第十三話 時空研究所
パトロール中に、操られているオカルト研究会の今田美月と鉢合わせた盛弥とオニコ。オカルト研究会には、翌日に尋ねてきた奥野に事情を説明して常長の判断待ちになった。一方、眞利はパトロールについていくことを懇願する。彼女の本音に触れた盛弥が同行を許可すると、眞利は自分も魔法が使えないか模索し始めた。そして、オニコを元の時代に戻すために協力してくれる団体が彩子によって見つかり、盛弥は彩子と共に訪れることになる。
登場人物7
椎名時駆 時空研究所の研究員。彩子の大学時代の恩師で、ライトノベルの内容について研究している。盛弥が研究に協力することで、盛弥にも協力してくれることになった。
ある日、眞利はパトロールに同行すると言って聞かなかった。先日、盛弥とオニコがピンチになり、何とか助かった後に迎えに来てくれた時にバレたからだった。手にはスリングショットを持ち、絶対に無茶はしないと言い張る。盛弥としては、また操られそうになるのが心配で堪らない。恐らく、クザスと鉢合わせれば操られる可能性は高くなる。かといって、他の幹部が相手でも可能性は大いにある。そんな状況で連れて行くのは、流石に危険過ぎると思う。それでも彼女からすれば、盛弥がボロボロになって帰ってくるのは耐えられないだろうとも思う。
「眞利、怖くないの?」
「怖いに決まってるじゃん。でも、盛弥まで失うのは耐えられない!そばにいるなら、失わない努力がしたいよ。」
眞利の覚悟がこもった決意を聞いた盛弥は、ハッとして答えた。
「分かった。眞利は俺が守る。でも、無茶はするなよ。」
そうして3人でパトロールに出かけるのだった。その道中、眞利はオニコに質問をしていた。
「ねぇオニコちゃん。私も魔法って使えるかな?」
「マリの血も少し貰ってるから、やろうと思えば出来る。ちなみにどんな魔法?」
眞利は、そうだねと考えると、自分の役割を探し始めた。
「私の武器からすると、隠密とか狙撃かな?あとは、盛弥もオニコちゃんも攻撃メインだから、サポートとか回復系かな?」
そこでオニコには、とある疑問が生じた。
「眞利がいつも使ってるそれは、何?」
「これはね、スリングショットっていうの。もっと簡易的なやつを子供達が遊び道具にしてるんだけど、盛弥は見たことある?」
「それ、あれだろ?Y字の骨組みにゴムがついてるアレ。パチンコだっけ?」
眞利が持っているものは、Y字の中心付近から斜めに板が付いており、手首を固定してブレない様にした本格仕様だ。前から見てはいるものの、改めて考えるとブレないにしても命中率が高過ぎるとは思う。そんな事を考えていると、オニコが何か閃いたように顔を上げた。
「じゃあ、狙撃魔法とかかな?発動すれば、狙いを定めた相手にはほぼ当たるようになるよ。」
こうして眞利は、スナイパーへの道を進むことにしたのだった。狙撃であれば、敵に見つかる危険性は下がり、操られる可能性も下がる。そんな理由からも割と乗り気な彼女だった。
後日、盛弥の元には彩子から連絡が入っていた。彼女からのメールによると、オニコが戻れるかは答えが出ていないものの、協力してくれそうな団体が見つかったらしい。その団体は、時空研究所という名前らしい。本当にあるのかと疑う程胡散臭い名前だが、彩子を信じることにした盛弥は、後日彩子と共に訪れるのだった。駅で彩子と待ち合わせ、バスに乗り込んだ。
「おはよう高平君。授業とか大丈夫だった?」
今日は平日。授業は1コマだけあったが、眞利に内容を伝えてもらうように頼んできた。
「大丈夫ですよ。1コマだけなんで。」
「ダメじゃん。いいの?」
「まあ、オニコのためでもあるんでこっち優先です。眞利にも頼んであるので。」
そっかと言って、クスッと笑う彩子。
「どうしました?」
盛弥がそう尋ねると、彩子は首を振って答えた。
「いやいや何でもないの。私も大学生の時やったなぁと思ってね。友達に出席登録だけ頼んで、遊びに行くとか。」
彩子も意外と遊んでいたのを知った盛弥は少し驚いたが、やり過ぎちゃダメだよという彩子の忠告に頷くのだった。しばらくしてバスが山に差し掛かると、彩子が降車ボタンを押した。降りたのは、道が二股に分かれる手前にあるバス停だった。周りは木ばかりで、あるものといえば舗装されたバス道とそこから分かれる未舗装の砂利道だけだった。彩子は、砂利道の方に進んで行く。盛弥が後をついて行くと、大きな岩壁が前に現れ行き止まりだった。しかし彩子は、ちょっと待ってねと言うと鞄から一枚のカードを取り出した。
「え?まさか…?」
盛弥の頭には、あまりにも非科学的な想像が浮かんだ。その想像は、少し違う形で現実になった。彩子は、岩壁に歩み寄るとカモフラージュされている蓋を開けた。そこには、カードを入れる場所があり、彩子がカードを入れるとズズズと音を立てて岩壁の隅に出来たドアが開いた。そして、ドアを通って反対側から出ているカードを抜くと閉まった。
「なんちゅう微妙な…。」
なんと言えばいいか分からない盛弥だったが、彩子の言葉に彼女の視線の方向を向いた。
「よし、着いたよ。時空研究所。」
目の前には、時空研究所と書かれた石の表札が置いてあり、その奥にそこそこ立派な大学の講義棟の様な建物があった。盛弥が驚いていると、彩子が説明を加えた。
