005 魔導研究所
グランドクエストが一向に進まない。
「と、父様………ここってもしかして…………」
「ああ、アルクケーデの最高峰、国立魔導研究所だ」
時刻は15時頃、俺は父さんに連れられて錬金術の試験とやらを受けに来た。
国立研究所に……
ここは本来俺のような餓鬼が入っていいレベルの場所じゃない。
賢者、大魔導師、大錬金術師等と呼ばれるような国のトップが集まりその内側のみで技術を発展させる場。
表に出る一般的な技術とそれぞれの国が持っている研究所の中では技術の幅が100年以上も違うと言われている。
俺もかなり腕には自信があるがこんな場所で堂々と披露出来るレベルだと言い切る自信はない。
「ようそこ、公爵閣下……そちらのお坊ちゃんが今回テストを受けるというルシェ君かな?」
「は、はい! よろしくお願いします」
「ウチのルシェはこの歳で大錬金術師クラスの腕を誇っていると言っても過言ではない。
お主直々に見てやってくれ」
だ、大錬金術師ってちょ、ハードル上げないで!?
というかこの人見たことがある確か錬金術師団の団長じゃなかったっけ?
名前はキンサウル……だっけ?
「ほほぅ……大口を叩きましたなぁ、
この子はまだ若すぎる、そのような腕を持っているとはとてもでは無いですが思えませんな」
「ふっ、その目で見ると良いだろう。
ルシェ、全力を尽くすのだぞ?」
「は、はい! 全力で挑ませて頂きます!」
「試験はグリューテ公国大学と同じものを採用し、実技のみで筆記は行わないものとする。
異論はないかね?」
……確か、限られた素材の中から好きなアイテムを錬金術を用いて作り出すという簡単なルールだった筈だ。
それならば俺は恥をかくような結果を出すことはないだろう。
「大丈夫です」
「着いてきなさい、既に準備は整えてある」
そう言うと、キンサウルは建物の中へと入っていった。
研究所の内部はいかにもそれらしいスペルやらなんやらが辺り一面に彫り込まれていてありえない強度になっていそうだ。
そして、1つ1つの小さなスペルが組み合わさり1つの超巨大な結界魔術を構成している。
さらに、その巨大魔術がお互いに干渉し合っている。
どうやらさらに別の巨大魔術を発動させる事も可能な様だ。
「とてもじゃ無いが真似出来ないか…………」
「ふむ……良い目をしているな。
竜避けの大魔術に気が付いたか?」
「素晴らしい出来ですね、誰が作ったのです?」
「大賢者ラクーン、昔の偉人だ」
ラクーン……確か史上最高の魔術師だったっけ?
確かにこのレベルのスペルを刻めるならば史上最高と謳われても誰も文句を付けないだろう。
まさに、大賢者と言うべきか?
「着いたぞ、ここだ」
「ここ、ですか?」
俺が案内された場所は物置の様な場所になっていた。
部屋の四方に設置された棚には様々な錬金術の素材が用意されている。
そして、部屋の中央には錬金術で使うありとあらゆる道具が一式揃っていた。
「時間制限はどのくらいでしょうか?」
「3時間と定めようか、では始め!」
とりあえずは何の素材があるか確認する。
入口側の棚は基本的に植物類………ユグドラシルの葉が紛れてるじゃねぇかよ!?
とりあえず、俺は紛れていたその1枚を確保する。
世界樹クラスでは無いが、充分に育ったユグドラシルだ。
とりあえず、これを使うことは確定だ。
次に俺は右側の棚を確認する。
この棚にあるのは鉱物系だ。
恐らくだがこの棚にも…………
俺がゴソゴソと漁っていると魔導水晶を見つけた。
魔導水晶とは超高度な純度を誇る魔素の結晶だ。
あまり大きくは無いが神代の移籍のみで発掘される超希少な宝石だ。
これも使う事は確定だ。
次に漁るのは正面の棚。
魔物の素材が大量に置いてあるのだがここにも恐らく……
俺が眼のスペルを展開し、ドラゴンの素材を探すと比較的直ぐにミディアムドラゴンの牙が見つかった。
結構な大きさで、頑張れば短剣くらいには成りそうだ。
これも確定だ。
最後の棚は液体類。
このパターンだとあるのは精霊の雫の方だろう。
非常に貴重な素材となるのだがまともに使用するとなると丸一日はかかるめんどくさい素材だ。
俺は棚にあった透魔薬をあるだけ中央の机に置く。
透魔薬とは、対象に魔素を浸透しやすくする為に使用される薬品だ。
ぱっと見た感じ素材は揃っているので自分でチャチャッと作ってもいいのだが時間短縮の為に用意されている方を使用する。
ドラゴンの牙と、魔導水晶があるという事は魔剣でも造るべきだろう。
というかそれ以外に候補は無い。
とりあえず容器を創物術で創り牙を透魔薬に浸ける。
一応、牙には簡易的な透過のスペルを付与しておく。
大体20分位で浸透する為、その間に魔導水晶を球体に加工してスペルを付与していく。
付与するスペルは硬化と強力、そして修復で問題ないだろう。
そして、出来上がった牙を剣の形に加工し魔導水晶をハメ込めるように穴を開ける。
後は右の棚にあった砥石を使い刃を研ぎ、入口にあった適当な木材を使って持ち手を造る。
時計を見ると大体2時間と20分が過ぎた所だ。
まだ40分以上の猶予があるので俺は適当な魔物の皮を加工して沙耶を仕上げた。
最後に魔導水晶を嵌めてスペルを固定化する。
……出来はまぁ上々といった所か?
俺が短剣の点検をしていると終了の合図が掛かった。
「そこまでだ……見せてみろ」
「はい、どうぞ」
これはかなり自信がある。
というか、父さんから買ってもらった今使ってる奴よりは確実に良いものが作れたと思う。
「ふむ………合格だな。
魔剣職人にでもなった方が良いのではないか?」
「どうだ、うちのルシェは言った通りであろう?」
「ああ、確かに刻まれているスペルもかなり高度なものだ。これならあの大学に送り出せばもっと素晴らしいものが作れるようになると思うぞフンッ」
キンサウルはそう言い終わると壁に短剣を突き刺した。
壁のスペルが発動し、俺の短剣による一撃を防いだ。
まぁ、そりゃそうなるだろう。
「ふむ、強度も威力も問題無しだ。
ほれ、持っているといいそれが今のお前の限界だ。それと今の自分を比べて自分の進歩を推し量るといい」
「あ、ありがとうございます」
俺は短剣を受け取るといつも付けているポーチの中に閉まった。
俺にはしばらく必要ないし帰ったらククルへのプレゼントにでもしようかな?
「大学の方へは私から推薦状を届けておこう。
まぁ、君程の実力なら普通に試験を受けても問題なく入れるとは思うがね」
大学……大学かぁ………
そう言えば前世ではまともに高校生活すら送る事は無かった。
今度は素敵な学校生活が送れるのだろうか?
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