007 初めの一歩
はい、少し時間を飛ばしましたがこれでようやくお話が進めれそうです。
ここからは時間がスキップされることはほとんど無いと思います。
「はぁッ!」
ククルは前に1本踏み出し、一文字に空間を切り裂いた。
その太刀筋は始めたばかりの頃とは全く違う熟練者の太刀筋だ。
俺の与えた霊薬の影響もあって、ククルの身体は既に人の限界をとっくの昔に超越している。
「つめが甘いッ!」
しかし、いくら身体能力が上回っていたとしてもギルさんは圧倒的なまでの剣の腕を持っているのだ。
そう簡単に攻撃を当てる事など出来ない。
ギルさんがよく使う、ぬるりとした受け流しは流水流のものだ。
初めのうちは体捌きだけで躱していたギルさんだが今は流水流の技を使って躱すようになっている。
使いたくて流水流の技を使っている訳では無い、流水流の技を使わないとククルの剣を避ける事は不可能なのだ。
ギルさんのカウンターを今度はククルが流水流の技を使って受け流した。
ククルの技術はギルさんと違って何処かまだ刺々しいがそれはギルさんと比べるからだろう。
彼女の剣はまた別な道での完成系だ。
「………雷太刀ッ!」
ギルさんの剣を受け流した瞬間、ククルは腰に着けていた短剣を使用して雷太刀を放つ。
その短剣は俺が前にドラゴンの牙から作った短剣でかなりの攻撃力を持った一振だ。
この見えない一閃をギルさんは既に読んでいたのか受け流した。
「ハッ!」
その瞬間、ククルは右手に持っていた長剣を投擲しギルさんの手首を切り飛ばした。
これは予想外だったようでギルさん両腕を上げて降参を宣言した。
「ふふ、強くなったね………もう僕じゃ勝てないや」
「騎士団長、ありがとうございました」
「っと、それよりもルシェ君、
これくっ付けてくれないかな?」
「はいはい、っとこれで大丈夫ですか?」
俺はギルさんの手首を拾ってスペルを発動した。
この程度の治癒はもう手馴れたものだ。
「ふぅ、あれから4年……よくこれだけの期間で僕より強くなれたね?」
「殆どはご主人様が私にくれた霊薬のお陰かと思います」
「ククル君、謙遜する事はないよ。
確かに彼の作った薬のお陰で君の身体能力は格段に上がっているけど、それだけじゃ僕を倒す事など不可能さ」
「そうだよ、俺は確かに手助けはしたが強くなったのはククル自身だ」
「ありがとうございます、今後も精進致します」
4年、そう4年だ。
俺がククルと出会ってから4年もの月日が過ぎていた。
ククルはもう一人前の従者として俺に仕えている。
その剣の腕はもはやこの国で一番と言っても過言ではないだろう。
魔術の腕もこの俺が直々に教えているんだ。
間違いなくトップクラスと言えるだろう。
そろそろ、この家を出て向こう側で二人暮らしを始めても良いかもしれない。
最強の魔導剣士とこの俺が居るのだ。
間違いなく生活には困らないだろう。
さらに、この2年くらい掛けてちまちまと自作ポーションを迷宮産のポーションだと言って流し続けたお陰で20年程度は遊んで暮らせる額の資金が溜まっている。
「さて、ククル………そろそろこの街を出ようと思うんだがどう思う?」
「私はご主人様に従いますが、どこに向かうのですか?」
「グリューテ公国の首都に向かおうと思ってるんだ。
前に父さんの知り合いが大学への入学の手伝いをしてくれるって話をしたのは覚えているか?」
「はい、覚えてますよ。もう行かれるのですか?」
「1年位前から行っとけば地理に困る事もないし、メリットしかないんだ。後その1年間は傭兵ギルドか冒険者ギルドに所属してしばらく自分達の実力を知る機会にしようと思ってるんだ」
冒険者ギルドというのはよく耳にするだろう。
ファンタジー小説でこれでもかという程使われるアレだ。
しかし、この世界の冒険者は「実際に冒険をする仕事」だ。
その辺にいる魔物を討伐しろなんて言うのは傭兵ギルドの方が引き受けている。
冒険者ギルドの方で出てくる依頼は基本的に未開の地に言って珍しい素材を取って来いだのそう言う依頼が多い。
基本的に錬金術が発達している国程冒険者ギルドも発達している。
傭兵ギルドはどこも基本的に同じで戦争への参加を国から依頼されたり、先程話した通りに街の近くの魔物を討伐したりするのがお仕事だ。
他にも、農業ギルド、商業ギルドや魔術師ギルド、暗殺者ギルド、ギルドが所属するギルドなんてものも存在する。
このギルドが所属するギルドはの事を俺は職業協会と呼んでいる。
こちらの世界の言語を直訳するとギルドギルドという非常にややこしい名前になるのでその救済措置だ。
職業協会の事を俺が知ったのは比較的最近の事である。
まぁ、部屋にこもって魔導学ばかりしていたのだから当然といえば当然だ。
この職業協会は全世界で通じる共通の情報網を持ち、基本的に全ての国に対して中立という立場を取っている。
胡散臭いことにトップは本物の神様なのだとか。
俺が考えを巡らせているうちに父さんの執務室までやって来た。
何も言わずに出ていく訳にもいかなしい、一応一言だけ挨拶をしてから出ていくのが礼儀というものだ。
「父様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ルシェか? 入れ」
「失礼します」
そう一言告げてから俺は部屋へと入っていった。
部屋は他の部屋より少し広く、奥には父さんのワークデスクが置いてあった。
「それで、何の用だ?」
「はい、大学が来年に控えていますのでそろそろグリューテ公国に行こうかと思い、その許可を貰いにやって参りました」
「ふむ、準備は既に出来ているか?」
「いえ、とりあえず報告だけ済ませておこうかと」
「そうか、では今日中に準備をしておくと良い。
ちょうどグリューテ公国行きキャラバンの護衛依頼があってな……お前も知っていると思うがザッスラー商会のキャラバンだ」
ザッスラー商会というのは俺がポーションを下ろしていた商会のことだ。
父さんが贔屓にしている商会で会長のザッスラーさんと俺は意外に仲がよかったりする。
「はい、ザッスラーさんのキャラバンでしたら喜んで護衛しますよ」
「そう言えば、お前のククルがあのギルザベヘドを易々と倒せるレベルにまで成長したと聞いている。
護衛料はふんだくってやっても構わんぞ」
「あはは、さすがにザッスラーさんにそんな事は出来ませんよ。護衛料は常識の範囲内で頂きますよ」
「よし、では今日はルシェの引越しパーティだな。
ウルルに言っておくので晩飯は期待してくれて構わんぞ?」
その日、我が家の夕食はラペードという超高級魚がメインのフルコースだった。
ウルルが妙に暑苦しかったのは記憶に残っている。
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