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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第六章 絶望の果て

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葛藤

 一方アストラは、ギルド街にあるヘルメの仲間の店に居た。


 武器、防具、薬草など、豊富な品が取り揃う店内。


 その隣にある応接室に彼は通された。木製の机の上に二人分の食料や衣服など、旅に必要な物が次々と運ばれてくる。ルカーヌが手配してくれたのだ。


 アストラはいつでも出かけられるよう、それらを無言で各自の袋に詰めた。いそいそと部屋へ荷物を運び入れるヘルメは、彼の横顔を物憂げに眺めている。



「お兄さん。賢者様から話は聞きましたが、そんな恐ろしい場所へ、本当に行くんですか?」


「ああ、そうだ」


「たった二人で? 自分も死ぬかもしれないのに?」


「起こってもいねぇことを、ぐだぐだ考えても仕方ねぇだろ」


「それはそうかもしれないですけど。お兄さんは怖くないんですか?」


「怖いなんて言ってらんねぇよ! ユーティスを救えるのは、おれたちしか居ねぇんだから!」


 アストラはわざと力強く言葉を放った。もちろん不安はおおいにある。だが負けず嫌いな彼は、そうそう他人に弱音を吐かない。もとよりそれを口にするのは、自分に負けることを意味するからだ。


 アストラの言動に、ヘルメはちょっと感心した声を出した。



「お兄さん、態度は悪いですが、ものすごく仲間想いなんですね」


「態度が悪いは余計だろ」


「ついでに言葉遣いも悪いですがね」


「ほっとけよ!」



 じとっとした目で言い放つと、ヘルメは何やらそわそわした様子でアストラを見てくる。彼はいぶかしげに聞いた。



「何だ? おっさんも死の大地に付いて行きたいのか?」


「ごっ、ご冗談を! おいらだって命は大事ですからね! ここで大人しく待ってますよ!」


「だよな」



 もし行きたいと言われても、断るけど、と彼は思った。こう言うと残酷だが、素早く動き回れぬ人間は、足手まといにしかならない。少人数で行動した方が、いち早く目的地にたどり着けるので、アストラは最初からそのつもりをしていた。


 すると突然、ヘルメは太眉を下げ、静かに頼み込んだ。



「あの、お兄さん。危険だとは思いますが、どうか無事に帰ってきてくださいね」


「え!? おっさん、おれのこと心配してくれんのか!?」



 どういう風の吹き回しだ、と真顔で聞き返す。ヘルメは慌てて否定した。



「違いますよ! お兄さんにはポロン先生を説得してもらわなきゃなりませんからね! 生きて帰ってきてもらわなきゃ、困ります!」


「ああ、なるほど! そっちの心配か! おっさんのがめつさはブレねぇな!」


「がめつくありませんよ!? ちゃんと約束したでしょう? すでに商談は成立してるんです! おいら、あなたから受けた損をがっつり取り返さなきゃならないんでね! 身体を引きずってでも帰ってきてくださいよ!」



 あくまでも利益優先な発言だが、言葉の端々に人情味がうかがえる。とても彼らしい励まし方だ。



「分かってる。絶対、戻ってくるから、パイでも食って待っとけよ!」



 アストラは不敵に笑い、二人分の荷物を右肩に引っかける。


 外に出ると、雨が激しく降り続いていた。灰色の雲が、まるで泣いているみたいだ。



 まだ、くたばるんじゃねぇぞ、ユーティス。



 アストラは厳しい面持ちで空を仰ぎ、エレナたちの元へ急いだ。




 一時間後。エレナが【転送】の魔法陣を使いこなせるようになったのを確認し、いよいよ出発の時が来た。


 ルカーヌ、エレナ、アストラ以外、魔法訓練所には誰も居ない。


 二人は毛皮のフード付きコートを着る。エレナは白、アストラはこげ茶色だ。それに滑り止めの付いたブーツも履いた。寒さから身を守るための魔法もかけておく。これで防寒対策はばっちりだ。


 ポロンの発明品もいくつか袋に入れ、背負う。向こうでは食料を調達するすべがないので、最悪、手持ちがなくなったら、魔法陣で城に帰還するとルカーヌに伝えた。杖とユーティスの書いたメモを持ち、エレナは彼に頭を下げる。



「では、賢者様! ランドルグ行きの魔法陣をお願いします!」


「ご令嬢。その前に両手を出してみよ」



 エレナは目をぱちくりしてから、素直に両手を差し出した。


 ルカーヌはエレナの腫れた手に、治癒魔法をかけた。少しずつ赤みが引いて、痛みも和らでいく。彼はエレナを見下ろし、無愛想に告げた。



「己が最良の状態でなければ、目的を遂げることは叶わぬ。周りだけでなく自らの体調にも常に気を配ることだ」



 ルカーヌの気遣いをその肌に感じ、エレナはより元気に返事をした。



「はい! ありがとうございます、賢者様!」


「幸運を祈る」



 短く言ってから、ルカーヌは杖を立て、その場に魔法陣を描いていく。図形が完成すると、エレナとアストラは円の中に入った。



 緑の光が陣を満たし、やがて二人の姿は忽然と消えた。




 一人その場に残されたルカーヌは、感慨深く呟く。



「ニーケよ。あの娘はそなたにそっくりであるな」



 燃えるような赤い髪。信じた道を突き進む強さ。困難に立ち向かう勇気。少女の姿にかつての弟子の姿を思い出す。


 そして、自身の若き時代も。



「あの頃とは状況が違う。それがしは決して、正義の味方などではないのだ」



 ルカーヌは苦渋に満ちた声を漏らした。誰にも打ち明けられぬ、彼の葛藤。それにはまだ、明確な答えは見つかっていなかった。

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