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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第五章 紐解かれる真実

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面影と過去

 一方、ユーティスは荷馬車より少し離れた位置でかがんでいた。その足元には運転手が倒れている。彼は毒針に刺されたようで、顔と手足が赤く腫れ上がっていた。身体も痙攣(けいれん)し、息もかなり荒くなっている。一刻を争う状態であることはすぐに分かった。


 ユーティスは自分と運転手、馬の周りに結界を張った後、解毒の魔法を唱えた。


 運転手の震えが止まり、徐々に顔色が良くなっていく。ユーティスはほっとしてから、魔物を見つめた。



 遠くで仲間たちが戦闘をしている。


 アストラは四方から同時に襲ってくる五匹の蜂共を相手取っていた。重く踏み込んだ左足を軸にして、一回転。低い態勢から弧を描くように剣を振る。力強く放たれた一閃は、魔物たちの息の根をあっさり止めた。こちらは全て片付いたようだ。


 しかし、アストラの数メートル向こう側で、エレナはまだ戦っていた。他の魔物より二回り大きい、女王蜂と対峙している。彼女は攻撃魔法を唱えているが、なかなか当たらない。瞬発力は敵の方が勝っているのだ。



 ユーティスは彼女に加勢しようと走り出した。


 そんな最中。



 女王蜂は体当たりを止め、尻をエレナに向けた。


 次の瞬間、針だけが何本も彼女に向かって飛んでいく。


 本体が向かってくると思っていたのだろう。エレナは完全に虚を突かれていた。



 いくつもの毒針がエレナを襲う。とっさにユーティスは彼女を突き飛ばし、身代わりになった。黒い針が、彼の右腕に次々と突き刺さる。



「ユーティスさん!!」



 エレナは彼に向かって叫んだ。ユーティスは苦痛に顔を歪めながら、魔物に杖を向け、呪文を唱える。



千光槍(サンレイズスピアー)!」



 杖から発生したおびただしい数の光線に、女王蜂は貫かれ、黒いもやになって消えた。




 魔物が全滅し、森に静けさが訪れる。


 こめかみに汗をかいているユーティスは、眉根を寄せ、腕を押さえてしゃがみ込んだ。エレナは顔面蒼白になり、即座に駆け寄る。アストラも走ってきた。



「ユーティスさん! 大丈夫ですか!?」


「平気です。これくらい、すぐに治せます」


 彼は毒針を引っこ抜き、ローブの袖を捲って解毒の魔法をかける。傷口から黒い液体が流れ落ち、赤くなっていた右腕は、みるみるうちに元通りの肌の色になった。まだ血は滲んでいるが、毒は体内から出ていったらしい。



「後は治癒魔法をかければ自然と傷口も塞がります」


 ユーティスはハンカチをポケットから取り出し、こなれた手つきで止血した。



「本当に……良かった……」



 エレナは膝を付き、小さく言った。その目からは涙が溢れていた。


 ユーティスはぎょっとして、彼女を覗き込む。



「エレナさん。私は大丈夫です。だから、泣かないでください」


「あ! ごめんなさい。ちょっとびっくりしてしまって。私、向こうで顔洗ってきますね」



 エレナはうつむきながら、遠く離れた川の場所までぱたぱたと走っていく。アストラはその姿を辛そうな瞳で追っていた。





 エレナは川岸にやって来た。透き通った水を両の手のひらですくう。きんと冷たい水だった。彼女はバシャバシャと何度も顔を洗う。


 ふと見ると、水面に自分の顔が映っている。父と同じ赤い髪。母と同じ茶色の目。両親の面影の残す容姿に、否が応でも苦しい過去を思い出した。



「お父さん、お母さん……」



 頭によぎったのは、四年前の父の険しい顔と、母の叫ぶ姿だった。



『大丈夫だ。父さんは死なない。だからお前は他の人たちと逃げろ。必ず追いつく』


『エレナ! 私に構わず行って! 早くっ!!』



 鮮明に聞こえてくる声に、目をぎゅっとつむった。



 もう誰も、失いたくない。あんな辛い思いは、もう二度と味わいたくない。弱かったら、誰も守れないって分かってるのに。私のせいで、ユーティスさんを傷付けてしまった。



 このまま旅を続けていて、万が一、彼の身に何かあったら。



 そう考えるだけで、エレナは怖くて怖くて堪らなくなった。胸が張り裂けそうで、涙が止まらなくなる。



 誰よりも優しくて、温かい人。


 誰よりも大好きで、側に居てほしい人。


 失うなんて、絶対に嫌だ。




 私は、もっともっともっと。


 強くならなきゃいけないんだ。




 エレナは水鏡に映る自分を、きつく睨む。



「泣いてる場合じゃない。頑張らなきゃ。今度こそ、大切な人を守り抜けるように」



 水滴を手の甲で拭ってから、赤髪の少女は呟いた。


 その両目に後悔と不安の涙は、もう一粒も、見当たらなかった。

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