第十六話 水竜の弾丸
時空研究所の協力者、椎名時駆によるオニコへの事情調査で、オニコの過去の詳細を知った盛弥。話をする中で傷心したオニコをデートに誘って元気づけることにした。しかし、現実は非情なものでデート中に蚊人の襲撃に遭遇してしまう。オニコの活躍で撃退したが、彼女の心のケアまでできたか心配する盛弥だったが、案ずる間もなく次の強敵と対峙することになる。
盛弥達がオニコの望みを叶えるために、あれこれ可能性を模索していた頃、蚊人本部では、リンキと幹部による定例会合が開かれていた。
「まずは、ブゲン。先日ターゲットと遭遇した様だが?」
リンキは、ブゲンに先日の盛弥達との一件について報告を求めた。
「はっ!先日、強化体Bの試験運用をしていたところ、ターゲットによる妨害がありました。人間の方は、多少の魔法が使えるようですが、戦闘面では大した障害ではありません。しかし異能者と思しき女子の方は、強化体Bと互角の実力と思われます。」
リンキは、そう判断した根拠を聞いた。
「何故そう思う?」
「はじめは、強化体Bが人間を圧倒しておりましたが、その女子が参戦してからは、徐々にこちらが押され始めました。それだけでなく、強化体Bの攻撃を凌ぎつつ的確にダメージを与えていた為、急遽私が援護した次第です。」
リンキはここまで聞いて、ふんと状況を整理して飲み込むと、ブゲンに質問をした。
「して、現在の強化体Bの様子はどうだ?」
「回復は順調です。強化因子の馴染みもよく、安定しています。実戦投入まではそれほどかからないと思います。」
「そなたらも、同じような状況か?」
他の幹部に確認を取ると、全員肯定の意を示した。リンキは、その状況でブドラのほうを向くと、命令を下した。
「ブドラ、次はそなたが強化体を投入してみよ。相手は雷の力を操る様だが、そなたであれば問題なかろう。」
「承知しました。怒涛の水流にて押し流してまいります。」
その後は事務連絡等をして、解散となった。クザスは、本部内の自分のエリアへ向かうと片隅にある牢へ向かった。そこには、クザスによって強化因子を注入された沙月が、燃える鎖で拘束されていた。彼女の自我は押さえ込まれ、強制的に強化されてはいるが、ほんの少しの本能的な抵抗心がクザスの支配を拒んでいる。
「意外と図太いのね。」
もう少し拘束が必要だと判断したクザスは、舌打ちすると自室へ戻った。
盛弥達がパトロールをしていると、盛弥のスマホが着信を知らせた。画面には、奥野の名前が表示されている。今日は、奥野を別行動させてより広範囲の警戒をしていた。
「どうした?」
「高平さん!ヤバいものを見つけてしまいました!早く来てください!」
彼の声は、何かに怯えているようだった。
「落ち着け。場所はどこだ?何を見た?」
「場所は、駅前広場です。水を操るガンマンがいます。」
「分かった。今から行くから安全な場所に隠れてろ。」
ガンマン?と疑問符が浮かんだが、とりあえず頭の片隅に追いやる。とにかく駅前広場に駆けつけた盛弥達は、広場が見える近くの歩道橋で奥野と合流すると、目を疑う光景を目にした。1人の右腕には、拳銃のリボルバーのような形をした物が手の代わりにある。そこから、まるでガトリングガンの如く水を発射して人々を攻撃している。左腕は、手の代わりに尖った形をしたドリルのようなものがついており、攻撃を受けて倒れた人達に突き刺して血を吸っているようだった。もう1人は、黒いスーツの左胸に竜の紋章が入った女性だ。盛弥の頭には、先日遭遇した今田が浮かんできた。
「眞利、ここから狙える?」
あの時を思い浮かべると、なんとも言えない感情が湧いてくるが、手を打つべく眞利に聞いてみる。眞利は、ゴムを引き絞ると照準を定めてから答える。
「ん。何とか届きそう。」
オニコも頷いている。大丈夫だと判断した盛弥は、眞利を残して3人で広場へ向かった。道中、盛弥は右手に刀を投影すると奥野に渡す。
「その木刀じゃ、やり合うの大変だぞ。これ、使っていいぞ。」
「いいんですか?」
「ああ。これ、俺が消すか、俺の魔力が尽きないと無くならないから、思う存分使っていいぞ。」
奥野は礼を言うと、腰に下げていた木刀を背中に移して刀を腰に下げた。彼も、盛弥との稽古で自分のスタイルを見つけたのか、日に日に強くなっている。そのうち3人が広場に着くと、オニコの指示で一旦茂みに隠れる。
「私が奇襲するから、2人はタイミングを合わせて出て。」
オニコはそう言うと、最近ローブに仕込んだというステルス機能を起動して透明になってしまった。
「んじゃあ、オニコが狙わなかった方に2人でかかるぞ。あいつが来るまでの時間稼ぎだ。」
