002 今度こそは君を……
本格的に始まってくるかな?
ってあたりです。
「ウルル、ここが奴隷市場なの?」
「そうですね、もっとみすぼらしい感じを予想してましたか?」
俺がやって来た奴隷市場は周囲の建物と比べてもかなり大きい建物で内部の作りもしっかりしていて清潔に保たれている。
なんと言うか奴隷というイメージから牢獄的な感じの建物を想定していた。
「さて………目当ての奴隷はいるかな?」
俺はそう言うと目に刻まれたスペルを発動させた。
転生した時から俺はアイツの魂を知っている。
まぁ、これもあの光の球が俺に与えてくれたんだろう。
俺が自分の目を抉りとって刻んだスペルはエーテルの視覚化だ。
これにより魂を目で見ることも、この世界に充満している魔力そのものを見ることも可能になる。
普通は誰かに刻んで貰うのが基本だが、俺は自分の目を自分で抉り出して自分で刻んだ。
治癒魔術にかなりの自信がなければこんな真似はしない、というか普通は痛みと恐怖でやろうとも思わない。
だが、俺は一刻も早くこの魔眼が欲しかった。
もしかしたらすれ違う人にアイツが居るかもしれないのだ。
「ルシェ様はどのような奴隷を探しておられるのですか?」
「んー、家事と研究の手伝いかな?
あとは、魔術の素質がある強い魂をもった子がいれば良いんだけどね」
ん? 奥の部屋にも奴隷が居るのか?
大広間みたいな所に様々な奴隷が並べられているのだが、そことは別な場所にも一定数の魂が存在していた。
「ルシェ様、私は店主そのような奴隷が居るかどうか尋ねてみますね」
「よろしく〜」
1、2、3………41人か?
近くで見ないと分からないがその中の1人はかなり良い魂を持っているのが直ぐに分かった。
俺の2段か3段下くらいの魂を持っている事は確実だ。
光の球のお陰でかなり凄まじいと言っても良い魂を持っている俺の2段下って言うのは人間で言えば間違いなく最高位レベルだ。
「ルシェ様、店主をお連れしましたよ」
「私がここのオーナーを務めさせて頂いております。ガリューソと申します。以後、お見知り置きを」
俺が奴隷を調べて居るとウルルが髭の生えたおっさんを連れて戻って来た。
どうやらここのオーナーらしい。
「ガリューソさん、丁寧にありがとうございます。
1つ聞きたいのですが、あちらの奥の部屋にも奴隷は居るのですか?」
「ええ、一応置いていますが前の主人から払い下げにされた者ばかりでして、とてもでは無いですがルシェリエス様の気に入るような奴隷は居ないかと」
「一通り、見せて貰えませんか?」
「ええ、どうぞこちらへ」
そう言うとガリューソは歩き出した。
どうやら一般には公開されていないらしく、部屋には鍵がかけられていた。
俺が公爵の息子だから入れたらしい。
「うわっ………」
汚れている、汚いと言うより……グロい。
片腕が無い奴隷、足が切り落とされた奴隷、もう生きているのかどうか分からない様な奴隷も……ん!?
「これは……酷いですね」
「はい、近年奴隷の扱い方が悪くなって来てましてですね。このようにして、使い潰される方も多いのです」
「この子、貰えませんか?」
「る、ルシェ様……流石にお辞めになった方がよろしいかと。ルシェ様の治癒魔術の腕は私も良く知っておりますが流石にこれでは………」
あぁ、分かってる。
だが、死なせる訳にはいかないんだ。
彼女は俺のものだから、他の誰にも渡す訳にはいかないんだ。
ようやく、ようやく見つけたその少女は
四肢を完全にもがれ、顔のパーツがぐちゃぐちゃにされて原型も残っていない程の無残な姿に変わっていた。
辛うじてまだ息は有るが虫の息だ、放っておいたらもう間もなく死ぬだろう。
「500ルルになりますが本当によろしいのですかな?」
「ほら、銀貨5枚」
銀貨たったの5枚、日本円にして5000円。
それが彼女の値段だった。
俺にとっては非常に安い買い物だった。
俺はすぐ様、治癒のスペルを発動し数時間は死なないようにスペルを刻み込んだ。
「ウルル、僕の部屋まで運んでてちょっと買い物してくる!」
そう言うと俺は走り出した。
今の俺じゃ無理だ、どんな凄いポーションを使ってもあれじゃ直ぐに死んでしまうだろう。
とりあえず必要なのは……マナポーションとウリカルの葉と錬金術セット一式だ。
幸いな事に、この街では良く露店に並んでいるものばかりだ。
帰り道の露店にあるマナポーションとウリカルの葉を買えるだけ買っていく。
あとは、包帯……あれ? 家にあったっけ?
