第二十三話 離反
オニコが、元いた平安時代に帰ることができないと分かった。その事実に耐えきれず、盛弥にだけ泣きじゃくる姿を見せた。盛弥は、せめて人間に戻してあげようと決意するのだった。
一方盛弥達に撃退され、味方の幹部達からも味方を1人死なせた不祥事として、理不尽な追求を受け無理難題を吹っ掛けられたクザス。彼女は、現状での自身の安全を鑑み、あることを思いつく。はたして、沙月の前に現れた彼女の思惑とは?
ある日、沙月は牢の外に出された。目の前には、自分を捉えた女がいる。なんとか暴走状態は抜け出したものの、強化因子とかいうものを無理矢理注射されてからが長かった。親友を襲ってしまった罪悪感を忘れないために、自分を乗っ取ろうとしてくる何かにひたすら抗った。飲み込まれてしまったら、忘れてしまうと本能が訴えていた。時折、目の前の女に炎で苦痛を与えられながらも、何とか抗い続けた。牢から出されて何事かと思うと、女が耳元で囁いた。
「あなたを解放する代わりに、私に協力しなさい。」
解放の二文字に希望が見える。眞利達の元へ帰れる。と思った矢先、体の中の何かが沸騰するのを感じた。
「えっ?何?」
すると、沙月の周りを炎が囲い、しばらくして消える。
「ようこそ、私の部下へ。」
女はそう言うと、ついてくるように目で合図し部屋を出る。隣の部屋へ場所を移すと、女は置いてある豪勢な席に座る。沙月のイメージだと、会社の社長室みたいな感じだった。女はこちらを向くと、話し始めた。
「覚えがあるか分からないけど、私は蚊人幹部のクザスよ。あなたと取引したいのだけど?」
「取引?」
「ええ。あなた、元の環境に戻りたいでしょ?」
「当たり前でしょ?」
「そんなあなたを帰してあげるわ。その代わり、私に協力してくれたらね?」
「協力?何故あなたに?」
「今のあなたは、ここを抜け出したい。その為の力もある。あいにく私も同じなのよ。利害の一致というやつかしら?あなたの力を借りたいのよ。」
徐々に人間の自覚が回復してきた沙月は、説明を求めた。
「言っていることがよく分からないんだけど?」
「あなたは、人間でありながら体内に強化因子を有している。ということは、人間の身で蚊人の強さを持っているのよ。私は、この集団にいるのが嫌になったの。だから、離脱して身を隠すわ。ここを出るまで力を貸しなさい。その先は好きにしていいわよ。」
沙月には、クザスが自己中の塊にしか見えなかった。自分の目的を達成する為の道具としてしか見ていない事に腹が立った沙月は、怒りを込めた声で返した。
「要するに、身の安全を確保するために用心棒をやれという事?そんなの御免に決まってるでしょ?自分を攫った相手をどうして守らないといけないのよ!」
クザスを睨みつけながら、思い切り反論する。しかし、自分にも有益なこの提案自体を、無下にするつもりはない沙月。ふん!と鼻を鳴らすと、こう続けた。
「でも、私にも利益はあるから、条件の追加で手を打つわ。」
「へえ?追加というのは?」
「まず、協力をお願いするのだから頼み方があるでしょ?それと、自分の目的だけじゃなくて私の希望も入れて。」
沙月の反論を聞いたクザスは、フッと笑うと失念していたというような態度で返した。
「それもそうね。いいわよ。希望を言ってみなさい。」
相変わらずの上から目線にため息が出そうになるが、どうしようもないとみて話すことにした。
「じゃあ、あなたが身を隠した後だけど、人間には一切手を出さないって約束して。それか、私達に倒されるかどちらかね。」
クザスは、小さく笑って答えた。
「そうね。ここは、自分可愛さに前者にするわ。それじゃあ、交渉成立ね。」
クザスが立ち上がって握手を求める。沙月は、少し考えてから、差し出された手を払った。しかし同意の意思は通じたようで、クザスは怒らなかった。
それからしばらく後、クザスと作戦を話し合った沙月は、全身赤のボディスーツにマントを纏い、目の周りだけの仮面を着けて蚊人本部内を荒らしていた。クザスの炎で、暴走することなく強化因子の影響を受けられるようになった沙月は、華麗な体捌きでクノイチの如く駆け回る。クザスに聞くまで気づかなかったのだが、蚊人の服装であるスーツの胸ポケットについているタグの色で所属が分かれているらしい。ちなみに、クザスの指揮下にある個体は赤が付いている。クザスには、赤以外の黄、青、緑、白の個体を減らしつつ、首領の部屋に離脱状を貼るように言われた。建物内の廊下を駆け抜けながら、目についた蚊人を燃やしていく。燃やされた個体は、苦しみながら消滅していく。やがて、黄色いというか、金に近い色のドアが見えて来た。
「うわっ、趣味悪。」
クザス曰く、首領であるリンキの部屋らしい。預かった手紙をドアに貼り付け、瞬時に離脱に入る。建物を出る途中、広い訓練場のような場所で腕からブレードを出している女性が、模擬戦闘をやらされていた。
「ん?」
女性の顔に見覚えを感じた沙月は、思わず立ち止まって物陰から覗く。
「あれは…美月先輩!?」
確証はないものの、そう感じた沙月は驚く。しかし、監督をしている男の元に伝令らしき影が何か囁くと、男が大声で周りに命令した。
「クザスが謀反!こちらの手勢も被害者あり、謀反人を捕らえよ!」
まずいと思った沙月は、出口まで走り抜けて、先に脱出していたクザスと合流した。クザスは、沙月の姿を確認すると用意していた魔法陣を起動させた。
「爆炎!」
沙月が心の中で、そのまま?と突っ込んでいると、クザスが少し安心したように呟いた。
「これで、雑魚はある程度片付いたわね。」
沙月が雑魚?と深掘りすると、リンキと幹部に強化体は既に脱出済みだろうとのことだった。沙月は、燃えている建物に背を向けるとクザスに別れを告げた。
「じゃあ、私は行くわよ。さっさと安全地帯を見つけて身を隠すこと。」
歩き出そうとする沙月を呼び止めたクザスは、こんな事を言い始めた。
「ちょっと、誰がいいって?私が身を隠すまでいなさい。」
「はあ?なんでよ?」
沙月がマジギレのトーンで反論すると、クザスが指をパチンと鳴らす。すると、沙月の全身に痺れが走る。
「うっ!な、何したのよ!」
「まだ私の指揮下という事ね。命令よ。私の側にいなさい。」
沙月は痺れに顔を顰めながら、クザスを睨みつける。しかし、どうしようもなくて観念し、了承した。
「わ、分かったよ。しばらくの間だけよ。」
クザスは、不敵に笑うとどこかへ向かって歩き始めた。
お読みいただきありがとうございます。
引き続き、感想や評価等お待ちしておりますので、宜しければお聞かせください。
今後も更新予定ですので、宜しければお付き合いください。よろしくお願いします。




