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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第四章 迫りくる闇の足音

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ただいま

 毒に蝕まれた木々を焼き払ってから。


 ユーティスは水魔法で林を消火した。迅速な判断と対応をしたため、どうやら被害は最小限で済んだようだ。



 そうしてイスト王国の者たちを震撼させた、『神隠し』の事件は解決した。



 疲れ果てた皆が町へ戻った時、空には綺麗な月が浮かんでいた。王女は兵士を引き連れ、先に城へと帰っていった。



「エレナ!」


 イスト王国の城門をくぐるなり、アストラが血相を変えてエレナに駆け寄ってきた。



「アストラ! ただいま!」


「ただいま、じゃねぇよ! お前、大丈夫だったのか!?」


「うん! 何とかね! 魔力はごっそり取られたけど、けがはそんなにしてないよ!」


「そうか。ならいいけどよ……。こっちも色々、大変だったんだぜ!」


「え? どうして?」


「町に魔物が現れたんだ! しかも数がバカみてぇに多くてよ! 王国の奴らや、おれとユーティスで退治したんだけど、ほんと苦労したぜ! 町の中だから魔法使いも派手なことは出来ねぇし、敵はすばしっこい奴らで逃げ回りやがるし! 倒すのに時間がかかるったらありゃしねぇ!」


 アストラは相当苛々したのだろう。話しながら眉間に深い割れ目を作っている。一通り早口で不満をぶちまけてから、彼はすまなさそうな顔をして、エレナを見た。



「助けに行けなくて、悪かったな」



 その言葉に、アストラは己を酷く責めている、と感じた。だがエレナは彼に文句を言うつもりなど、一ミリもない。アストラとて遊んでいたわけではないのだ。恐らく突然の魔物の襲来を、黙って見過ごしてはおれなかったのだろう。いつも、『何でおれが』とか『面倒臭い』とか言いながら、実は正義感の強い男なのだ。



「そんなの、いいよ! 気にしないで! 私の方は、自分でどうにかなったから!」


 手のひらを横に振って元気よく笑うと、アストラは安堵したような悔しいような複雑な面持ちをした。



「エレナおねーちゃーん!」


 幼い声が聞こえた方を見る。そこには愛くるしい少女と、その母親らしき人物が居た。



「ソフィア!」


 エレナが屈むと、ソフィアは思い切り抱きついてきた。


「よかった! エレナおねえちゃん、ぶじだったんだね!」


 存在を確かめるように、一生懸命しがみつくソフィア。


 エレナはとても嬉しくなって、彼女をぎゅっと抱き締めた。


「心配かけてごめんね。ありがとう」



 そこへゼクターと王国魔法団の面々が、ぞろぞろとやって来た。



「あ! おとうさん! おかえりなさい!」


 ソフィアは彼に気付くなり、赤いほっぺを緩ませ、ものすごい速さで突進していく。ゼクターはすぐに彼女を長い腕で包み込んだ。



「ただいま。ソフィア」


 彼は目尻を下げ、その小さな背中を優しく撫でた。



「おとうさん! しごと、もうおわったの?」


 つぶらな瞳を上に向けて、彼女は尋ねる。


「いや……まだ城へ報告に向かわなければならない」


「そうなんだ」


 ソフィアはうつむき、しょんぼりする。そこにオレンジ髪のジェイクが、横からひょっこり顔を出した。



「あー、団長! 女王様には俺らがばっちり報告しとくんで、先に休んでくださいっす!」


「だが」


「今日は特別な日っすよね? いっぱいソフィアちゃんをお祝いしてあげてください! あと、ちょっといいっすか?」


 そう断って、ジェイクはゼクターの腕を引っ張っていき、小声で喋った。


「あの、出来れば杖でぶん殴った件は、これで帳消しにして欲しいんすけど」


「っ! 気付いていたのか?」


「はい。俺の杖に血がついてたし、団長も頭をけがしてたんで。ほんとあの時は勝手に突っ走って、申し訳なかったっす。てなわけで! 団長は心置きなく家に帰ってください! 罪滅ぼしに俺が仕事全部やっつけとくんで!」


 ちゃっかりしているが、気のいい男である。ゼクターは、仕方のない奴だと笑って、うなずいた。


「分かった。よろしく頼む」


「はい! 任せてください! じゃあ、団長! 皆さん! お疲れ様っす!」


 ジェイクは手をぶんぶん振り、他の魔法団の者たちと城へ歩いていった。



 彼らを見送ってから、エレナは団長へ話しかけた。


「あの、ゼクターさん」


「はい。何か?」


「ソフィアのお誕生日、私もお祝いしていいですか?」


「もちろん。ぜひご一緒してください。構わないな、サーラ?」



 ゼクターは落ち着いた雰囲気の女──妻のサーラに目をやった。薄紫の清楚なワンピースを着た彼女は、長くまっすぐな茶髪を揺らし、大きな目を三日月の形にして答えた。



「ええ。ソフィアから話は聞いてます。エレナさんにお祝いしてもらえたら、この子もとても喜ぶと思います」


「博識の魔法使い殿と剣士殿も、良ければうちにいらしてください」


「え? おれたちも?」


「ゼクター殿。よろしいのですか?」


「ええ。貴方たちのお陰で、この町は守られました。そのお礼をしたいのです」


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、お邪魔いたします」



 ユーティスはにっこり笑ってお辞儀した。


 その横顔にエレナはどきっとしたが、慣れろ私の心臓! 頑張れ! と言い聞かせた。



「さぁ、ソフィア。うちに帰ろう」


 ゼクターは右手を差しのべる。ソフィアは満面の笑みで父親の手を掴んだ。彼女の反対側の手は、母親であるサーラが握る。


「うん! おうちにかえろう!」



 ギルドが並ぶ大通りを歩く六人。


 エレナは仲良く前を行く、三人の親子の背中を、ひっそりと眺めた。



 私も昔、ああやってお父さんお母さんに、手を繋いでもらったっけ。



 思い出せば切なさに胸が締め付けられた。


 いつでも帰れる場所がある。ただいまと言える家族が居る。それがどんなに嬉しくて心休まるかを、エレナはよく知っていた。



 ソフィアの大切な人を守れて、私、本当に良かった。



 月明かりの照らす中、エレナは彼らの幸せを感じ、温かい気持ちでいっぱいになるのであった。

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