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晩餐会

 その日の夜。



 城の大広間には、真っ白なテーブルクロスの敷かれた、縦長の机が置かれた。



 一番奥、正面の席に座るのはダミア。


 左側にはエレナとアストラが。右側にはルカーヌ、ユーティス、ヘルメが座っている。


(ちなみにあの後ヘルメは王と謁見し、祝いの席に招待された)



 大広間の天井には煌めくシャンデリア。部屋の両端にある薄緑のカーテンは、艶のある素材で織られており、淡く光を反射させている。広間の右手にある大きな暖炉の側には、楽器隊がおり、食事が始まると同時に心弾むような音楽を奏でていた。



 隣接された台所から運ばれる、前菜、ポタージュスープ、パン、鳥ハム、魚のムニエル。次から次へと並べられるごちそうに、エレナは興奮しきりだった。



「うーん、素晴らしい! この辺りは寒くて作物もあまり育たないでしょうに、どの野菜もとても新鮮で美味しいです!」



 ヘルメはたくさんの料理に舌鼓を打ちながら、賞賛を述べた。ダミアはワイングラスを置き、にこにこして答える。



「そうであろう? ここにおる優秀な賢者が、魔法で作物に必要な光・熱・水を与えておるのだ!」



 彼は自慢気に髭を揺らす。ルカーヌはおおっぴらに誉められて、気恥ずかしそうだ。ヘルメは調子よく賛辞を並べた。



「ほほう! 『破壊の魔法使い』として名高い賢者様は、そのようなこともなさるんですね!」


「うむ。食料は陛下や民の健康を保つのに何よりも重要であるからな。それがしや弟子が常に管理し、生長に目を光らせているのだ」


「さすがですね! 優秀な方とは存じ上げておりましたが、そのような繊細な職務までこなされているとは!」



 ヘルメの言葉に、エレナも同意した。本来なら魔法は威力の調整が難しい。呪文によって、大まかな強さが変わるくらいだ。それを見事に操り、生活に役立てている。並々ならぬ努力と研究があってのことだろう。


 最初『破壊の魔法使い』と聞いた時は、どんな凶暴な人物なのかと思ったが、実際はかなり真面目で仕事熱心な気質のようだ。



 パンを味わいながら、エレナはそういえば、とユーティスに話しかけた。



「この前、馬車で言ってた話、まだ聞けていませんでしたね」


「ああ。『始まりの王』の言い伝えですね」


 ユーティスがうなずくと、


「それがしが詳しく話してしんぜよう」


 とルカーヌは落ち着いた口調で語り始めた。



「はるか昔。一つの広大な国を治めていた人間の王は、病床で三人の息子に領地を分けた。西と東、それから北に。


 普段から仲の悪い兄たちを見ていた一番末の弟は、争いを嫌い、敢えて北の未開拓の地を治めると決めた。


 その弟は人望に厚く、大勢の民が北へ渡り若い彼に手を貸した。こうして王国は無事に開かれ、大きな発展を遂げた。彼は皆に深く感謝し、いつでも民の心に寄り添いながら、国を守ったそうだ」


「素敵なお話ですね」


「この言い伝えにある弟君こそが、陛下の遠い遠いご先祖様なのだ。陛下は初代の王の考えを守り、日頃から行動に移しておられる」


「それと、朕の指輪も、我が王家に代々受け継がれているものなのだ。肌身離さず持ち、守るよう言われておる。何でも特別な魔力が秘められているそうだ」


 ダミアが指輪を見せると、エレナは目をきらきらさせて尋ねた。



「そうなんですか! 何かすごい魔法が使えるんですか?」


「いや、何も。この言い伝えに関しては、朕はひそかに嘘ではないかと疑っておる。家宝をしかと守らせるために、初代の王がそのような作り話をした可能性が高い」


「陛下。ご先祖様に対して、その言いぐさはどうかと」


 ルカーヌが腕組みして、太眉をたいそう寄せている。これは今にもお説教が始まりそうだ。ユーティスはダミアに助け船を出した。



「古書にある様々な言い伝えも、創作物が混ざっている時がありますからね。一概に全てが事実だとは言い切れないのですよ」


「そうなんですか」



 期待に胸を膨らませたエレナは、若干残念な気持ちになった。未知なる魔法を見られるかもと思ったからだ。怖い部分もあると知りながらも、彼女はやはり魔法が好きなのである。



 和やかな会話と食事は進み、エレナは料理長に呼ばれて、中座した。



 しばらくして戻ってきた彼女の手には、本日のデザートが載っている。それを皆に配ってから、エレナは席につき、斜め前に居るユーティスに声をかけた。



「ユーティスさん。食べてみてください。料理長さんに教わって、私が作ったんです」



 それはパウンドケーキだった。ユーティスの好きなりんごが、上にふんだんに盛られている。溶けたバターと煮詰めたりんごの豊潤な香りが、辺り一面に広がっていた。



「では、いただきます」



 ユーティスはフォークでそれを小さく切り、一口食べた。ぱちくりと目が瞬き、次にとろりと幸せそうな顔になる。



「少し残るりんごの食感と、柔らかい生地。甘さもちょうどいいです。こんなに美味しい物は、生まれて初めて食べたかもしれません」



 言ってからユーティスは、嬉しそうに頬を緩め、ケーキを食べ進めている。



「良かった! 喜んでもらえて!」



 エレナは明るく言って、彼の瞳を覗き込んだ。



「ユーティスさん、この頃ちょっと疲れてますよね?」


「え? ……まあ、そうですね」


「でも無理しないでくださいよ? いくら大賢者様だって、頑張りすぎたら具合悪くなっちゃいます。しんどかったら、いつでも頼ってくださいね。私で力になれることがあるなら、何でもお手伝いしますから!」



 エレナはきりっと眉を上げ、男前の表情を作る。ダミアは髭を撫で、しみじみと言った。



「ユーティスよ。お主、良き仲間を見つけたな」


「はい。本当に、そうですね」



 ユーティスはうなずき、噛み締めるようにつぶやく。



 エレナの作ったりんごのケーキは、瞬く間に皆の皿から消えてしまった。



 そうして心安らぐ甘い香りだけが、賑やかな大広間に、いつまでも残されていたのだった。

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