2人は真剣な顔で頷くと、前方に見える2つの人影を注視した。すると、ガンマンの方にクナイを投げ、何かが稲妻の尾を引きながら周りを行き来しているのが見えた。盛弥は、それがオニコの奇襲だと判断すると、行くぞ!と奥野に合図してスーツの女性目掛けて飛び出す。しかし、右手に片手剣を投影して、距離が詰まったところで攻撃に移ろうとした時、オニコ達の方を見ていた女性がノールックで掌を盛弥に向け、水を放ってくる。盛弥は、水鉄砲の直撃をくらうとその強すぎる勢いで飛ばされる。地面に打ち付けられた痛みに顔を歪めながら前を向くと、女性がこちらを向いて笑みを浮かべている。
「貴方達、何者?あら?フフッ、そういうことね。」
女性は、自分の中で納得すると、太腿につけたホルダーから銃を引き抜いて盛弥に向ける。ちなみに奥野は、飛び出したは良いものの目の前で盛弥が飛ばされるのを見て、足がすくんでしまっていた。
「その血を私に捧げて死になさい!」
盛弥は、逃げなければと思いつつも、咄嗟のことに体が動かずにいた。女性が引き鉄に人差し指をかけ引こうとした時、どこからか鉄球が飛んできて銃を弾き飛ばした。女性はムッとした表情で鉄球の飛んできたであろう方向を見る。盛弥は、その隙に女性の銃を剣で叩き落とし、奥野に指示を飛ばす。
「眞利の所に!」
奥野は、弾かれたように眞利のいる歩道橋まで走って行った。その後、しまったという顔の女性に、盛弥がダメ押しの一撃を入れようとした時、右の横っ腹に痛みが走る。あまりの痛みに耐えられず、目を向けると3つできていた傷口から血が流れていた。どうやら、オニコが相手をしていた奴に、組み合った隙間からやられたようだ。
「セーヤ!」
オニコの叫び声にハッとして前を見ると、女性が銃口を向けてニヤリとしている。
「フフッ。形勢逆転、ね?あなた、人間の割に結構動けるようだけど何者なの?」
銃口を向けたまま、そう聞いてくる女性。盛弥は、どうするべきか悩んだが、何か分かるかもしれないと思って答えることにした。
「別に。何の変哲もない普通の人間ですよ?」
これは本当のことなので、普通に答える。
オニコとガンマンは、組み合った膠着状態を抜け出して近接戦になった様だ。その様子を見た女性は、自分の中で結論に達し納得した。
「そういう事。彼女の影響ということね。強化体Gと互角とは驚いたわ。」
彼女は、銃口を右下にずらして引き鉄を引く。発射された水の弾丸は、盛弥の横っ腹を掠めて地面に着弾する。横っ腹に鋭い痛みを覚えた盛弥は、傷口を抑えて顔を顰める。かろうじて体勢は維持しているが、動くのは厳しかった。
「強化体G!引き揚げるわよ。」
ガンマンは、オニコを強引に振り切ると女性と共に離脱してしまった。
「セーヤ!」
オニコが駆け寄ってきて、体を支えてくれる。
「ごめん、オニコ…持ちそうにないや…」
盛弥は、痛みに耐えられず気を失ってしまった。
歩道橋から狙撃の機会を窺っていた眞利は、盛弥がオニコの腕の中で気絶するのを確認すると『ヤバい』と呟き、護衛に来ていた奥野に『行くよ』と言って盛弥のもとへ急いだ。駅前広場に着くと、盛弥に必死に呼びかけているオニコが目に入った。オニコの元に駆け寄ると、盛弥の傷口に応急処置をして奥野におぶってもらい自宅に連れて帰った。眞利の家は、盛弥の家より駅から近いスタンダードなタワーマンション。眞利自身は遠慮したものの、両親の強めな勧めでここにした。盛弥をあまり呼びたがらないのは、ボロアパートに住んでいる彼に遠慮しての事だった。ひとまずソファーに盛弥を寝かせ、時間的に奥野は帰すことにした。オニコは、側に居たいということで置いておく事にした。
「マリ、これからどうするの?」
「そうだね。この前、盛弥が見せてくれた名刺あるじゃない?あのお医者さんに見せるのがいいのかな?」
何しろ蚊人につけられた傷という事で、翌日蘇我医院に診せに行くことにした2人は、オニコが家に名刺を探しに行く間、眞利が布団の準備などをする事にした。オニコが戻ってくると、入浴した後で病院の場所を調べてから2人で布団に入った。入った後でめちゃくちゃ甘えてきたオニコが可愛くなり、血を吸われながら盛弥の役割が分かった気がした眞利だった。
お読みいただきありがとうございます。
引き続き、本作を気に入っていただけた方はブクマや評価等していただけると、今後の参考になりますのでよろしくお願いします。
また、他作品になりますが、本作と同じく小説家になろうに掲載中の完結済み連載小説「泥酔上司を介抱したら懐かれた」が先日5000PVを突破しました。続編の短編小説も掲載中ですので、本作と併せてお楽しみください。
それでは、今後ともよろしくお願いします。




