第十二話 更なる被害者
蚊人に襲われているところを助けた海藤彩子が、助っ人としてオニコを元の時代に返す協力をしてくれることになった。しかしそんな中、沙月と同様に蚊人幹部につかまってしまった今田美月。彼女らは蚊人幹部達にとある実験台にされようとしていた。果たしてどうされてしまうのだろうか?
蚊人幹部のブゲンは、他の幹部が集めた4人の人間を前に、強化体への強制進化を促す実験をしていた。その4人の中には、クザスが手に入れた沙月とブゲンが手に入れた今田美月がいた。現在、彼女らを含む4人は自我を抑え込まれ、それぞれ異なる強化因子を体内に入れられようとしている。蚊人の4人の幹部は、それぞれが確保した人間の前に強化因子の入った注射器を持って立つ。
「では各々、処置をお願いする。」
ブゲンがそう言うと、それぞれの幹部が心臓めがけて針を突き刺し、強化因子を注入する。
「いっやぁぁぁぁ!フグッ、ゲホッゲホッ!ふぎゃぁぁぁー!!!」
「フギャー!ウウッ、ングハッ!ヒィぃぃぃぃ!」
注射器の針を刺されると同時に、口々に悲鳴をあげて喚き散らす。強化因子を注入され体内に巡ると、次第に落ち着き静かになる。やがて、強化体へと変化した彼らが、目を赤く光らせたのを確認した幹部達が、それぞれの牢屋へと格納するのだった。
その少し後、盛弥はオニコと共に夜のパトロールに出ていた。今日も駅前に来ている2人は、異様な雰囲気に驚いていた。
「オニコ、なんかおかしくないか?」
駅前商店街を歩きながら、オニコに確かめる盛弥。オニコは、ひとつ頷くと周りに意識を集中させる。彼女が覚醒してからというもの、雷の力に目覚めただけでなく、様々な能力を獲得していた。まずは、索敵能力。自分の周囲に意識を集中させる事で、敵のいる大体の位置が分かるらしい。そして、気配遮断。空気になっている事をイメージする事で、不意打ちの成功度がかなり上がったようだ。更にオニコは、新しい武器も手に入れた。彼女の両側の腰には、ホルダーに入ったクナイが4本ずつ入っている。気配遮断を生かした隠密スタイルで戦うために、盛弥が投影したのだった。そして、オニコの索敵に複数の反応があった。
「商店街に反応が3つ。あとは、駅前広場に2つ。」
「よし、オニコは商店街を頼む。」
盛弥の言葉に頷くと、オニコは目の前の反応目掛けて光の速さで行ってしまった。盛弥は、商店街を戻り駅前広場に向かった。彼に索敵は出来ないが、オニコ曰く分かりやすいから大丈夫らしい。駅前広場に着くと、オニコの言っていることが分かった気がした。そこには、赤く目を光らせて人間を襲っている女性と、それを見ている大男がいたのだ。
「オニコにこっちを頼むべきだったか。」
見るからに強敵を前にして、後悔しても時すでに遅し。盛弥は、右手に魔力を集中させて片手剣を投影し、襲われている人と襲っている女性の人の間に割って入った。襲われていた人は一目散に逃げ出し、襲っていた女性は盛弥に照準を変更した。盛弥がその女性を見た時、驚愕の事実と共にとてつもない衝撃に襲われた。
「まさか、美月さん…?」
首から下は緑や茶色のアーマースーツに覆われ、その上から黒いジャケットを羽織っているその女性の顔は、間違いなくオカルト研究会3年の今田美月だった。
「くそっ、マジかよ!」
盛弥が攻撃をためらっていると、後ろの大男が口を開いた。
「ふん。変わった奴だ。強化体B!対象をそいつに変更!」
強化体Bと言われた美月は、両腕から巨大な刃を出して、盛弥に襲いかかる。美月としても、知らない相手ではないはずだが、自我を抑え込まれているのか躊躇なく両腕を振るってくる。盛弥は、斬撃を躱しながら武器を片手剣から大剣に変更する。そして、両腕が同時に振り下ろされるタイミングで受太刀する。しかし、両腕のパワーは凄まじく気を抜けば押し潰されそうだった。その時、受け止めるのに必死だった盛弥は、前方から飛んでくる美月の足に気付かずに蹴り飛ばされる。
「うっ…かはっ!」
飛ばされながら声にならない呻き声が漏れる。駅舎に打ち付けられて、ぐったりした盛弥は、朧げに目を開けた。蹴りにしても今の衝撃にしても、真正面からくらったせいかダメージが大きい。目の前では、美月が両腕の刃を上に掲げ、トドメの斬撃を放とうとする。
「吸血奥義!岩石斬!」
上に掲げた刃を振り下ろし、盛弥に向けて巨大な岩を飛ばしてくる。盛弥は死を覚悟して目を閉じた。しかし、岩に押し潰される痛みは感じなかった。代わりに、金属音がして体に電気が走る。そのおかげで飛び起きた盛弥は、目を開けて驚く。
「セーヤ、ごめん遅くなった。あとは任せて。」
盛弥めがけて飛んでくる岩を破壊したオニコは、そのまま美月に飛びかかる。オニコは、美月の両腕の刃を大太刀一本で凌ぎながらコンスタントにダメージを与えている。しかし、それを見た大男が岩を飛ばして邪魔をしてくる。盛弥は、オニコの大太刀を投影すると、岩を壊しながら大男に迫る。
