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交渉

──朝。王たちと朝食を共にした三人は、妖精の森に旅立つ準備を始めた。



 武器と袋を持ち、ヘルメが泊まる宿へ向かう。すると、もうすでに彼が外に出ており、荷馬車への積み込みも終わっていた。さすがはやり手の商人だ。仕事がかなり早い。この分だとすぐに出発が出来そうだ。



「今日はまた一段と冷えますね」


 ユーティスは寒いのか、首に青いマフラーを巻いていた。その下に大切な首飾りが見えている。



「エレナさんも、良かったらどうぞ」



 彼は微笑み、白のマフラーを手渡した。いつの間に用意しておいてくれたのだろう。エレナは彼の気遣いに嬉しくなった。



「ありがとうございます!」



 エレナはにっこり笑って、それを首に巻いた。ふわふわした優しい感触に、心がほっこりする。



「おれはいらねぇから」



 アストラはユーティスが尋ねる前に断りを入れる。あまり視線も合わさないようにしていた。



 彼らは何故か、今朝からよそよそしい態度だ。喧嘩でもしたのだろうか。


 

 これから一緒に旅に出るっていうのに、仕方ないなぁ。



 ただでさえアストラはヘルメと仲が悪い。それなのにユーティスとまで揉めたとしたら、大変な事態だ。目的地にたどり着くまで、彼らと同じ空間の中、最悪な時間を味わわなければならない。



 エレナは二人の気を紛らわそうと、元気な声を出した。



「そういえば! 先生の発明品の中に、アストラ宛のもあったよ! 今、見てみる?」


「まじかよ! どんなのだ?」



 アストラは目をきらめかせた。エレナは背負っていた袋から、預り物を出して渡す。


「はい、これ!」


 それは一センチほどの四角い魔鉱石がはまった、銀の細い腕輪だった。



「おお! 格好いいじゃん! 何か、魔法がかかってんのか?」


「うん。私のと同じ『言語変換』の魔法がかかってるらしいよ!」


 エレナは赤い髪を耳にかけ、紫の耳飾りを見せた。アストラは早速右手に付けて、眺めている。



「うーん。何も変わんねぇな。ほんとに違う言葉が分かるのか、試してみてぇんだけど」


「そうだね。試しに馬にでも話しかけてみる?」


「それ、変な奴だと思われねぇ?」


「大丈夫だよ。もうすでに思われてるから」


「お前、失礼だろ」


「アストラに比べたらましだよ」



 笑いながらぽんぽんと軽口を叩く。ユーティスはふっと口元を緩め、二人に言った。


「エレナさんとアストラさんは、本当に何でも言い合えるのですね」


「……まあ、腐れ縁だからな」


「ユーティスさんも、言いたいことあったら、何でも言ってくださいね! アストラ、バカ正直だから、失礼なことしか言わないんで!」


「おいおい! それは言い過ぎだろ? おれだって気を遣うこともあるんだぜ?」


「ふーん。そうは思えないけど! アストラはもうちょっと、言葉遣いを学んだ方がいいよ!」



 エレナは冷めた瞳で言い放った。彼は不満げに眉をひそめている。



「あのー、お二方。その珍しい品は何ですか?」



 話を聞いていたヘルメが、細い目を見開いて尋ねてきた。



「え? これは私の恩師である先生がくれた、発明品です」


「ちょっと見せてもらっていいですか?」


 エレナは快く耳飾りを外して渡した。ヘルメはズボンのポケットから虫眼鏡を出し、観察した。


「おお! これはすごい! 美しい形! 精巧な造り! しかもこんな小さな魔鉱石に魔法の効果が秘められているとは!」


「そんなにすごいんですか?」


「ええ! そりゃあもう! 普通なら小さい魔鉱石は、魔法をかけてもすぐ壊れてしまうので、使い物にならないのです! それが可能になっているということは、この耳飾りを作った方は、よっぽど高い技術をお持ちだと言えます! これは忙しくなりそうだっ!!」


 ヘルメは色めき立っている。耳飾りを返してもらったエレナは、いきなり声を張り上げる彼に、だいぶ引いていた。



「お嬢さん! それは誰からいただいた物なんですか? その方に商品化のお話と、発明品の開発に協力したいことを伝えます! ぜひおいらに教えてください! お願いします!」



 ヘルメはまぶしいほどの笑顔で、彼女を拝みまくった。どうやら特大の『カネのタネ』を見つけたらしい。



「これはヴェスタ王国の大魔法使いである、ポロン先生からいただきました」


「ポロン先生って……『治癒の魔法使い』の?」


「あれ? ヘルメさん、先生を知ってるんですか?」


「ええ、まあ」



 ヘルメは虫眼鏡をしまってから、代わりにハンカチを取り出し、忙しく汗を拭いている。



「ヘルメさんは、ポロン先生が私のけがの治療してくださっている時に、何度か取材に来られてましたからね。よくご存知のはずです」


「そうなんですか?」


「え? はあ。まあ、よーく知っておりますとも。しかし、よりによって、あの方の発明品ですか。困りましたね」



 ふいにヘルメは遠くを眺め、身震いした。何か嫌な思い出があるようだ。アストラは片眉を上げ、彼に問いかける。



「おっさんさあ、ポロン先生に落とし穴へはめられたクチだろ?」


「はい? お兄さん、何を言ってるんですか?」


「それか、暇だから魔法の特訓に付き合わされたとか?」


「うぐ! どうしてそれを?」


「おれの観察眼なめんな。顔に書いてあるぞ」


「なぬっ! おいらとしたことが!」


「ポロン先生への交渉、おれが代わりにしてやってもいいぜ?」


「え、本当ですか?」


「ただし条件がある。おれにあの竜の鎧を売ることだ。もちろん半額で」


「は、半額ぅ!?」


「あー嫌なら別にいいぜ? おっさんの大好きな情報を、他の商人に教えるまでだ。さあ、どうする?」


 余裕な声のアストラ。ヘルメのふくよかな顔から、血の気がどんどん引いていく。



「まあ、ゆっくり考えろよ。時間はたっぷりあるんだから。でも、おれはそんなに気長な性格じゃねぇけどなぁ」



 気絶しそうな商人に、どす黒い笑顔でとどめを刺しにきた。この人、悪魔だな、とエレナは思う。




──こうして、アストラは値引きを絶対にしないと公言していたヘルメから、半値で竜の鎧を買い取った。


 旅の最中、何度も脅されるヘルメを見ることになったエレナは、つまらぬ喧嘩がなくなって良かったなあと、呑気に考えていたのだった。

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