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追い詰められた心

 それから、エレナ、アストラ、ユーティスの三人は、厳しい訓練を行った。もはや習慣となっている。


 広大な草原は見晴らしもよく、魔法と剣の修行にはうってつけの場所だった。


 魔物も頻繁に現れるようになり、三人は協力してそれを倒していった。



 そうして四日の時が経つ。



 日が一番高い場所にある頃。荷馬車から遠く離れた草原に、三人は居た。(ヘルメは結界を張ってもらい、運転手と留守番をしている)


 この日エレナはめでたく新しい魔法を三つ習得していた。『状態異常』を防ぐ魔法。『毒や麻痺』を治す魔法、『身体強化』の魔法である。



「エレナさんは本当に飲み込みが早いですね。素晴らしいです」


「えへへ! ありがとうございます!」


「一度ゆっくり休憩を挟みましょうか?」


「いいえ! もっともっと、頑張れますよ!」



 疲れたなんて言ってられないもの!



 エレナはにこにこして、ユーティスを見つめた。近頃はやっと動揺せず、ちゃんと顔を見られるようになった──だいたいは。



「エレナさんは努力家ですね。あなたはとてもいい魔法使いになれると思います」


「はぅ!」



 ユーティスさん! その笑顔は反則です!!



 唐突に向けられる極上の笑みは、やはり心臓に悪い。顔もすぐに赤くなってしまうので、誤魔化すのが大変だ。



 もういっそ、顔を真っ白に塗ってしまおうかな。そしたら照れてもばれないし。



 赤面対策に、最近、本気でヘルメから化粧品の購入を考えるエレナだった。(後日、購入し塗ってみると、アストラに「おばけみてぇ!」と大爆笑された。エレナの魔力が怒りで倍増したことを彼は知らない)



 その後、アストラも交えての合同訓練が行われた。彼は目に頼らずに気配を読む練習をしていた。ユーティスとエレナの杖での攻撃を、目隠しした状態で避ける。足音、空気の揺れ、呼吸音などを捉え、それに素早く反応する。もちろん素手で反撃もするので、エレナも弾き返したり、避けたりしないといけない。


 過酷な訓練は何時間にも及んだ。



 夕方近くになり、アストラとユーティスは食材を求めて、近くの森に入っていった。


 疲れ果て、草原に座り込んでいたエレナも、一息ついてから待機している荷馬車のところへ戻ろうとする。その時だった。



 あれ? 景色が霞む。どうして? 



 立ち上がった瞬間めまいがして、世界が反転する。彼女はそのまま、草むらにばたりと倒れてしまった。




──身体が持ち上げられ、揺れる感覚がする。



「ここは……?」


「あ。気が付かれましたね。大丈夫ですか?」



 ゆっくりまぶたを開くと、すぐ前にはユーティスの後頭部と背中がある。数秒ほど思考停止したのち、エレナは自分がおんぶされていると理解した。



「ひゃあ! ゆ、ユーティスさん! 下ろしてください!」


「だめです。倒れたんですから、大人しくしていてください。荷馬車まで運びます」



 有無を言わさず断られてしまった。逃げ出そうにも力が入らず、泣く泣く抵抗を諦める。顔がひたすら熱くなり、鼓動がやかましい。背中越しに心臓の音が彼に伝わってしまいそうだ。



 しかし、幸いユーティスはそれには気付いていないらしい。彼は少し強い口調でエレナを叱った。



「きっと訓練の疲れが溜まっていたのでしょうね。ですがもう無理をしてはいけませんよ。しんどい時はちゃんと言ってください。エレナさんの身体は、たった一つしかないのですから」


「はい。すみません」



 迷惑をかけてしまったと、エレナはしょんぼりする。この前、ユーティスに怪我をさせてしまってから、彼女は知らず知らずのうちに、自分を追い詰めていた。強くなりたいと焦るがゆえに、限界を無視して頑張り過ぎていたのだ。加えて、ダミアが言っていたことも、非常に気がかりとなっていた。



 エレナは彼の肩にきゅっと掴まりながら、尋ねる。



「ユーティスさん」


「何ですか?」


「魔王フォボスはもう、復活しませんよね?」


「……恐らくは」


「たくさんの罪のない人が死ぬ。そんな悲しいことは、もう二度と起きませんよね?」


「分かりません。ですがそうならないために、最善を尽くします。私一人の力は限られているので、自分に出来る範囲内で動くしかありませんが」


「私にも、何か役に立てることはあるでしょうか?」


「ありますよ。少なくとも、私はエレナさんに救われている。もちろんアストラさんにも」


「どうしてですか?」


「あなたたちは、私を大賢者と知りながら、気楽に友人として接してくれます。それが本当に嬉しいのです。実のところ、最初に正体を隠していたのは、畏れられ、距離を取られるのが怖かったからでもありました」



 エレナはそうだったのかと合点がいった。出会った当初、頑なに正体を隠そうとしていた彼の行動は、孤独になりたくなかったせいもあったのだ。



 エレナは弱々しく、それでいて穏やかに伝えた。



「ユーティスさん。大丈夫です。私、どんなことがあっても、あなたから離れて行きません。だから、何も隠す必要なんてないです。ユーティスさんはそのままの気持ちを、いつだって伝えてください」



 ユーティスはしばらく黙って、努力しますと短く答えた。はいと言えないのが、彼の正直なところであり、臆病なところでもあるのだろう。



 ユーティスさんの持つ淋しさが、少しずつでもなくなっていけばいいな。



 エレナは彼の苦しみを想い、そっと祈った。


 筋肉質な背中から、優しい温もりを感じる。彼女はいつの間にか、彼の安心する匂いに包まれながら、深い眠りに落ちてしまっていたのだった。

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