙月の解放とクザスの討伐を狙う。その考えがはっきり思い描けたのは、日付が変わった後だった。それから眠い目を擦りながら、数時間監視を続けていると、スマホがメッセージを通知した。メッセージは眞利からで、オニコを泊める事と盛弥の体を案じる内容だった。大丈夫だと返信していると、家から赤いボディースーツの女が出てきた。
「あれは…クザスじゃないな。って事は沙月ちゃんか!」
沙月が、家の裏手にある林の中に入るのを確認して少しすると、林から断末魔が聞こえてきた。
「何をしてるんだ?」
沙月は、自分たちの居場所をリークしている元ブドラの配下達を殺しているのだが、蚊人の現状を知らない盛弥は、ただただ疑問に思うだけだった。しばらくすると、沙月は家に入って行った。
朝5時半。まだ眞利達がやって来ないうちに、家の周りを蚊人の集団が取り囲んだ。塀の内側は、クザス配下の蚊人が固めており、門は閉められている。クザスは籠る気らしい。
「あれは…幹部だよな?仲間割れか?」
少し離れた場所に身を隠しながら、盛弥は様子を伺っていた。幹部と思しき人影が2つと、強化体が2人、家を囲う様に陣取っている。盛弥の記憶から、幹部の片方はブゲンで、連れているのは強化体Bこと今田美月だろう。もう片方は、小柄だが腕から針の代わりに長い爪が付いている。
「あれが白虎だな。連れているのは…!」
盛弥は、白虎枠の幹部が連れている強化体の姿に注目した。その姿は、他の強化体と同様にベースは人間だが、手足が大きくなっている。よくゲームキャラなんかである4頭身くらいのバランスも特徴だろう。驚いていると、眞利達がやってきて同じ様に驚いている。少し後にクザスが家から出てくると、場の空気が緊張する。一触即発の雰囲気の中で、幹部同士による問答が始まった。
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2021年最後の更新です。今年は投稿を始めた年で、意外と多くの方に作品を読んでいただけることに驚いた年でした。来年は、作品を書き続けることを目標に活動していきたいと思います。
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