とりあえず買ってけ。
「はぁ、はぁ………ただいま」
「おかえりなさいませ、ルシェ様とりあえず簡易的な処置はしておきましたが………」
「ふぅ…………よし、ウルルは部屋から出てて、ちょっと集中したいから」
「かしこまりました、では私はこれで」
ウルルが部屋から出ると俺は錬金術の準備を始めた。
この世界での錬金術は鉛を金に変えるようなそう言う術じゃなく、永続的に効果が発動する魔術を付与する術だ。
普通の魔術では不可能な事も錬金術ならば可能となる事があるのだ。
俺が専攻したい魔導学の中でも最も難しい分野だ。
錬金術は全ての系統魔術の複合である、創物術、操力術、操霊術、魔導術全てを学んで初めて足元に立てるものが錬金術だ。
そのため、研究も余り進んでおらず高度な錬金術によって産み出された魔道具の類はアーティファクトとしてしか産出しない。
このマナポーションも古代文明の遺跡から出てきたものしか存在しないそうだ。
人体に魔術を付与する術は魔導術としていくつか存在するが、明確に体系化されているものは魔眼くらいしか存在しない。
まして、俺がやろうとしているみたいに精神体に魔術を永続的に付与しようなんてする奴は今まで1人も居なかった。
物質で出来た肉体と、魔素で出来た精神体、そしてプラーナで出来た魂。
今までは肉体にスペルを刻むのが主流だったのだが俺は精神体そのものにスペルを刻む事も可能だと思っている。
刻み込むスペルは4つ。
再生のスペル、強化のスペル、魔力障壁のスペル、情報蓄積のスペルだ。
精神体そのものに情報を蓄え、魔力障壁で魔素が霧散するのを防いでやれば例え肉体が完全に破壊されたとしても蘇生が可能となる………筈だ。
あとは、彼女の脳の情報を精神体そのものでも記録する様に弄ってやる。
こうすることで例え、脳が粉砕されても蘇生可能になる。
再生のスペルは本来は元々の肉体を参照し治癒を早めるのだが、精神体に保存された肉体のデータを参照し、創物魔術と組み合わせ真新しい肉体を生成する様に設定してやる。
この世で初めての「不死者」ということに成るのだろうか?
マナポーションをガブ飲みしつつ彼女の精神体そのものに魔力を注ぐ。
「我は、生と死の理を塗り替えるもの也。
我がかのものに与えるのは不滅の肉体。
我がかのものに与えるのは無限の命。
かのものは老いることなく、天命を持たぬものなり、
我が意のままにこの世にその身を留め給え」
俺がスペルを刻むと彼女の再生が始まった。
その身の肉が焼け、溶けるジュウジュウと言う音と共にこれまで静かだった彼女は可愛らしい声で叫び声を上げた。
俺はその再生中の肉体の上から治癒のスペルを刻んだ包帯を巻き付ける。
彼女は痛がって身をよじろうとするが、硬直のスペルを肉体に刻まれているためにまともに動く事が出来ない。
痛く、苦しいだろうが死ぬよりはマシだと思う。
「大丈夫だ、感心しろ……死にはしない」
「ぐ、ガァァァァァ」
「聞こえちゃいないか?」
当然だ、無理やり肉体を正常なものに置き換えられているのだ。脳の一滴まで真新しいものに置き換わる。
俺は彼女の元の肉体がどのような姿をしていたのか知らない。
ぐちゃぐちゃで推定することしか出来なかったが俺より少し幼いくらいの年齢だろう。
8歳か、9歳な筈だ。
だから、その位の見た目の少女の肉体を精神体に刻んだ。
その少女の肉体が元の体と同じ肉体な訳が無い。
苦しくて当然だ。
仕方の無い事だ。
「次は私を君のものにしてね………か、
なんでお前は遺書にそんな事を書いたんだ?」
ようやく、最後のお前の願いが叶えれるよ。
あぁ、今度こそ………今度こそ君は俺のものだ。
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