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『風魔法入り』通信器は、細長い巻き貝の形をしていた。手よりも少し大きく、下には穴が開いている。てっぺんには丸い紫の石がはまっていた。


 説明書によると、これは遠く離れた場所に居る人と、会話が出来る道具らしい。同じ物を持っていれば、いつでも交流が可能だそうだ。



『修業をして欲しい時、困った時は、いつでもアタシに連絡するんだよ!』



 メモの最後に、そんな言葉が添えられていた。厳しくも優しい、ポロンらしい文面だ。


 使い方を読んでから、エレナは通信器に念じた。



 ポロン先生の通信器と、繋がれ!



 すると紫の魔鉱石が鈍く光り出す。それを確認してから、穴の空いている部分を右頬に押し当てた。



 これでほんとに、先生と話せるのかな?



 ポロンは現在ルピスに居るはずだ。距離もずいぶんあるのに、大丈夫だろうか。不安に思いながら、半信半疑で呼びかけてみる。



「えっと、ポロン先生、居ますか?」


『おや、エレナじゃないか! 久しぶりだね! どうしたんだい?』



 強気で可愛らしい声が耳元に響く。エレナは懐かしさと安堵で、また泣きそうになってしまった。



「ポロン先生、お久しぶりです。実は、ユーティスさんが呪いのせいで、気を失ったまま目を覚まさないんです。治す方法を知りませんか?」


『何だって!? 首のあざが進行したのかい!?』



 ポロンの声色が変わった。深刻な口振りだ。



「ポロン先生、呪いのこと、知ってたんですか!?」



 エレナはたまげて聞き返す。ポロンは重い口調で語り始めた。



『ああ、そうさ。口止めされてたから、言わなかったけどね。──エレナ。落ち着いて、よーくお聞き。ユーティスに呪いをかけたのは、かつて高位の魔法使いであった、魔王フォボスだ。三年前の決戦の日。あいつは死ぬ間際、あの子に呪いの刻印をつけたのさ』


「ええっ!? そうだったんですか!? ポロン先生は、昔からそのことを知ってたんですか?」


『ああ。なにせ一ヶ月間、付きっきりであの子の治療をしてたからね。嫌でも気付くさ。でもまさかそんな事態になるとは、予想外だったよ。症状が軽かったから、呪い自体も弱いものだと思ってたんだけど……。ちなみにあの子の故郷へは、もうたどり着けたのかい?』


「え? どうしてそんなことを?」


『あの子は仕事の傍ら、呪いを解く()を手に入れるために、故郷を探していたのさ。魔法の知識を蓄え、その発展に心血を注いでいた妖精族なら、呪いに対抗する手段を開発していただろうと踏んでね』


「鍵、ですか」



 そういえばユーティスは倒れる前、はっきりと言っていた。『手がかりを掴んだ』と。あれは『呪いを解く方法を見つけた』という意味だったのではないだろうか? 



 だったらまだ、希望はある。彼の命を助けられる。



「ポロン先生! たぶんその鍵はここにあります! 私、それを探してみますね! ありがとうございました!! 急いでるんで、これで失礼します!!」


『え? ちょいと! まだ話は終わってな──』


 ポロンが言い終わるまでに、エレナは通信器の魔鉱石を押した。魔法の発動を停止させたのである。彼女は通信器を袋に片付け、荷馬車を出ようとした。



「お嬢さん! 話し声が聞こえたんですが、大丈夫ですか? 医者をここに呼んできましょうか?」



 運転手が怪訝な表情で、エレナの顔色をうかがった。


 通信器で話していただけなのだが、彼には大きな独り言をこぼしているように見えたのだろう。


 ユーティスのことがショックすぎて、気が触れたと思われたに違いない。エレナは満面の笑みを浮かべて頭を下げた。



「もう大丈夫です! ご心配、ありがとうございます!」



 エレナは走って再び城に入り、ユーティスの私室へ向かった。



 廊下には見張りの兵士が、一人で立っている。了承を得て室内に入ると、ヘルメとルカーヌはおらず、眠るユーティスとアストラだけが居た。



 アストラは止める者が居ないのをいいことに、何やら部屋中をあさっている。床には開いた本が、足の踏み場もないほど散乱していた。綺麗好きのポロンが見たら、激怒され落とし穴へ生き埋めにされそうな状況である。エレナはびっくりして、アストラを問い詰めた。



「ちょっとアストラ!! 何やってるの!?」


「あ! 帰ってきたな! お前、おれが呼んでんのに無視すんなよ! 地味に傷付くだろ?」


「じゃなくて! 何してるのって聞いてるの! まさか泥棒!?」


「そんなわけねぇだろ! 探し物してんだよ! つうかお前、元気そうじゃん! 追いかけなくて正解だったな!」


「え?」


「どうせ戻ってくると思ってたぜ! お前、諦めが悪いからな! 打つ手がないなんて言われて大人しく引き下がるほど、ヤワじゃねぇだろ?」


「アストラ……」


「おれだって、このまま諦めてやるつもりなんか、一ミリもねぇんだ! そういうわけだから今、探してる。あいつが残した手がかりをな!」


「アストラも気付いたの? ユーティスさんが呪いを解く方法にたどり着いてたってこと」


「あ? そんなの知ったこっちゃねぇよ! でもあいつはこの前、本に何かをはさんで隠してた。あれはきっと、重要なものに違いねぇ!」



 アストラは棚から、本を引っ張り出し、ページを手早くめくっている。



 エレナは何だか嬉しくなった。彼もユーティスを助けるために、一生懸命、行動している。自分と同じ想いを抱く仲間が、諦めずに頑張っている。それだけで、彼女はとても心強い気持ちになれた。



 ユーティスさんは図書園でたくさん調べものをしてた。それを紙に書き留めていたはず! 



 エレナは横たわるユーティスのローブのポケットを探った。


 勝手に他人の服へ手を突っ込むのは、非常に罪悪感があったが、この際、四の五の言っていられない。



 ほどなく内ポケットから、びっしりと文字の記された紙が出てきた。


 アストラも本の隙間から、走り書きのメモを発見する。二人はお互いの紙を見合わせ、内容を黙読していった。



『闇魔法の成り立ちと発展』


『呪いによる事件とその症例』


解呪(かいじゅ)魔法の研究』


『転送魔法陣の描き方』


『古代地図』


『三つの秘石の言い伝え』


『竜族の歴史』



 たくさんの情報のうち、ひときわ目を引く走り書きがあった。エレナはそれを口に出す。



「妖精族、生存の可能性と、解呪魔法完成の兆し有り。死の大地【ランドルグ】を目指すこと」



 エレナとアストラは目を合わせ、うなずきあった。



「ここに行けばきっと、ユーティスさんを助けられる」



 確信を持ったエレナは、ベッドに横たわる彼に視線を送った。



 待ってて、ユーティスさん。必ずあなたの呪いを解いてみせるから。



 雨の勢いが増してきて、騒がしい音が窓から漏れてくる。


 二人は本の片付けもそこそこに、部屋を後にした。揺るがぬ決意を胸に、瞳を煌めかせ、呪いを解く『鍵』を握り締める。



 襲い来る闇と共に紐解かれた、残酷な真実。



 それに立ち向かう彼らの足取りは、強く確かだった──。

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