表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

私の望むように

 ガウェイン卿が脱力してる。

「手が、手が出せない……。中身が幼い感じがすると思っていたら、本当に幼かっただなんて」

「手をだすつもりだったのか」

「手をだすってなんのこと?」

 聞き慣れない単語だ。知りたい。呪いが解けて知識欲が沸いてきた。ガウェイン卿のマントをひっぱって教えてと促す。

「ラグネルちゃんは知らなくていいんだよ」

 おっさんのマーリンが笑顔で私とガウェイン卿の間に滑り込んできた。同じドルイドだからどんな文化なのかわかるから多少は親近感はもっているけれど初対面だから緊張する。マーリンから私の五百年前の部族が王がどうなったのかききたい。でも人が多い。今度改めて話しをさせてもらう。

「ラグネルは誰にも仕えていない、そうだね? 家族は?」

「家族はもういないわ」

 たぶんいないのだと思う。五百年後なのは本当だし、部族もいない。

「ラグネルは、一人で湖の畔に暮らしていました。本当にいないのだと思います」

「はぐれた幼いドルイダスか……。アーサーこの子を召し抱えろ。これは傑物だぞ」

「え、いやよ」

 自分が選んだ王以外に仕えるつもりはない。前の王は私を慈しんで育ててくれた。一族に産まれて、その王に仕えるためにドルイダスになる勉強を頑張ってたから選ぶとか召し抱えられるとか発想についていけない。

 そもそも、おっさんのアーサーはあまりいいところが感じられないし私の好みじゃない。見つけた新しい王はガウェイン卿だけど、ドルイダスとして前の王にするように仕えるとか想像つかない。

「ガウェイン卿、ラグネルちゃんの夫だろう? アーサーに仕えるように言ってくれ」

 ガウェイン卿が黙っている。もしかして、ここには敵しかいないのか。早く逃げなければ。ドルイダスを仕えさせるなんて聞いたことがないけれどあり得なくはないのだろう。私は逃げ道を探した。

「待って、ラグネル殿。逃げないでください。俺は貴女に無理強いをするつもりはないです」

 駆けだそうとした気配を察したのかガウェイン卿が私を止めてくる。マーリンはガウェイン卿によって退かされている。いい気味だ。


 ガウェイン卿はまるで私が王であるかのように跪き胸に手を当てて優しく笑いかけてきた。

「ラグネルの、好きなように」

 私の好きなように。私は肯いた。ガウェイン卿は理解が早い。それが私の望むもの。

「私はアーサー王に仕えない」

 マーリンが渋い顔をしている。

「そもそも複数の高位のドルイドを抱えてどうするつもりなの? ドルイドは一人で十分でしょう?」

 部族に中心になるドルイドは、一人。それで十分なはず。

「ラグネルは何もわかっていないようだね」

 なんかムカッとくる言い方だな。他部族のドルイドなんて、そんなものかもしれないけれど。

「ならば教えて。ブリタニアのドルイド、マーリン。貴方の部族のことを」

 そうじゃなければ生え際に呪いをかけてやる、とは優しい私は言わなかった。

「むしろ、ラグネル。君のことを教えて欲しいな」

 マーリンがいやらしく笑う。

「そうすれば、助けてあげなくもない」

 久々の他のドルイドとの交渉だ。まぁ特に黙ってることでもないし話してしまおう。私が五百年前からどうやってきたのかを。


 私は婚礼が行われていた部屋から円卓の騎士の部屋に招かれた。円卓とは言っても身分差を設けないという考えにしたがっているだけで実際に集まるのは長机だ。ガウェイン卿を含むアーサー王に使える騎士達が長い机に座っている。私はアーサー王の近くに椅子が用意されマーリンと向かい合う形で座らされている。ガウェイン卿は近くに立っているけれど。

「ラグネル、君の価値観はとても古いね。ラグネルの価値観ではブリトゥン族のドルイドが私、マーリンだ。しかし、今や部族社会ではないんだよ。ラグネル。人は土地を支配しその単位で活動している」

「土地を?」

「だから、私はブリタニアのドルイドと名乗った。王を中心に組織された社会ではなく、土地に住んだ人による社会になったんだ」

「理解したわ。だから、ドルイドが複数人いてもいいのね」

 五百年後の人の集合体ではなく土地で社会を数えていた。それならば広い土地を治めるためには複数人の知恵者がいてもいいだろう。

「アーサーは各部族から戦士を迎え入れ土地を支配している王だ。仕えるに値する英雄だよ」

「理解したわ。ブリタニアのドルイド。それで色々な部族の戦士が集められているのね」

「親類が多いけれどね。ガウェイン卿はアーサーの甥だ」

 そうだったのね。あまり似ていないけれど血族らしい。

「部族の王としては諸侯という概念があてあられている。それぞれ自分の土地を持つ。ガウェイン卿も諸侯の一人で自分の土地を持っている」

 そういうことならばガウェイン卿が王だと思ったのも肯けれる。なんかしっくりこないけれど。

「我々のことは話をしたよ。次は君のことを話してもらおうか。なぜ君が老婆だったのか。君はどこからきたのか」

「私は五百年前の部族レグ族のドルイダス。近隣の部族が滅ぶ時に王とドルイド達に未来へ送られた」

 円卓の騎士達がざわめいた。

「君の部族は滅んだんだね」

「確かめていないけれど、おそらく」

 ドルイドの秘儀はドルイドしか理解できないだろう。

「酷い戦いだった。相手はローマでドルイドを持たなかったからドルイド同士で話し合いができなかったの。戦いは戦士がほとんどいなくなるまで続いてそのあとは……どうなったかわからないわ」

