帰還
「おい、ユーティス!! しっかりしろ!!」
アストラは大声で呼びかけ、彼の肩を掴んで揺さぶる。返事はやはりない。
「どいて、アストラ! 私が魔法で何とかしてみる!」
彼はうなずき、ユーティスから少し離れた。エレナはとにかく解毒や治癒、回復の魔法を片っ端から使ってみた。しかし彼はぐったりしたまま、一向に動かない。
アストラは地面を睨み付け、憎々しげに言葉を吐いた。
「くそ! あの野郎、こいつに何をしやがったんだ!」
「分からない。でも魔法をかけてたと思う」
エレナの足元で、ユーティスはとても苦しそうにしている。もし彼がこのまま、意識を取り戻さなかったら?
悪い想像しか浮かばず、不安ばかりが押し寄せる。エレナは恐ろしくて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「皆さん!! これは一体、何事ですか!?」
すると騒ぎを聞きつけたヘルメが、馬車を引き連れ三人のところへ駆けてきた。エレナは悲鳴にも似た声で説明する。
「ユーティスさんが大変なんです! 呼んでも目を覚まさなくて! それに首のところに、よく分からないあざがあるんです!」
「なんと!? これは闇魔法の類いかもしれませんね! すぐに優秀な魔法使いに見せないと! しかし、ここからノース王国まで、ずいぶんある。いくら急いでも、五日はかかります!」
「そんな! 早くしないとユーティスさんが死んじゃいます!」
急がねば、手遅れになるかもしれない。でもどうすれば? と脳をせわしく働かせる。
エレナはふと、あることを思い出し、アストラに告げた。
「あの男の人が来る前、ユーティスさんは『転送』の魔法陣を描いてたよね? あれを使って帰れないかな?」
「成功するか分かんねぇけど、一か八か、やってみるしかねぇな! ──おい! おっさん! あそこにでかい変な絵が描いてあるだろ? おれたちを馬車に乗せて、その上まで連れてってくれ!」
アストラが険しい表情で、透明の壁があった付近を指差す。
「ええ!? どうしてですか!?」
「詳しい説明は後だ! 頼む!!」
アストラに思い切り頭を下げられ、ヘルメは目を白黒させている。それから太眉を寄せ、真顔で言った。
「いいですけど! おいらの商品に何かあったら、全部弁償してもらいますからね!! 分かりましたか!?」
「分かった! おっさん、ありがとな! 恩に着る!!」
「そ、そうと決まったら早く乗ってください! 出発しますよ!!」
ヘルメは調子が狂うなぁといった面持ちで、二人を促した。
アストラはユーティスを担ぎ上げ、馬車に乗せた。エレナとヘルメも落ちていた荷物を全て拾い、そこへ乗り込む。
運転手は鞭を叩き、二頭の馬を走らせた。
円陣に入ると、描かれた図形が明るく輝き出した。馬が驚いて足踏みをし、いなないている。途端に魔法陣の中はまばゆい緑色の光で満たされ、目を開けていられなくなった。
お願い! ノース王国へ私たちを送り届けて!!
エレナは強く強く祈った。これが成功しなければ、ユーティスの助かる可能性が、限りなくゼロに近づいてしまうような気がしたのだ。
数秒経ってから、光が消えた。同時にガタンと馬車が跳ねて、尻に衝撃が訪れる。恐る恐るまぶたを開くと、そこは先ほどとは違う景色だった。
「皆さん、やりましたよ! ノース城の近くに到着しました!」
運転手の声を聞き、エレナは一瞬、安堵してから、早口で懇願した。
「今すぐ賢者様のところに、私たちを連れて行ってください!」
「承知いたしました!」
運転手は馬を走らせ、城の入り口まで来た。
重厚な扉のすぐ近く。
ルカーヌと、その弟子と思われる魔法使いたちが、ぞろぞろと外に出てきていた。どうやら異変を察知したようだ。
「そなたら、関所を通らず無断でここに来たであろう!! 何事だ?」
強面のルカーヌは厳めしい声で尋ねた。エレナはすぐさま立ち上がって、馬車から飛び降りる。彼女は涙を瞳いっぱいに溜めて、ルカーヌにすがりついた。
「賢者様!! あの人を! ユーティスさんを、どうか助けてください!!」