「オニコの剣、ヤバいな。」
岩を壊せるほど硬い剣に驚きながら、大男の右肩から袈裟斬りの軌道で剣を振る。しかし、振り下ろす前にガラ空きの腹部を岩で殴られて飛ばされてしまった。それまで、美月相手に善戦していたオニコも、盛弥が飛ばされたことに動揺した一瞬の隙をつかれて、両腕の刃によってかなりのダメージを負ってしまった。
「このままトドメを刺してもいいが、強化体の回復が優先だ。」
大男は、そう言うと美月を連れて去っていった。
「盛弥!オニコちゃん!」
傷だらけの2人は、名前を呼ばれてそちらを向く。
「眞利…、どうしてここに?」
そこには、なぜ場所が分かったのか、パジャマに上着を羽織った眞利がいて、こちらへ駆けてくる。
「オニコちゃん、歩ける?」
オニコがなんとか頷くと、盛弥の腕を首に回して担ぎ上げた。
「よし、早く帰るよ!」
眞利は、そう言うと家路を急いだ。
盛弥が目覚めると、朝になっていた。そして横には熟睡中のオニコがいて、その上に上半身だけ横たわり、下半身を床に投げ出した眞利がパジャマ姿で寝ていた。2人とも非常に可愛い寝顔をしていたが、盛弥にしがみついているため身動きが取れない。その上、昨夜のダメージか体中のあちこちが痛い。起き上がることをあきらめた盛弥は、布団に体をゆだねて横になる。すると、隣で寝ていたオニコが「んん~?」と言って目を覚ました。
「あっ、悪いオニコ。起こしちゃったな。」
「ん?おはよセーヤ。体は大丈夫?」
オニコが、目をこすりながら聞いてくる。大丈夫だと言って頭を撫でると、嬉しそうに微笑むオニコ。
「オニコは大丈夫か?」
そう聞くと、オニコは微笑んだまま大丈夫と頷くと、ご飯作ってくると言って布団を抜け出た。オニコが朝食を作っていると、眞利が眠たそうにしながら起きてきた。
「おはようオニコちゃん。傷の具合はどう?」
「おはよう眞利。まだ痛いけど、大丈夫。盛弥は?」
「起き上がれないって。ご飯持ってってあげよう。」
眞利は、そう言うとオニコが作った朝食を持って盛弥の所へ運んでいった。
朝食が終わると、ドアホンが鳴った。眞利が出ると、オカルト研究会1年の奥野だった。
「皆さん!ご無事ですか?」
「奥野君よね?私達は大丈夫だけれど、どうかしたの?」
慌てる奥野を落ち着かせながら、眞利は話を聞き始めた。
「どう?落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます。実は・・・とその前にですけど、高平さんは大丈夫なんですか?」
布団に横になったままの盛弥を案じた彼は、眞利の大丈夫だという言葉を信じることにした。
「怪斗さんに言われて確認に来たんですけど、今田さんを見つけられたというのは本当ですか?」
美月を見つけたことは、眞利が昨夜のうちに常長に連絡を入れていたようだ。
「ええ、そうよね盛弥?」
眞利が盛弥に話を振ると、何とか横を向いた盛弥が話し始めた。
「確証というか証拠は無いんだけど、顔は今田さんだったよ。でも、沙月ちゃんと同じ感じだと思うな、あれは。」
盛弥がそこまで言うと、オニコが続きを話した。
「パワーも人間のパワーじゃないし、スピードも上がってる。蚊人に操られててもおかしくない。」
「そうなんですね…。」
盛弥とオニコの言葉を聞いた奥野は、信じられないという様子だった。そして、意を決した様に口を開いた。
「高平さん!俺、今田さんを助けたいです!1年の俺にとても優しくしてくれたので、その恩を返したいです!」
奥野の男としての覚悟を感じた気がした盛弥は、彼に協力する意を伝えた。
「分かった。俺も力になるよ。男としては譲れないもんな。」
「へっ!?いや、そのですね…。え?」
虚を疲れた様に動揺する奥野に、眞利が追い討ちをかける。
「そっか、そういうことね。意外といい男じゃん。美月さん、いいなぁ。」
盛弥は、自分がどうなのか一瞬気になったが、今は奥野に助け舟を出すことにした。
「それじゃあ、俺らから聞いた事を常長さんに伝えてくれるか?」
「分かりました!」
奥野は、待ってましたとばかりに飛び出して行った。
「ところで眞利?さっきのは、俺に対する不満?」
思ってもない事を聞かれた眞利は、へ?と言ってから納得した様に弁明した。
「あれは違うし。盛弥は抜いての話。」
「まあ、そんならいいか。」
何とも言えない空気になったが、オニコの一言で普通に戻った。
「お腹いっぱい…。」
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先日、200PVを突破しました。読んでいただいた皆さん、改めてありがとうございます。今後も更新していく予定ですので、掲載中の他作品と併せてお付き合い頂けると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。