 私はみっともなく泣いてはいないだろうか。

「君はその生き残りなんだね」

 マーリンが悲壮な顔をしている。気の毒がられているのだ。わりといい人なのかもしれない。ドルイドらしい白いローブに白い髪の色をしている。ドルイドらしくがっちりなんて全然していない体型で、とにかく生え際が気になる。もしかして、仲間のドルイドとして毛根に祈りを捧げた方がいいのかもしれない。聞きたがっていたので、私は五百年前にどういうことが起こったのかを話した。

「こうして、私は王とドルイド達によって老婆になる呪いをかけられた。呪いというよりは守りなのだけれど。老婆ならば誰にも利用されないと思ったのだと思う。実際その通りだった。さっきどういうわけか解けたけれど」

 私は、仲間達の優しさに胸がいっぱいになった。老婆として粗雑に扱われていたけれど、捨て置かれていた。これからはそうじゃなくなる。それが怖い。視線が違う。侮蔑ならばわかるのに、同情とかそういうものを寄せられてはどうしていいのかわからない。

「老婆だったラグネル。君はアーサーと約束をしたね。あれはどういう意味があったの?」

「ああ、一番良い騎士をよこせと言ったこと? 王と仲間達に幸せになるように言われていたから思いついたんだけど、考えてみればお金を要求した方がよかった。うっかりしてた」

「うん。本当に十四歳なんだね」

 マーリンが胡散臭く笑った。

「よく言われた。もう一人前なのに」

 ラグネルは子どもだと言われ続けた。ドルイドの知識は継承したけれど、まだ幼いと。全てが懐かしい。自分の話す声が幼いことに不安を覚える。老婆の時の方がこういう時はよかった。なんか落ち着かない。

「未来に来てからどのぐらい一人でいたの?」

 少し、マーリンの顔つきが変わった気がした。

「先月で一年経つ」

「一年、十四歳の女の子が一人で生活を……」

 マーリンが顔を手で覆ってしまった。指には何個か指輪が嵌っている。豊かなドルイドなんだ。

「どうやって生活を?」

「薬草を売っていた。それで小麦粉は買えたから。あとたまにワインも。狩りは体が動かなくて無理だったからお肉は取れなかった」

「随分、痩せているね」

「そういえば、そうね」

 仲間と生活していた頃より痩せているかもしれない。

「あまり、栄養を取れていませんでした。街の人々がラグネルを老婆だと侮って薬草も高くは売れていなかった」

 ガウェイン卿が解説してくれた。そうなのよね。まぁでも生活できていたし。

「アーサー! なぜ気がつかなかった! 鈍いにも程があるぞ」

「年嵩で賢いご婦人がまさか苦境に立たされているなんて思わないだろう」

 かつては困って荒野をブラブラしていたおっさんのアーサーも今では王様らしく良い椅子に座っている。

「うちの王が鈍くてごめん。レグ族のドルイダス、ラグネル」

「特に気にすることではないと思う」

「何か私たちにできることはないかい」

「知識を、知識を伝えたい。五百年前のドルイド知識だから古いものも多いかもしれないけれど。仲間が守ろうとしていた知識だから」

「ドルイドの知識は口伝だ。しかし、それではもう失われそうだ。私の知っている知識と照らし合わせて本にして編纂しよう」

「ドルイドになる子はもういないの?」

「もう、若いドルイドはいないと思っていい。必要もないんだ。王の権能が強くなってきた。部族のつながりも弱くなって部族内でもドルイドを育てない」

 もうドルイドはいらない世の中のようだ。

「そうなのね」

 五百年前のあの人達は同じような世界が続くと考えていたけれど、今は違う世界になってきているのだ。私の知識は必要ないのだ。気がついた途端に心細くなってしまって、家に帰ろうと思った。

「もう遅くなってきたから帰るわ。今日は本当にありがとう」

 眠たくなってきたし帰ろう。長く住んだから愛着の湧いてきたあの小屋に。

「いや、帰るってあの小屋に?」

「もちろんよ」

 それ以外のどこに帰るというのだろう。

「宴のご馳走があるから食べて行きなさい。君は今日の主役なのだから」

「そういえば、そうだった」

 正直、私は結婚式に飽きていた。

「でも帰っていい?」

 ガウェイン卿の顔を見たら頭を抱えていた。

「食べていきなさい」

 アーサー王とマーリンが絶対引かない時の私の王の顔をしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