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それは全部昔の話

 事情説明したから帰ろうと思ったのに宴席があるからとまた婚礼会場に誘導された。ガウェイン卿と並ばされている。まぁ何か見たことのある結婚式会場だ。ガウェイン卿や他の騎士、アーサーは着飾っているし。

 ところで私はさっきから美味しそうなワインが気になってる。私用だろう杯を掴み乾杯をしようと思ってドルイダスの祈りを捧げ飲もうと思ったらガウェイン卿に取り上げられた。

「十四歳ではお酒はダメです」

 なんですって。

「私、五百十四歳……」

 しかめっ面のガウェイン卿がいる。私は、生まれた年で数えたらこの中の誰よりも年上だと思うのだけど。

「そのワインをとってください。親切な騎士よ」

 ドルイドとしての礼をとって懇願する。そのワインがとても飲みたいのです。

「レディー、だめですよ」

 昔の戦士は私によくお酒をくれたのにガウェイン卿はくれない。

「好きなの、ワイン。とても良い香りがする」

「だめですよ。レディー。お酒は大人になってからです」

「一人前なのに」

 五百年経ったら子どもはお酒を飲んではいけなくなっていた。

「子どもの身体には毒なのですよ。聞き分けてください。酒ではないブドウのジュースがありますから、それを」

 ガウェイン卿が手をあげると女の人がやってきて私に飲み物をくれた。

「あまい」

 飲んだことのない味だ。おいしい。宴の席とはいえガウェイン卿の知り合いばかりで私の友達は一人もいない。私の友達は五百年後でも生きている神霊の類で呼ぶとちょっと差し障りがあるからだけれど。

 仲間と飲めたら楽しかっただろうな。各々楽しげに笑ってざわめいている中で一人だけの私は置物に徹した。知り合いと言えば隣のガウェイン卿だけ。この場が私のために用意されたのは明らかなのに私は完全な部外者だ。

「ラグネル、どうぞ」

 ガウェイン卿が肉を切って私にくれる。ガウェイン卿は肉をくれる優しい騎士だな。一応、私の婿になるのか。青い瞳と黄色味の少ない金の髪。美しい男だ。肉をかじっていたら頭を撫でられた。

「美味しいですか」

 距離が近い。ガウェイン卿とこんなに近い。私はじっと見つめた。イケメンだ。とにかくイケメンだ。

「ラグネルの髪は木の実の色をしているのですね。そして、瞳が黄金? 青も少し入っている? 不思議な色ですね」

「そういえばそうだわ」

 自分ではあまり気にしてなかったけれど、私の瞳はいろいろな色が混じっている。

「老婆の時も瞳は美しかった。それに、賢いし庇護欲もそそられて老婆であっても惚れそうだったのですよ。少なくとも一人の人間として向き合おうと思わされました。あと俺に情欲をむけてきたりしないし」

「情欲?」

「あ、それはまたラグネルがもう少し大人になってから。そうだな、でもこういうことだ」

 そういうとガウェイン卿が私の耳を触った。ぞくっとした。気持ち悪い。

「何? 何?!」

 私は耳の感覚を振り払いたくて耳を擦った。

「気持ち悪いですよね。貴女からそういうものがなかったから心穏やかだった」

「それは、よかったわ。気持ち悪い思いはしたくないしさせたくないし……」

「ふふふ……。髪がまるで絹糸のように柔らかい」

 ガウェイン卿が私の長い髪の毛を手にとって遊んでいる。

「大人になるまで俺が守ります。幼いドルイダスのラグネル。それまでは俺を兄のように思って欲しい」

 兄か。前も兄はいなかったのだけど。老婆じゃないからガウェイン卿の城に移住してもいいかもしれない。監禁されないだろう。きっと行き先は地下牢じゃない。でも、なぜかさっきの気持ち悪い感じがしてしばらくは行きたくないと思う。

「幼く賢いラグネルが私の手元に……。なんて幸せなんだ」

 ちょっと違うような気がするのはなぜだろう。親切なはずの騎士がなにか恐ろしい気がして私は少し距離をとった。

 


「ラグネル、君の話をもっと聞かせて」

 おっさんのマーリンとアーサーがやってきた。

「私も聞きたいことがある」

「なんなりと、ドルイダスのお嬢さん」

 礼をとってくれた王のアーサーは案外若いのかもしれない。私はマーリンの傍によった。一応、彼はドルイドだし一番仲間とも言える。さっきからガウェイン卿が少し変だから離れたいのだ。

「おや、マーリンにラグネルが懐いてるぞ」

「ラグネル、こちらに来てください。その男は碌でもない男です」

 ガウェイン卿が私を呼んでいるけどガウェイン卿も少し嫌なんだけど。

「何かして幼妻を怯えさせたのではないか、ガウェイン卿? ラグネルはドルイダスだから私に懐くのだよ。私たちは同胞といえるのだから」

「同胞だとしても女好きのあなたにラグネルを近寄らせたくないのです。手をだされては困る」

 マーリンが私が近くにいるから誇らしげだ。

「こんな少女には手を出さないから安心しなさい」

「話をしていいかしら。私は、アーサー王が困っていることを占いで知ったわ。とはいってもぼんやりとだけど。だから会いに行った」

 私がガウェイン卿を婿にもらうことになったのはアーサー王に知恵を貸して助けたことによる。私は占いで王に通じる出来事があると知って会いに行ったのだ。

「恩人のラグネル。おかげで私は死なずにすんだ。私は亡霊に取り憑かれていたんだ。マーリンは女の尻を追って長く出かけていたし相談する人間がいなくて困った」

 ブリトゥ人のドルイドは女好きらしい。ドルイドが長く留守にするとはどういうことなのだろうか。おおらかだなと思う。

「アーサー王は亡霊になぜとりつかれたの?」

「狩りをして鹿を追って入ったの森が亡霊の禁忌の森だったんだ。亡霊に一年以内に女の望むものを見つけろと言われた。そうしなかったら亡霊が私をとり殺して私に成り代わると」

