重なる背中
荒れ地に緊張が高まる。エレナは横からユーティスの様子をうかがった。彼は青ざめており、平静さを失っているようだ。アストラは剣をいつでも抜ける態勢に入っている。
この人、一体何者なの?
エレナは言い知れぬ恐怖を覚えながら、闇色のローブの男に注目した。ウーディニアは見下した声で、ユーティスに尋ねる。
「何だその顔は? まさかあの時、我を倒せたと思っていたのか?」
「くっ……!」
「貴様はどうあっても我を消せんのだ。もう解っているのだろう?」
「そんなことはない! 私はお前をここで倒す!」
「いつまでそのような口が叩けるだろうな?」
余裕たっぷりに言って、ウーディニアは岩から飛び降り、ユーティスの目をじっと覗き込んだ。
赤々とした瞳に底無しの悪意を感じ、エレナはこめかみに冷や汗をかいた。だが男から視線は外せない。わずかな油断もしてはならないと、本能が激しく知らせていたのだ。
「エレナさん! アストラさん! 今すぐ逃げてください! 奴は危険です!!」
「え!? どうしてですか!?」
「あいつ、敵なんだろ!? みんなでやっつけようぜ!」
「いけません! 早くここから離れるのです!!」
ユーティスは鬼気迫る表情で叫ぶが、エレナとアストラは微動だにしない。相手がどんな強者だろうが、仲間を残して逃げるなど、正義感の強い彼らに出来るはずがなかった。
ウーディニアは二人を一瞥し、不気味に笑う。
「くくく。そいつらが貴様の仲間か。女から報告は受けているぞ」
「女だって?」
「ああ。以前、貴様と遭遇した時に言っていた。しかし、まだ一緒に行動していたとはな」
「もしや……ティシフォネか?」
「ほう。察しがいいな。その通りだ」
ウーディニアは目を細め、愉しそうに問い続ける。
「それにしても、ずいぶんその者たちに入れ込んでいるようだな。彼らは知っているのか? 貴様の本性を」
「……お前には関係のないことだ!」
「いい顔をしている。これも仲間が出来たからか。例えばこの者たちの命を奪ったら、貴様はどうなるのだろうな?」
本気か冗談か分からぬ軽い口振りで、ウーディニアは聞いた。ユーティスの綺麗な顔が瞬く間に怒りで歪む。
「そんなこと、絶対にさせるものか!」
ユーティスは杖を素早く振り上げ、呪文を唱える。
次の瞬間、エレナとアストラは、透明の巨大な箱の中に閉じ込められた。
「おい! 何だよ、これは!?」
「ユーティスさん、何をするんですか!?」
「お二人とも、しばらくそこに居てください! すぐに戻ります!」
「待ってください! ユーティスさん!」
エレナは必死に呼び止めるが、彼はウーディニアに向かって突進していった。ユーティスを追いかけようにも、壁が邪魔してその空間から出られない。エレナは魔法を使い、アストラは剣を振るうが、あまりに強固でそれを破れなかった。
「ちくしょう! びくともしねぇ!! どうすりゃいいんだ!!」
アストラは怒鳴り、剣を持ったまま壁を殴った。酷く焦っているのがその様相から見てとれる。エレナは心臓が嫌な音を立てるのを感じていた。
『必ず追いつく』
ふいに頭へ響いたのは、四年前に聞いた声だった。ユーティスの後ろ姿に、亡くなった父の背中が重なる。震えと胸騒ぎが止まらない。次々に湧いてくる恐れと不安が、いつしか脳内を埋め尽くしていた。
エレナは杖を落とし、両の拳で壁を力一杯、叩いた。何度も何度も、血が滲むほどに。
嫌。だめ。行かないで。お願い。お願い──
「戻ってきて!! ユーティスさん!!」




