【第三話】虚しい、そして迷い
タツナミソウの花言葉を知っているだろうか。
『私の命を捧げます』
海に身を投げ、自殺しようとした少女。立波いろはの苗字、タツナミ。
彼女には命を捧げる相手がいたのだろうか。
「そんなはずないか……」
いろはが家を出た後、私は一人で物思いに耽っていた。
「自殺……」
愛していた。
誰よりも。
でも守れなかった。
それだけなのに。
過去と今を重ねてしまう。
そんな自分が嫌だった。
すると玄関からガチャッという音がした。
「!?」
急いで見に行くと買い物袋を持ったいろはが帰ってきた。
「・・・・・・」
彼女は黙って私を見ている。
「その、さっきはいきなり怒鳴ったりしてすまなかった」
「別に。気にして無いですよ」
そう言って靴を脱ぎ、居間の方へ歩いて行った。
「あの、いいかな?」
「なんですか」
冷たい口調だったが聞いてくれるようだ。
「そろそろ家に帰ろうと思うんだが」
いろははいつもの涼しい表情で言った。
「ダメです」
「ずっとお邪魔させてもらってるのも悪いし、泊まるわけにもいかないだろ?」
何かと私のことを気遣ってくれているのだろうか。
「私は大丈夫です」
「第一に君は高校生だ。簡単に知らない男を泊めるんじゃない」
意外にも彼女が粘ってきたので、叱るように否定した。
「嫌です!」
いろはが声を荒げて言った。
「・・・・・・」
「何故そこまで執着するのかな。僕はただの他人だろ?」
「だめなんです……」
いろはは泣き出し、私のシャツの裾を掴んだ。
「・・・・・・」
彼女の押しに負け、泊まることになった。
和室には二つ布団が敷かれていた。
「2人で寝るのか?」
「もともと寝室なんですから我慢してください」
彼女は至って冷静に返事した。
床に入ってからしばらくして、いろはが喋りかけてきた。
「まだ起きてますか?」
「あぁ」
「絶対にどこかへ行ったりしないでくださいね」
「しないよ」
「だったらいいです」
あの冷静ないろはにも可愛い一面があるんだな。
「何故、君は私を泊めたかったのかな」
いろはは私が帰ることを激しく否定した。
何が彼女をそこまでさせたのだろう。
「私はきっと誰かに助けて欲しかったんです」
「え?」
「ここにいるといつも消えてしまいそうになるんです」
「だが君は自殺しようとしたじゃないか」
海から助けた時、彼女は自ら死を望んでいるように感じた。
なのに何故・・・・・・。
「私をこの暗闇から救ってくれる人を探しているんだと思います。死んだらなにも残らないのに」
「僕は何回でも君を助けるよ」
すると彼女は私に背を向けるように寝返った。
その時のいろはの耳は少し赤かったような気がした。