滅びた故郷
それから二日後の朝。
食事を済ませた一行は、ようやく【妖精の森】と思われる場所へ到着した。
「皆さん、お疲れ様でした! ここが目的地となります!」
ヘルメは何故かぺちゃんこの袋を背負って、荷馬車を降りる。他の三人も武器などを持ち、後に続いた。エレナはすっかり元気になっており、軽快に地面へと降り立つ。
そこに広がるのは、短い草がところどころ生えているだけの荒れた土地だった。灰色の空と冷たい風が、余計に淋しさを際立てさせる。
ユーティスは二枚の地図を交互に見てから、遠くへ視線を送った。
「地形の感じは似ています。ですが、ここは本当に、私の居た故郷なのでしょうか」
実感が湧かないと、声色が示している。あまりに昔と違いすぎていて、確信が持てないのだろう。
何とも不安そうなユーティスをよそに、ヘルメは生き生きと口を開いた。
「さて、皆さん! ここからは、おいらも同行させてもらいます! どんな素材や掘り出し物が落ちているか分かりませんからね! 売れそうな物をたくさん持って帰りますよー! あ。荷馬車と運転手の奴には、結界の魔法をお願いしますね! よろしく頼みます!」
やる気十分に言ってから、彼は目をらんらんと光らせ、地面をくまなく見渡している。
なるほど。だから袋を背負っていたのか、とエレナはおおいに納得した。どこまでも商魂たくましい男である。
「ヘルメさん。もし妖精族に関する品が発見されても、無断で持ち出さないでくださいね」
地図を丸めたユーティスが、すかさず釘を刺す。しっかり禁じておかないと、暴走しかねないと思ったのだろう。
だがヘルメは、ええ、分かってますよー、と話し半分で聞いている。視線は下を向いたままだ。
ヘルメさん、勝手なことして後でユーティスさんに怒られないかなぁ。
しかしあの調子だとやりかねないな、と思い、エレナは半目になった。(アストラも呆れ顔をしていたので、同じことを考えていたと思われる)
そうして四人は歩き出した。結界を張ってから、森があったと考えられる範囲を探索する。
辺りは緩やかな登り坂が続いていた。
森が襲われた時に焼かれてしまったのか、木が全く生えていない。それに目立った建造物やその残骸も見当たらなかった。草の中に瓦礫がいくつか転がっているくらいだ。
エレナの隣でユーティスは、まぶたを伏せ唇を固く結んでいる。ある程度、覚悟はしていただろうが、現状を目の当たりにしてショックを隠しきれないようだ。
生き物の影もなく、小鳥のさえずりすら聞こえない。肌寒く、物悲しい雰囲気が四人を包んでいた。
こんなに何も残ってないなんて。
エレナはユーティスの気持ちを想うと、胸が痛いほど締めつけられた。彼の持つ悲しみは計り知れない。
ユーティスの思い出に繋がる痕跡を、何か一つでも見つけられたらと、エレナは真剣に目を凝らした。
「あ! ユーティスさん! あそこに大きな岩がありますよ! 見覚えありませんか?」
その声にユーティスはぴたりと足を止めた。エレナは、ほらあそこですと、指を差す。そこには腰高の平べったい岩があった。四人はそれにゆっくりと近づいていく。
「これは……! 覚えています! 昔、よくここに座って、本を読んでいました」
ユーティスは懐かしそうに目尻を下げ、話し出した。
「私の母はとても教育熱心な方でして。仕事の傍ら、毎日、魔法と勉学を教えてくださってました。けれどあまりに厳しいので、私は時々、王宮を勝手に抜け出し、ここでこっそり好きな物語を読んでいたのです」
その後、すぐに見つかって叱られるのですけどね、と彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
へえ。ユーティスさんでも、勉強さぼったりするんだ。
彼の意外な部分を知り、ちょっと嬉しくなる。子供の頃のユーティスは、きっと可愛い男の子だったに違いない。
ここには昔、どんな景色が広がっていたのだろう。一度でいいから、ユーティスさんの生まれ育った森を見てみたかったな。
美しい木々も、王宮も、そこに住む妖精たちも。もはや想像するしか出来ない。それがただ、切なかった。
「これがここにあるなら、向こうが王宮か」
ユーティスは記憶をたどっているのだろう。独り言をつぶやきながら、真っ直ぐ歩いていく。十分ほど歩くと、そびえ立つ巨大な岩があった。彼は岩に右手を添え、小さく言葉を紡いだ。
「王の資格ある者を、導け」
次の瞬間、ユーティスの首飾りが蒼く輝き、岩肌に羽ばたく鳥の紋章が浮かび上がった。
紋章が眩しく光を放ったかと思うと、そこに真っ白な木の扉が出現した。秘密の入り口が開いたのである。ユーティス以外の三人は、驚きのあまりぽかんとしていた。
「さあ、入りましょう」
光が収まってから、ユーティスはごく自然に扉を開き、中に入る。エレナ、アストラ、ヘルメも、慌てて後を追った。
扉の奥は、鍾乳洞だった。上からつららのように伸びる、白く細長い石。暗い足元には、緑や黄色に光るきのこがたくさん生えている。お陰でずっこけることもなく、順調にユーティスの後を付いていけた。
しばらく歩くと、明るい空間に出る。エレナはあまりの光景に目を奪われた。
「綺麗……」
洞窟の天井の隙間から、淡い太陽の光がきらきらと差し込んでいる。そしてその下には、樹齢百年は越えているだろう大木が何本も立っていた。それらの木の幹には大きな穴があいており、膨大な量の本がところ狭しと並べられている。地面全体は緑の苔に覆われていて、まるで毛足の長いじゅうたんのようだった。
「良かった。無事に残っていましたね」
ユーティスは足を進め、嬉しそうに本へ手を伸ばした。エレナはきょろきょろしながら、彼に問いかける。
「ユーティスさん。ここは一体、何なんですか?」
彼は引き締まった面持ちで、エレナを見つめた。
「あまたの書物が保管されている場所──『王室図書園』です。ここにはあらゆる魔法と妖精族の知識が結集しています。王しか入ることが許されていなかったこの場所に、きっと。私の探し物はあります」
【お知らせ】
登場人物のイメージイラストを、活動報告(作者名から飛べます)に載せています。良ければご覧ください(*´∀`)♪まだ全員ではないので、これから少しずつ増える予定です。今後とも応援・感想・評価など、よろしくお願いします!(*´ω`*)




