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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第四章 迫りくる闇の足音

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抱える痛み

 広場でゼクターたちと別れた、数時間後。



 宿屋の二階にて、白いチュニック姿のエレナは、ベッドへ仰向けになり、物思いにふけっていた。疲れているはずなのに、眠れない。



 そんな時、下から戸の閉まる音がかすかに聞こえた。窓の外を覗くと、月下に白いローブの背中が見えた。



 ユーティスさん、こんな遅くにどこへ行くんだろう?



 エレナは気になり、藍色の外套を羽織って外へ出た。



 ひんやり冷たい風が肌に当たる。エレナは彼を追いかけ、王国の西側までやって来た。


 大きな池にかかる、真っ直ぐな橋の上。ユーティスは欄干にもたれ、首飾りを右手に乗せて、見つめていた。



「ユーティスさん」


「おや、エレナさん。まだ起きておられたのですか?」


「はい。何だか眠れなくて」


「私もです。なので夜道を散歩していました。ここはとても素敵な場所ですね」



 彼が移した視線をたどると、まあるい月が池の水面に輝く姿を落としていた。



 ユーティスは切なげに長いまつげを伏せる。エレナは彼の手元に目をやりながら言った。



「綺麗な首飾りですね」


「ええ。これは妖精の森から逃げる時、母が私にくれた物なのです」


「そうなんですか」



 首飾りにはめ込まれている、ひし形の石は、月に照らされて、蒼くきらめいている。


 ユーティスはあの親子たちを見て、優しかった母のことを懐かしんでいたのだろう。



 それはエレナも同じだった。


 今は亡き、魔法使いの父。そして穏和だった母に思いを馳せていた。



「ソフィアはいいなぁ。お父さんお母さんと、一緒に居られて」


 気が付くと、エレナは独り言を漏らしていた。胸に広がる疼きを隠せなかったのだ。



「エレナさんは孤児院出身なのですよね? ご両親のこと、覚えてらっしゃるのですか?」



 ユーティスに何気なく質問され、一瞬、言葉に詰まる。答えるかどうか迷ったが、エレナは彼に嘘をつきたくなかったので、正直に話すことにした。



「覚えてます。私、十三歳まで両親に育てられました。実はルピスの村が出来てから、孤児院に入ったんです」


「そうだったのですね。ご両親はどこかに行かれてしまったのですか?」


「いえ。二人は亡くなりました。四年前、魔王フォボスに殺されて」



 思った以上に沈んだ声が出た。ユーティスはすぐさま驚きと悲痛の表情を浮かべる。



 それを見てエレナは、ああ、余計なことを言ってしまった、と後悔した。



 どうしよう。ユーティスさんに気を遣わせちゃう。



 エレナは唇を噛んで、ユーティスの様子をうかがう。彼は眉を下げ、丁重に謝った。



「申し訳ありません。悲しいことを思い出させてしまって」


「いいんです、いいんです! 気にしないでください! 昔の話ですから!」


 エレナは口端を持ち上げ、努めて明るく振る舞った。しかしユーティスは首を横に振った。



「何年経っても、失ったものの重みと痛みは変わりません。──あなたのご両親の御魂(みたま)が、どうか、神の下で救われますように」



 ぎゅっと目を閉じたユーティスは、首飾りを握った手を胸に押し当て、祈りを捧げた。エレナは彼の姿を見て、同じように両親へ心の中で話しかけた。



 お父さん、お母さん。私、元気に魔法の修行してるよ。きっと、みんなを守れるくらい、強くなるからね。



──実際、彼の言う通りだった。本当はまだ、完全に立ち直れてはいない。出来るだけ考えないようにして、日々をやり過ごしているだけだ。両親を奪われた喪失感や自責の念が、四年経った今も、彼女を苦しめ続けている。



 祈り終わってまぶたを開くと、ユーティスと目が合った。


 柔らかく包み込むような視線に、エレナは少し赤くなる。それを悟られないように、彼女は軽くうつむいた。



「ところでエレナさん」



 おもむろにユーティスは、真剣な声で切り出した。



「あなたは、私が怖くないのですか?」


「え? どうしてですか?」



 エレナがきょとんとして首をかしげると、彼は重々しく告げた。



「今日、目の当たりにしたでしょう? 私は恐ろしく強大な魔法を使える。それこそ、国一つ簡単に滅ぼせるだけの力があるのです。だから皆、私をどうにか味方に引き入れようとする。しかし、どれだけ力や功績を褒め称えようとも。本当は皆、この私を、心の底から畏れているのです。エレナさん。あなたもそうではないのですか?」



 深緑の両目が、また潤んでいる。あの揺らぐ炎の中で見た瞳と、同じである。エレナはユーティスがどうしてこんなに悲しい顔をしているのか、やっと気付いた。



 ユーティスさんはきっと、淋しいんだ。みんなに畏れられて、避けられてるみたいに感じて、とっても辛いんだ。



 エレナは彼を見つめ、気持ちを込めて言った。



「私、ユーティスさんのこと、怖くありませんよ」



 彼は目を見開き、尋ねた。



「なぜ、そう思うのですか?」


「だってユーティスさんは、優しいから」



 エレナは穏やかな口調で言葉を紡いだ。



「確かに魔法の力は怖いです。一歩間違えたら、何もかも壊しちゃうかもしれないし。でもユーティスさんは、自分のために力を振りかざしたりしない。絶対、人を傷付けるために使ったりしない。それがちゃんと分かってるから。だから私は、ユーティスさんを怖いなんて思ったこと、一度もありません!」



 すっぱりと、自信たっぷりに言い切るエレナ。ユーティスはハッとして、彼女を見つめた。それから頬をわずかに染め、そうですか、とつぶやいて口角を持ち上げた。



「ありがとうございます。エレナさん」



 この上なく嬉しそうに、ユーティスは笑った。いつもの落ち着いた雰囲気とはまた違う、少年のような笑顔。向けられたエレナまで、幸せな気持ちになる。二人の心に、温かい何かが灯ったような感じがした。



 良かった。ユーティスさんが、笑ってくれた。


 エレナは安堵して、熱くなる頬をふわりと緩めた。



 静寂の夜は冷たく、だけど穏やかに更けていく。



 互いの胸に抱える痛みを知り、受け止め合うことで、二人の心の距離はよりいっそう、近くなっていったのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おや、おやおや(*´ω`*) これは……。ふふっ、2人共可愛いっ♪これは嬉しい言葉ですね、ユーティス。 強大な力を振るう者は、相応にして寂しい気持ちと同時に向けられる気持ちに敏感ですもんね…
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