41.5)エルレ遺跡の虐殺
乾いた風が頬を刺す。
砂埃が舞い、目に入ったが、慌ててぬぐい、再び目の前に標準を合わせる。
その青年は、魔法使いだった。
貧富の差がそれなりに存在するゴウン連邦の中でもかなり貧乏な家庭で育ったが、魔法の才能を見出され、軍へと所属が決まった。
彼は、自身の魔法に対して、それなりの自信があった。
身体能力に関してはそこまで高くはないが、幼い頃から魔法使いの才能を感じており、22歳の現在に至るまで、その才能を打ち破る者は現れていない。
「おい、ラズル。交代だ。」
ふぅ、、
ため息をつく。
ここ2、3ヶ月、毎日こんな生活を続けている。
所属する大隊は、エルレ遺跡に陣を敷いて、ティアーゼ王国を監視し続けている。
一体なにがあるというんだろうか。
ここは国境というだけで、王国の首都である王都ゼスティアはおろか、1番近い街もかなり離れているというのに。
毎日毎日毎日毎日、王国の方向を監視し続けて。受けた命令は1つだけ。
動くものが現れたら魔法を撃て。
どれだけ精神がすり減ると思っているんだ。
俺の魔法はこんなことに使うためにあるんじゃない、本当にこれで祖国のためになってるんだろうか。
「おい、ラズル!」
同僚に再度名前を呼ばれ、ハッと前を見る。
なんだ?
そこには金色に輝く少女が浮いていた。
かなり遠くだったが、ラズルにははっきりと見えている。
受けた命令はこうだ。
「動くものが現れたら魔法を撃て。」
ラズルの目には、少女が腕を広げている様が写っている。
ほとんど無意識だった。
ボォオオオオォンッッ
ラズルは使い込んだ魔道具に貯めていたありったけの魔力と魔法陣を解放して、今放てる最大の攻撃魔法を放った。
一度も生物に向けて放ったことのない魔法をだ。
「ぁ、、」
震える手から目を逸らし、同僚の方を見ると、驚愕の顔でこちらを凝視していた。
自分でも信じられない。
命令とはいえ少女に向けて最大の魔法を放つなど。
放たれた炎弾は、真っ直ぐ金色の少女へと飛んでいき、、、、
直前で消失した。
いつも通り爆発して消えたのではなく、消失した。
そして気づけば、自分と同じように監視をしていた無数の兵士からも次々と魔法が少女に向かって放たれては消えている。
他にも、歩兵達が剣を抜いて走り寄っている。
「う、うおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
横にいた同僚もそれに続き、走っていった。
なぜだろうか、あの少女に見える物体には、人が忌避する根源的な何かがあるように思える。
しかし、それだけだろうか。
脳が処理できずにいる目の前の光景。
精強な我が国の兵士たちが、少女の腕の一振りで紙切れのように宙へと投げ出され、引き裂かれている。
そうだ、初めからおかしかったのだ。
少女は宙に浮かんでいた。
宙に浮かぶ魔法等そもそも存在を知らない。
魔力が多すぎるせいで空間が軋んでいた。
魔力の量なんて皆ほぼ同じはずなんだ。
加えて、目の前の光景だ。
なんの魔法なんだあれは。
俺は魔法の天才のはずだった。
先程の魔法を含め、数多の魔法を独自に開発し、いずれは歴史に残る魔法使いになるはずだったんだ。
なのに、なのに、、、
「あ、あれは、化け物だ。」
その瞬間。
空気が凍りつく。
世界が止まった?
目の前に少女がいる。
「ひどいな?化け物だなんて。」
美しい響きの声だ。
そこで、俺は短い人生の幕を閉じた。




