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ガウェインとラグネルの結婚

 いるいる。イケメンたくさんいる。強そうなやつ多いな。結婚式会場にいる人間のほとんどはケルトの血をなんとなくは受け継いでいるようだ。私の部族かはわからないけれど、どこかの血族は生き残ったのだと思うと嬉しい。まだ、私の同胞は五百年後にも生きている。

 結婚式はアーサー王の城で行われた。石造りのごつい建物だ。まさに城。赤い絨毯とか敷かれてるタイプの王城だ。大鍋の中の夢で見たことがある。王を選べと言われているから、とにかく良い王を選びたい。王はイケメンでなくてはならない。誰が相応しいのか。私は周囲をジロジロみた。女王という可能性もあるから女も見るが、女王になりそうな女性はいなかった。

「あの婆婆、ガウェイン卿だけじゃなく他の騎士も狙っているぞ」

「おいたわしや、ガウェイン卿。あのような醜い老婆と結婚させられるとは」

 式場には王のアーサーをはじめとして、円卓の騎士と呼ばれるガウェイン卿の同僚の騎士たちが集まっていた。皆、イケメンだ。顔で採用しているに違いない。私はどいつがイケメンかを冷静に物色した。あいつは、なんていうか軽そう。あいつは人の上に立つタイプじゃなさそう。どんどんケチがついていく。アーサーは女心のわからないおっさんだし。老婆との政略結婚とはいえ晴れ舞台だからめかし込んだガウェイン卿はケルトの男とらしく髪を細かく結い化粧をしていて、私はそのガウェイン卿と並んで花を持されて祭壇への絨毯を歩かされた。ビジュアルの落差激しいに違いない。絨毯の上を歩くのは最近の結婚式の流行りらしい。司祭っぽい奴が何やら喋っている。あまり格が高くなさそうだ。そうだ、それよりも王だ。世界一イケメンの王をみつけなければ。

「ラグネル殿、返事を」

「あ、なに」

「聞いてなかったのですか? 結婚の誓いです。貴女が望んだことでしょう?」

「あ、はい」

 王の物色に忙しくて私は結婚の問いかけを聞き逃していたと言われた。ガウェイン卿が渋い顔をしている。結局、結婚結婚言っている私にしぶしぶ付き合ってくれているのだ。まぁ最初のアーサー王との約束だし順当じゃないか。ガウェイン卿が小声で聞いてくる。

「何をしているのですか?」

「内緒だ」

 ほら、私、ミステリアスな女だから。

「俺ではご不満ですか?」

 何を拗ねているんだろう。

「そんなわけないさ。ただ、私にもやることがあるわけでね、ヒヒヒ」

「何をするんですか」


 一族再興、なんてちょっと無理だとは思うけれど、せめて部族の文化を伝えたい。あと王権を渡しておかなくては。文字を持たない部族だから優秀な血族がいないと文化の継承は難しいんだけれど。   

 司祭がモゴモゴ言っている。ドルイダスのそれとは違うなぁ。ちょっと結婚式の形式に不満だけれど、適当にはいと答えた。上の空でいたらガウェイン卿の顔が近づいてくる。


 顔が良い。


 ガウェイン卿、超絶イケメンだな。最近では慣れていたけれど、睫毛が長いし頬に柔らかいものが押しつけられた。あ、これキスじゃん。やった。イケメンにキスされた。

「えっ」

 ご尊顔が驚いている。

「どうしたの」

 ガウェイン卿に尋ねた私の声は、しわがれていない女の声だった。


 呪いが解けた。もしかして、王が見つかったのか。私が選ぶよりも前に呪いがとけた。王を見つけろというのは私の意思は関係なかったのか。

「ガウェイン卿がキスしたら老婆のラグネルが若返った」

「奇跡だ」

「なんて可愛らしい方だ」

 奇跡じゃなくて呪いが解けたんだ。むしろ、みんなでかけてくれた呪いの方が奇跡なのに何を言っているんだ。隣で一緒に結婚式をしていたガウェイン卿が頬を赤らめている。

「ラグネル殿?」

「そうだけど」

 久しぶりに聞く私の若い声では老婆での話し方が浮いてしまう気がした。髪の毛を確かめたら白髪ではなくて栗色の髪になっている。本当に呪いが解けている。

「呪いが解けたわ」

 解けたら解けたでキャラが違いすぎて困ってしまう。どう振る舞えばいいのかわからない。困って頭を掻いていたらガウェイン卿が私を抱き上げた。

「ラグネル殿は呪いを解くために結婚したかったのですか?」

「そういうわけじゃないんだけど」

 老婆の時もじっと観察されたけれど、呪いが解けたらもっと見てくるな。

「言っていただければ、協力したのですよ。賢い方」

「協力……、私は老婆で今までガウェイン卿ほど親切な人に会ったことがなかったから」

「早くに言っていただけるなら俺は葛藤しなかったのです。ラグネルは賢いから伴侶としては良いと思っていたのですが、年齢がちょっと合わなさすぎて悩みました。まさか、実際は歳下だったなんて」

