表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/159

飛翔

 準備が出来てすぐ。



 武器と荷物を背負ったエレナたちは、息を切らしながら、全速力で走っている。


 一方、先頭を行くクラドーは悠然としたものだ。なぜなら彼は空を飛んでいるから。



 両翼を大きく広げ、鱗を輝かせながら、濃い青色を背にぐんぐんスピードを上げる。その雄々しい姿は『天空の王者』と言うにふさわしかった。


 エレナはひそかに興奮していた。絵本や古書でしか知らないものが、目の前で生き生きと躍動している。彼を見ていると、人間なんて本当にちっぽけな存在なんだなと、しみじみ感じた。



「はぁ、はぁ! ちくしょう! ずるいぞ、あの野郎!」



 ところがアストラはそうは思っていないらしく、横で子供みたいな文句を垂れている。だがそれも無理はない。山を登るにつれ積雪量が増し、嫌というほど足を取られるのだ。しかも地面にはいくつも裂け目があるので、それも回避せねばならない。ただでさえ歩きにくいのに、クラドーはお構い無しに速く飛んでいく。二人は付いて行くのがやっとだった。



「グハハハハ! 人間共よ! 遅いではないか! そんなことでは日が暮れてしまうぞ?」



 クラドーは空中で一回転し、優越感たっぷりに二人を見下ろした。



「うるせぇ! あんたみたいに飛べねぇんだから、仕方ねぇだろ! バカにするなら一緒に走ってみやがれ!」



 アストラは青筋を立てて怒鳴る。疲れているのか、だいぶ苛々しているようだ。エレナは彼らが喧嘩を始めないか、ひやひやしていた。せめて回復魔法が使えたら、もう少し楽に進めるのだろうが、それは約束があるため出来ない。身体が辛くても自力で頑張るしかないのだ。



「ふん! 若造めが! 弱いくせに減らず口は叩けるのだな!」



 クラドーは手の届かぬ高い場所から嘲笑した。頭に血の上ったアストラが言い返そうとするのを、エレナは慌てて遮る。



「あの! クラドーさん! 私たち、一体どこへ向かってるんですか?」


「山のてっぺんだ。そこに友が居る」


「妖精さんとあなたは、ずっとここで暮らしてるんですか?」


「ああ、そうだが」


「あなたたちは、どうしてこんな危ない場所に住んでるんですか? 大昔は人間たちとも、一緒に暮らしてたんですよね?」


「……いにしえの戦争について、何も知らんのか?」



クラドーが小声で尋ねたので、エレナはよく聞こえなかった。



「え? なんですか?」


「いや、いい。こちらの話だ」


 クラドーは探るような目をしてから、また進み始めた。何も教えてくれるつもりはないようだ。


 エレナとアストラは、彼に必死で食らいついていく。



 一時間ほど経って、皆は山の真ん中辺りまで来た。


 雪はさらに深くなり、傾斜はきつくなる一方だ。エレナはだんだん足が上がらなくなってきて、誤って転んでしまった。



「痛っ!」



 柔らかい雪のおかげで身体を強打することはなかったが、右の手のひらを擦りむいてしまった。



「おい! 大丈夫か? おっさんっ!! ちょっと待ってくれよっ!!」



 大声でクラドーに告げてから、アストラがエレナに駆け寄る。クラドーも身を翻し、地面に降りてきた。



「けがしたのか?」


「うん。ちょっと痛いけど、平気」


「無理すんな。少し待ってろ」



 アストラは自分の荷物から薬草と長い布を出した。それから、エレナの血の滲んだ右手に薬草を貼り、布で固定した。豪快な巻き方をしたので、少々不格好だ。



 エレナは彼の気遣いに嬉しくなって、ふわりと笑った。



「ありがとう」


「気を付けろよ。大けがでもしたら死んじまうぞ。あいつのせいで魔法が使えねぇんだからな!」



 アストラは最後、クラドーに聞こえるよう皮肉たっぷりに言った。二人のやり取りを興味深そうに眺めていたクラドーは、ムッとした表情でアストラを睨んだ。



「手、貸せよ」



 アストラは座り込むエレナの左手を握り、力強く引っ張り起こす。彼の視線には、何故か熱っぽさが感じられた。エレナは先ほど抱きかかえられていたことを思い出し、どきっとしてしまう。



 何だろう。アストラ、いつもと違うような気がする。


 彼の変化を察知しながら、その原因が分からないエレナは、ただ心の隅で首をかしげるしかなかった。



 クラドーを追いかけてしばらく走り続けると、巨大な谷が現れた。向こう側までの距離は、約十メートル。どれだけ勢いをつけても、走って飛び越えるには遠い。二人が途方に暮れていると、クラドーは笑った。



「さあ、どうする? この先に行かんと、妖精には会えんぞ?」



 彼は空から二人の行動を監視している。試しているのだ。エレナとアストラが、自分との約束をちゃんと守るかどうかを。



 エレナは恐る恐る谷の下を覗きこんだ。奥に行くにつれ、広がる無限の闇。どれだけ深さがあるのか、想像もつかない。


 谷底へ引きずりこまれる感覚に陥り、エレナはぞっとしてその場から後退りした。



「くそ! こんなところ、どうやって行けってんだ!」



 アストラは憎らしげにクラドーを見上げた。竜は笑みを作ったまま黙っている。エレナはどうすればいいのか、じっと考えていた。



 もし魔法を使うなら、氷か土の魔法で橋を作るんだけど、それは無理だしなぁ。



 困ったエレナは、荷物を下ろし、何か使えそうな道具がないかを探した。



「ん? これは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
架け橋 ななの他作品

モフモフと美形の出る異世界恋愛
*毒舌氷王子はあったかいのがお好き!*
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