第一話 転生してきた吸血鬼
登場人物1
高平盛弥 都内の大学に通う男子大学生20歳。幼少期から、怪我の治りが早いなど生命力という面では頑丈である。高校まで剣道をやっていたため、体力もある方である。関わった人が困っていると、見逃せない性格の持ち主。
オニコ 平安時代後期、平氏一族の館に仕えていた。徳子という名前で、一族と共に西国へ向かう途中に死亡。現代に吸血鬼として転生する。見た目の年齢は女子高生程だが、実際はよく分からない。盛弥の血を吸って以降、懐くようになる。
夏の夜は、暑い。特に、雨が降った後の日本の夜は、湿気で蒸し暑くなる。そうなると、寝苦しくてたまらなくなる。
「あちー。寝れやしないな。」
大学2年の高平盛弥は、風通しのために開けた窓から差し込む月明かりの中、寝付けずにいた。盛弥の借りているアパートは、結構なボロだ。その分、家賃は都内でも珍しいお手頃価格だが、家電類は大体が一昔前の物で、エアコンに至ってはガタが来て壊れたままだ。それでも、一人親の母には苦労をかけまいと思う盛弥は、安さには勝てなかった。
「バイト増やせば引っ越せるかなー?」
そんな事を考えていると、窓から差し込んでいる月明かりが突然暗くなった。窓の方に目をやると、窓枠の上にしゃがんでいる黒い人影が月明かりを遮っていた。泥棒かと思ったが、盛弥の部屋は2階なので、窓から入ろうとする泥棒はあまりいないと思い否定する。その人影は、窓枠からひとっ飛びにベッドまでやって来ると、盛弥の上に馬乗りになる。盛弥は突然の事に驚くが、さっきは見えなかった人影の顔が見えた。それは、盛弥より年下の女の子だった。見る限り女子高生くらいの年齢だろうか。しかし、彼女が口を開いた時にその印象は一変した。
「お兄さんなら大丈夫かな?」
そう言うと彼女は、口を開いて他の歯より鋭く飛び出た犬歯を覗かせる。そのまま、いただきますと言って、盛弥の首筋に噛み付いた。盛弥は、痛みに意識を飛ばされながら、辿り着いた1つの答えを口にした。
「きゅ、吸、血、鬼…。」
この夜、今まで何の変哲もない、平和な日常を過ごしてきた1人の男子大学生の日常が変わった。
盛弥が目覚めると、隣で美少女が静かに寝息を立てていた。驚いて布団から飛び出ると、美少女が目を覚ました。
「おはようございます。主人様。」
その聞き覚えのある声に、昨夜の記憶を呼び起こされた盛弥は、慌てて後ろに下がる。
「おまっ、きゅ、吸血鬼!」
「あの…主人様。吸血鬼?とは何ですか?」
彼女は、盛弥が何にそこまで驚いているのか分からないといった様子で首を傾げている。盛弥は、記憶を辿って左の首筋にあるであろう咬み傷に触れてみた。やはり、2つ何かを刺したような傷跡があった。
「だって、夜に俺に噛み付いただろ?あれって、血を抜いたんじゃないのか?」
「ええ。血はいただきましたけど、私は吸血鬼?ではありませんよぉ。」
だったら何なんだよ!と言いたかったが、盛弥の剣幕に若干の怯えを見せている彼女には言えなかった。
「吸血鬼ってのはな。人間の血を吸って生きながらえる妖怪なんだよ。お前は、そうじゃないのか?」
「妖怪は妖怪ですが、私は磯女です。吸血鬼ではありません。」
知らない妖怪の名前が出てきて、スマホで調べようと取り出すと、彼女が興味津々に近寄ってきた。
「主人様、それは何ですか?」
「ん?これはスマホだよ。知らないのか?」
「初めて見ました。何が出来るんですか?」
盛弥は、スマホで出来る多種多様な事について教えた。彼女は、スマホはおろかインターネットやメールなど、ほとんど何も知らなかった。盛弥は、時代錯誤なやつだなと言う感想を通り越して、大きな違和感を持ったので、今度はいろいろ聞いてみる事にした。
「お前、名前は?」
「名前は、徳子です。」
「家は?」
「実家は播磨で反物屋を営んでいますが、私は平家一族の方々のお屋敷で侍女をしていました。」
ここで、盛弥は状況を飲み込もうとするのがやっとだった。幸い、盛弥は文系の学科に通っているので、歴史的な事は何とか理解できる。しかし、現代でそこから来ましたと言われても現実的ではない。そこで盛弥が導き出した答えは、転生や転移。最近世の中に浸透しつつある単語だが、小説の中だけの設定である。疑いつつも、確かめるための質問をしてみた。
「もしかして、一回死んだ事ある?」
「流石主人様!よくお分かりですね。実は、西国に落ち延びる途中の屋島で源氏に襲われまして、その折に腕を負傷してしまいました。戦いの勢いで海に落ちてしまい、気付いたら、よく分からない場所にいたのです。」
盛弥は、空いた口が塞がらなかった。ただ単にどこかの世界で命を落としたのではなく、源平合戦の屋島の戦いで犠牲になった女性が、死に方に影響を受けて、血を求める吸血鬼に転生したのだ。しかし、盛弥はどこか腑に落ちた感覚があった。知らない事の多さや、徳子という名前。それらに説明がついた。その時、盛弥の中に浮かんできた感情は、可哀想だった。
盛弥がそんなふうに思っていると、徳子が口を開いた。
「あの、主人様。お願いがございます。私を人間に、欲を言えば元の世に帰しては頂けませんか?私は、貧しい家の娘を拾っていただき、家を救っていただいた恩ある平家の方々にお返しが出来ていません。このままでは、死ぬに死にきれないのです。」
徳子の必死の訴えに断り難くなった盛弥は、彼の性格も相まって協力する事にした。
「分かった。困ってる人はほっとけないから、協力してやる。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
目を輝かせる彼女に、だだし!と前置いて、盛弥は条件を付け加えた。
「徳子ってのは、なんか呼び慣れないから、名前をつけてもいいか?」
「はい!」
「んじゃ、今日から俺といる間のお前の名前はオニコだ。よろしく、オニコ。」
「ありがとうございます!主人様!」
「あと、その主人様ってのも、小っ恥ずかしいからやめよう。俺の名前は高平盛弥。盛弥って呼んでくれ。」
「分かりました。せいや様。」
盛弥は、ついでに様付けと敬語もやめるように付け加えた。見た目が年下の女の子にそう呼ばれると、なんだか従わせているようで嫌だし、周りからどう見られるか分からない。そんなこんなで、吸血鬼を人間に戻すための生活が始まった。
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