「ちょっとキスするのやめて。一度でいいわ。なんかツバが汚い」

 イケメンといえど唾液とか汚い。キスされたのは初めてだからどんなものか知らなかったけど正直キモい。私はガウェイン卿の顔を押した。イケメンといえど頬に何度も口づけしてくるの嫌。

「なんて初心な乙女なんだ。それは同衾も嫌がるわけだ。色狂いなのかと思っていたら逆だなんて……」

 ぞくっとした。何これ。ガウェイン卿気持ち悪い。

「先ほど俺と貴女の結婚が成立したのですよ?」

「うん、別居でいいから」

「だめですよ、ラグネル。きちんと結婚したなら一緒に住まないと」

「いやよ?」

 なんで男と一緒に住まなくてはならないのか。

「あの、ラグネル殿? 結婚とはそういうものではないですよ」

「結婚してみたいとは思っていたけれど大体わかったからもういいわ」

 私は結婚式をしてみてこんなものかと思った。注目されるのは気持ちがいいことだが、それだけだ。幸せとは程遠い。幸せとは仲間と共に生きることそのものだったと思う。今やそれは難しい。私の幸せは五百年後のこの世界のどこにあるんだろう。

 王よ。部族一賢いと称されたラグネルでもわかりません。

「そうか、結婚に憧れる乙女そのものだったのか……」

 ガウェイン卿が呟いている。憧れる。そう。おねえさま達が結婚がどうのというのを話しを楽しそうにしていたからどんなものか興味があったのだ。イケメンの結婚相手も用意してもらったし、完璧だと思ったのだけれどイマイチだった。

 それより、ガウェイン卿が恐らく新しい王だということだ。ガウェイン卿にはアーサー王がいるからそれを話せば混乱するに違いない。家臣を王に選んだらどうなるのだろうか。わからない。

 混乱していて、まだ新しい王を認める気持ちにはなれない。私の理想の王とイメージと違う。もしかしたら、別の超絶イケメンが近くにいたから解けたのかもしれないし、まだ王権は渡さなくてもよいだろう。私はガウェイン卿が王であることを内緒にすることにした。


「お、遅れた。美しいガウェイン卿と醜い老婆の結婚とかいうおもしろイベント絶対に見逃せないのに」

 その時、一人のくたびれたおっさんが結婚の儀式に遅れてやってきた。

「遅れるとは何事だ、マーリン」

「髪型が決まらなくて……」

 髪型も何も生え際が際どいと思うのだけど。マーリンと呼ばれた遅刻してきた人は同じおっさんであるアーサー王に怒られてる。でも、ローブを着ているあの男は。

「ドルイド」

 気配でわかる。ドルイドだ。五百年後に来て初めてドルイドに出会った。

「さてさて、アーサーに厄介な約束をさせた一度見れば二度と見たくないぐらい醜い老婆はどこだ?」

 私を探しているのか。そんなことを言われていたのか。なんて不躾な人々なのだろうか。老いれば醜くもなることを知らない無知な人々。

「私だ」

 名乗りでるのは癪だけれど高位のものらしい。

「君が? どうみてもとても若い乙女だけれど?」

「ラグネル殿の呪いが解けたようなのです。マーリン」

「呪い?」

 マーリンと呼ばれた人が私をみている。ドルイド、久しぶりにあった。同族だ。血族だ。五百年後の世界にもドルイドはいた。絶えてなかった。それが嬉しい。

『私はレグ族のドルイダス、ラグネル』

 片手を上げてドルイド同士の挨拶をした。マーリンも真顔になって作法に従い片手を上げて挨拶してくる。

『私はブリタニアのドルイド、マーリン。古い言葉を話す方、お会いできて光栄だ』

『やはり貴方も話せるのね』

『君のような幼い方が古い言葉を解することに驚いているよ。それよりも、レグ族か……、ここらに住んでいた古い部族の一つだよ』

「このお嬢さん、ドルイダスだ。しかも高位の」

「ドルイダスであることは知っていましたが、高位なのですか」

「高位だ、おそらく私と同じく王を選べるほどの」

「選んだことはないけれど、できると思うわ」

「君は何者だ? 君ぐらいの年齢では古い言語までは到達できないぞ。若いのは見かけだけか?」

 マーリンが私に訝しげな視線を投げてくる。

『混乱させるつもりはない。ただ私にも事情がある』

『何の事情だ? なぜうちの騎士と結婚した? 何を企んでいる?』

『結婚したのは何となくしてみたかった』

「はぁ?」

 マーリンが益々しかめっ面になってくる。問い詰めてくるし怖いんだけど。私はガウェイン卿の影に隠れた。この場で一番知ってるのはガウェイン卿だし。ガウェイン卿はそっと私を隠してくれた。

「ラグネル殿」

「なにか」

 ガウェイン卿が聞きにくそうにしている。

「ラグネル殿は何歳なんですか」

「何歳か、それは難しいけれど最後に祝ったのは十四歳の誕生日」

「じゅうよ」

 ガウェイン卿が固まってしまった。

「十四歳のドルイダス?!」

 マーリンが驚いている。

「何が起こってるんだ」

 天才ドルイダス、ラグネル。生後六ヶ月で人語を解し二歳でドルイダスとなるための勉強を始めた天才ドルイダス。それがわたし。皆に大切にしてもらっていた。

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