 アーサー王は死霊の類にでも魅入られていたのだろうか。

「そうなのね。私の答えはあっていたかしら?」

「もちろんだ。亡霊は消えて私は禁忌の森を手に入れた。とても深い森だ。とても大きな木も生えているから良い木材がとれる」

 アーサー王は嬉しそうだ。深い森か。薬草もとれるだろう。私もそこに行ってみたい。

「人の入れない森だったのならば貴重な植物があるかもしれない」

「ラグネルならば喜んで迎え入れよう。賢いドルイダス。ガウェインとともに案内しよう」

「ありがとう」

 アーサー王とその他の人たちは基本的に親切だった。そもそも約束をしても本当に遣すとは思っていかったぐらいで。

「ラグネル殿は傷薬になる薬草を集めてるのですよね」

「集めてるわけじゃないんだけど」

 ガウェイン卿が私の小屋のことを知っているから干してある薬草のことを言っているのだろう。

「あんなに小屋にたくさん集めているのに?」

「気がつくと集めているの」

 私はちょっと眠たくなっていて素直に答えてしまっていた。

「前に、足りなくなってしまったから」

 あの長い戦いでは薬草が足りなくなってしまって。私はもう戻れないと知っていても傷薬になる薬草は貯めて乾燥させていた。

「前に」

 途端に場が静かになってしまった。騒がしくしているようで、私の話を皆聞いていたのだ。何人かの騎士が立ち上がった。

「レグ族の心優しきドルイダス、ラグネル。どうか、ここでは心安らかに過ごしてほしい。貴女の心は傷ついて何も感じられなくなっているのだろう。仲間を失い、一人で老婆として見知らぬ土地で生きていたんだ。無理もない」

 マーリンが悲しそうに私の状況について話をする。

「どこか他人事でお望み通りガウェイン卿と結婚しても全然嬉しそうじゃないのは、心が傷ついて麻痺していたんだね」

「そうかもしれない」

 気にしていなかったけれど、そうなのか。

「なんて聡明な子なんだ。アーサーに仕えろなんて言ってすまなかった。君はそんな状態じゃないんだ。たくさんのものを失って心が死んでいる。話してくれれば力になれたのに」

「醜い老婆の妄言など誰も聞かない。誰の得にもならない。ブリトゥのマーリン」

 マーリンの言葉に嘘を感じた。優しい嘘の類だが

「認めよう。マーリン、アーサーは王の器だ。醜い老婆と約束し果たした」

 それからすると、アーサー王は誠実な人物だ。約束を反故にせずに私に騎士をくれた。

「樫木の下の老人が賢者であることはすぐにわかったよ。ラグネル、貴女は賢かった。魔法使いかもしれないとも思っていた」

「なぜガウェイン卿が差し出されたの?」

 ガウェイン卿はアーサー王の甥だ。老婆に差し出すには豪華すぎる人選だ。

「ガウェイン卿が自分が行くと言って聞かなかったんだ。私は止めたのだけれど。何せとても思い切りの良い男でね」

 アーサー王が笑っている。

「今となっては幸運を逃さなかった自分を褒めたいです」

 ガウェイン卿が何かをかみしめている。肉だろうか。

「こんなにも賢く可愛らしい妻をもらえるなんて」

 妻か……。結婚したらそうなるんだろうな。一応、知識はある私は寒気の正体を知った気がした。女好きとはいえ同じ境遇のドルイドのマーリンにススッとよる。

「大丈夫だよ、ラグネル。すべては君の自由だ。この男はそう言った」

「それでも、俺には他の男には譲らない権利があるはずだ」

「そのぐらいはあるかもしれないね」

「小屋での誓い通り、俺は君を幸せにする」

 老婆の時にガウェイン卿が誓ってくれた。

「一人でとても寂しそうだった。醜く老いているというだけで虐げられていた。それが俺は許せなかった。叔父の恩人であるラグネル。俺が幸せにします」

 再び誓いを口にするガウェイン卿だ。だけど、私はマーリンの陰に隠れた。

「もちろん、ガウェインだけの問題ではないからアーサーも協力するよ。とりあえずおやすみ。頑張り屋のドルイダス、ラグネル」

 マーリンに触れられると私は眠くなってしまって力が抜けて倒れそうになったけれど誰かが支えてくれた。

「子鹿を懐かせるのは大変そうだ」

「もう少し大きければ懐かせるのは難しくなかったのかもしれません」

 ガウェイン卿が話している。

「色男のガウェイン卿も少女では手に負えないか」

 何か勝手なことを言っている。私は誰かに運ばれて柔らかい寝床に寝かせられた。

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