「私もこの前来たんだけど、ここ実は外務省の管轄らしいの。何でも、時空は外国的な考えなんだって。」
国の管轄なだけあって、それなりに厳重な警備が敷かれている。門は、警備の人間が複数いて入る人間に目を光らせている。そんなものを見ていると、ここに自ら連絡して取材を申し込んだ彩子は、相当な度胸があるのではと思えてくる。彩子のお蔭で、門や建物の入り口でさっきのカードを提示するチェックをパスし、敷地内で最も大きな建物に入る。
「受付してくるから、少し待っててね。」
彩子はそう言うと受付カウンターの方へ歩いて行った。待っている間、自分のいる空間を観察してみる。一見すると、よくドラマや映画で出て来る様な、大きな会社のエントランスの様に見える。入り口側の壁は一面ガラス張りで、反対側は7階程までの渡り廊下が見える。そして、盛弥がいるフロアはこじんまりした受付カウンターと数人の行き交う人が目に入る。しかし、行き交う人達は全員同じマークのついた制服を着ていた。そんな事をしていると、彩子が戻ってきた。
「お待たせ。じゃあ、協力してくれそうな人のところに行こう。」
彩子はそう言うと、盛弥を連れて建物の中を迷いなく進んでいく。
「彩子さん、その人はどんな人なんですか?」
「私の大学の頃の先生なんだけど、最近ここに転職したらしくて。ラノベとかの研究をしてた先生だから、何か知らないかなと思って。」
そんな会話をしている間に、目的の部屋に着いた様だ。彩子がドアをノックすると、男の声で返事があった。
「先生、フリーライターの海藤彩子です。今日はよろしくお願いします。」
部屋に入ると、彩子が職業と名前を言った。すると、奥の机に座ってパソコンいじりをしていた初老の男性が顔だけ覗かせた。
「おお海藤君、よく来たね。あれから変わりないかい?」
「ええ、おかげさまでなんとかやっています。」
「そうかそうか、とにかく元気で何よりだ。ところで、そちらの彼は?」
男性が、彩子の後に入ってきた盛弥を見て尋ねた。すると、彩子が紹介してくれた。
「先生、彼が以前お話しした高平君です。」
彩子の紹介を聞いて、男性が立ち上がってこちらへやってきた。
「ほお、君が高平君か。時空研究所の研究員をしている椎名時駆です。」
男性は、そう名乗ると握手を求めてきた。盛弥が手を握ると、彩子が椎名について話し始めた。
「椎名先生は、転生について研究しているの。転生出来るのかとか、転生先はどうやって決まるのかとかね。」
それを聞いた椎名は、軽く笑いながら謙遜をする。
「ハハハ、そう大したものでもないよ。実際、研究自体は壁に当たってばかりだからね。」
椎名はそう言うと、彩子と盛弥にソファに座るように促した。机からスケジュール帳を持ってきた椎名は、2人の向かいに腰掛けると話し始めた。
「ところで、彼が研究対象として適切だというのは本当かい?協力してくれるのであれば、これほどいい話はないのだがね。」
どういう話か分からない盛弥は、彩子の様子を伺う。彩子は、オニコの事などを話していいか盛弥に確認すると、許可が出たのを確認して椎名に話し始めた。
「先生。実は彼、転生してきた子と暮らしているんです。」
何?と驚いた顔の椎名は、身を乗り出して話の先を促す。彩子は、盛弥にその先を話させた。
「その子は吸血鬼の女の子なんですけど、本人が言うには平安時代の末期からやってきたらしいです。そして、人間に戻ることと元の時代に帰ることが望みです。人間に戻る方法は見つかったんですが、元の時代に返してやれるのかが分からないです。」
椎名はそこまで聞くと、盛弥に質問をした。
「ふむ。ちなみに、向こうの世界でのことは何か聞いていないかい?」
「平氏一族の館に仕えていたと言っていました。恐らく、屋島の戦いあたりで戦に巻き込まれて亡くなったようです。名前は徳子と言っていました。」
椎名は、少し考えると口を開いた。
「分かった。私も少し調べてみよう。連絡を入れたいから、あとでここへ連絡を入れてほしい。」
そう言って、名刺のアドレスに丸をつけて差し出した。盛弥が受け取ると、財布からお札を取り出して彩子に渡した。
「すまないが、これから会議が入っているんだ。お昼はこれで食べていきなさい。協力に対する感謝だ。」
彩子は遠慮がちに受け取ると、盛弥を連れて部屋を後にした。
「高平君、今日ってまだ時間大丈夫だよね?」
椎名に勧められた通りに、時空研究所の食堂で昼食をとっていると、彩子がそう聞いて来た。
「ええ、まあ大丈夫ですよ?」
「もう一件、行っておきたいから来てくれる?」
彩子は、そういうとスマホである病院のホームページを表示して見せた。病院の名前は、蘇我医院。
「ここの院長先生なんだけど、プロフィールを見ると少し気になる事があってね。アポを取ってあるから、これから向かおう。」
彩子が見せたプロフィールには、大学で血液について研究と書いてあった。医師であれば人間に戻す方法について別のアプローチがあるのでは?と思った盛弥は、行ってみることにした。
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