第十九話 苦悩と鼓舞
オニコを人間に戻す薬が、強化体として操られている人たちにも使えるのか。その判断材料として、蘇我院長に要求された強化体の容姿と動きの記録方法を思いついた盛弥達。その撮影をフリーライターの彩子とオカルト研究会部長の常長に依頼すると、彩子からは快い返事が来たものの、常長からは会いたいとの返事が?一方、蚊人幹部の間でもそれぞれの苦悩が生まれ始めていた。盛弥達にダメージを負わされたブドラや、計画自体がうまくいっていないクザス。各々どう動いていくのか?
ブドラは、本部の自室で悩んでいた。盛弥達との戦いで負傷し離脱してから、自室で事務仕事をこなす日々が数日続いていた。今日も、部下の提出した書類から前線の戦況を確認していた。次に前線に出るタイミングを考えていると、部屋のドアがノックされた。
「開いてるわよ。誰かしら?」
ドアが開いて、小柄で制服の左胸ポケットに虎の紋章をつけた幹部が入ってきた。
「ブドラ、少しいい?」
「あら、コビャ。どうかしたの?」
コビャは、幹部の中で最年少である。2人はよく共同作業を行うことが多いせいか、ブドラにはよく懐いていた。彼女からすれば、いい弟分の様な感覚だ。
「ターゲットの話を聞かせて欲しいなぁと思ったんだけど、ダメかな?」
「あなた、私を笑いにきたの?」
ブドラは、最近この話を振られると嫌味にしか思えなくなっていた。故に、コビャに対しても高圧的な態度をとってしまう。すると、コビャは慌てて否定した。
「ち、違うよ。幹部でまだ戦ってないのは俺だけだから、少しでも情報を仕入れときたいんだ。」
ブドラはコビャの態度を受けて冷静になると、そうね。と言って話し始めた。
「まず、私と戦った時は4人だったわ。」
「え?クザスの報告だと、もっと多かったよね?」
「ええ。でも、私の時は4人だったわ。人間が3人と、正体不明の女が1人。この女は強化体と互角の実力ね。それと、主に前線に出てくる男2人は、大した事ないわ。もう1人は、遠くから狙ってくるから姿は見えなかったわ。」
ブドラがそこまで言うと、コビャは不思議そうに首を傾げた。
「大した事ない奴に負けたの?」
「うるさいわね。連携してくるのよ。まあ人間だからそうするのが道理でしょうけど。」
コビャは、あくまで純粋な疑問として言ったようだが、ブドラには神経を逆撫でする言葉にしか聞こえず、言葉が悪くなる。
「まあ、あなたは攻撃範囲が広いから、遠距離攻撃に注意すればいいかも知れないわ。」
さりげなくアドバイスを付け加えると、コビャ明るい笑顔で頷いて出ていった。
「さて、私はどこで出るか。やっぱり近い方がいいわね。奴の状態を確認しておこうかしら。」
そう言って立ち上がると、部屋を出て強化体を拘束している牢へ様子を見に向かった。
その頃、同じ建物内の部屋にいるクザスは、沙月に強化因子を打ち込んだはいいものの、予想以上に強い彼女の自我を抑え込むのに苦労していた。
「早いところ自我をなくしておいた方が楽になるわよっ!」
彼女を拘束している鎖を自身の紅蓮に輝く炎で燃やし、手にした鞭でひたすら痛めつけている。しかし沙月は、必死に自身の中で炎への抵抗を続けている。鞭で打たれる痛みなど、まるで感じないかのように微動だにせず己の中で必死に戦っている。連日のその様子にイライラが募るクザスは、舌打ちをして鎖を燃やす炎の勢いを強めて自室に引き返した。
「ったく!どこまで抵抗するのよ!」
このところ、クザスの計画は沙月の抵抗によってすべてが頓挫していた。彼女を調教する時間を多くとられるが故に前線にも出られず、リンキに約束した眞利の捕獲も全然進んでいなかった。定例の幹部会議では、毎回のように進捗報告を求められるが言えることは何もない。リンキや他の幹部から責められることも多くなった。そんな何もかもが行き詰った日々にうんざりしていた。自室に入ると、部下からの報告書に目を通す。部下には、盛弥達の状況を調べさせている。部下たちは常に彼らを監視しており、動きは分かっている。あとは自分が出ていって眞利を自分の手駒にするだけなのがもどかしい。その時、クザスは自分の思考に引っかかった。
「そうね。先にやってしまえばいいのだわ。」
あることを閃いた彼女は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると立ち上がって部屋を出て行った。
盛弥の元には、協力要請の連絡を入れた彩子と常長から返事が来ていた。彩子は快く受けてくれたが、常長は一度会いたいとの事だった。そこで、授業に出席したついでにオカルト研究会の部屋を訪ねてみた。ドアをノックすると、奥野がひょっこり顔を出して人物の確認をする。盛弥だと分かると、部屋に入れてくれた。
「怪斗さん、高平さんが来ましたよ。」
奥野がそう呼びかけると、奥の机に向かっていた常長が立ち上がってこちらへくる。
「やあ、久しぶりだね。君達の動きは遊馬に聞いているよ。とりあえず、そこに座って。」
勧められた椅子に座ると、常長はしばらく音沙汰がなかった事について話し始めた。
「しばらくなんの連絡もせずに悪かったね。実は、このまま君達に協力し続けてもいいのか分からなくなってね。あ、いや君達に非はない。部員が2人も犠牲になって、本当に自分がトップでいいのか悩んだんだ。遊馬に君達に協力するように言ったのも、何もしないバツの悪さからだ。」
そこで一度言葉を切ると、チラッと盛弥のほうを見てから続きを話し始めた。
「それに、今回君に頼られたのだって正直自分でいいのか判断がつかない。こんな奴がいても、君の目的は達成できない。他をあたった方がいいと思うよ。」
そう言うと自信なさげに、座っていた机に戻ろうとする。奥野も、助けを求めるような目で盛弥を見ている。盛弥は、立ち上がって奥野の肩をポンと叩くと、常長の説得に出た。
「怪斗さん、あなたが蚊人の調査をしようとした理由は分かりませんが、後輩を残して匙を投げるのは良くないんじゃないですか?」
その言葉に常長は、ピクッと反応して反論した。
「匙は投げてない!引責辞任だ!辛いのは分かるだろ?」
「ええ、辛いのは十分承知です。責任もあるかも知れない。ですが、誰か望んでますか?怪斗さんの引責辞任。」
目に涙を滲ませていた常長が、はっと盛弥の方を向く。
「何…?」
「俺は、怪斗さんを当てにして今回の協力をお願いしました。少なくとも俺は望んでません。」
隣で奥野も頷いている。
「それに、沙月ちゃんも今田さんも俺達は助けます。その薬を開発してもらってます。責任を取るのであれば、彼女達のケアをしてからでもいいと思います。」
「それは、本当かい?2人は助かるのか?」
「まずは捕獲が必要ですが、ひとまず薬を作るために怪斗さんの協力が必要です。宜しくお願いします。」
盛弥は、頭を下げて頼む。その姿に、2人が助かる可能性があることを知った常長は、少し晴れた顔で向き合う。
「分かった。2人が助かるのであれば、全面的に協力する。まずはどうすればいい?」
「では、ビデオカメラの準備をして、次のパトロール日に遊馬と一緒に来てください。」
常長の了承を得ると、盛弥は退室した。
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