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狂気と末路

 背を向けるティシフォネとの距離を、一気に詰めるゼクター。その速さにエレナは目を見張った。



「誰!?」



 異変に気付いたティシフォネは素早く身を翻し、ゼクターの攻撃を避けた。危うく水晶玉を落としそうになり、彼女はそれを胸にぎゅっと押し付ける。二人は数メートル離れて向かい合った。



「まさか、自力であたしの闇魔法を解いたというの?」


「ああ、そうだ」


「さすが魔法団の要。怖い人ね。その執念だけは認めてあげる」



 女は酷く憐れむような目をした。



「でも身のほど知らずだわ。魔力もないのに、あたしを倒そうとするなんて」


「目的はお前ではない」


「何ですって?」


「その水晶玉だ。中に我々や町の者から奪った魔力が入っているのだろう? ──ティシフォネよ。お前の目的は、その強大な力を使い、イスト王国を滅ぼすことなのだな?」


「ふうん。あたしの考えなど、お見通しというわけね」


「これ以上、お前の好きにはさせん! ここで決着をつけてやる!」


「いいわ。相手をしてあげる。死にたくなるくらい、たっぷりいたぶってあげるわ」



 彼女は黒いどろどろした魔物を呼び出し、水晶玉を預けてから、棘のついた長い鞭を取り出した。


 ゼクターは前を睨み付け、ティシフォネは余裕の笑みを作っている。



 短剣と鞭による戦闘が始まった。



 エレナは起き上がり、その様子を見つめながら、何とかゼクターを援護できないかを考えていた。


 魔力を取られてしまったので、彼と同じく呪文は使えない。今、エレナに出来ることと言えば、杖で応戦することぐらいだ。しかし戦闘経験の少ない彼女は、あの場に居ても足手まといになってしまうだろう。



 魔力を回復する方法さえあれば……! 



 思考を巡らせているエレナの目に、水晶玉を持つ魔物が映った。その時、先ほど聞いた話を思い出す。



 あの水晶玉には、みんなの魔力が閉じ込められてるって、ゼクターさんは言ってた。


 だったらあれを壊せば、その力は持ち主のところに帰るんじゃないかな。



 ここに居る魔法使い全員が力を取り戻せば、きっとこの状況を打破出来る。


 エレナはあの魔物をどう攻略するか、必死に頭を回転させていた。



 そうこうしている間に、ゼクターはティシフォネの攻撃を受けてしまった。


 外套の左側が破れ、赤く腫れた太い腕があらわになっている。彼の額には汗が滲み、肩で激しく息をしていた。今にも崩れ落ちそうだ。



「うふふ。かなり辛そうね。さっきの勢いはどうしたの?」


「黙れ! わたしはお前を倒し、ソフィアのところへ帰るのだ! 絶対に負けん!」



 ソフィア! じゃあゼクターさんが、あの子のお父さんだったんだ!



 天使のごとく可愛い少女。あの子は王国で、大好きな父の帰りを、楽しみに待っている。もし彼がやられてしまったら、ソフィアはどれだけ悲しむだろう。考えただけで、エレナは胸が潰れそうになった。



 何としてもゼクターさんを連れて帰らなきゃ。あの人を守らなきゃ。



 エレナの奥から熱いものが湧いてくる。魔力だ。ソフィアへの想いがそれを呼び起こしたのである。



 いける!



 そう感じたエレナは、黒い魔物に魔法を放った。



氷結(フリージング)!!」



 力強い声と共に杖を振ると、真っ白な冷気が魔物を包み、あっという間に全体をかちこちに凍らせた。ひび割れ砕け散る魔物。その身体から、水晶玉が離れた。



「あっ!」


 ティシフォネは焦り顔をそちらへ向ける。魔法で止める暇もなく、水晶玉は地面に叩きつけられた。


 衝撃でそれの一部分が欠ける。だが、完全には壊れなかった。皆の魔力もまだ戻ってきてはいない。



「赤髪の子……!」



 ティシフォネはすぐさまエレナを恐ろしい目で見据え、魔法で紫のつるを生やす。


 それでエレナの手足を拘束し、鋭い靴音を立てながら、近付いてきた。



「魔力を全部奪っておいたのに、どうやって魔法を発動させたのかしら? それにずいぶん余計な真似をしてくれるじゃない? 今すぐ死にたいの?」


「いいえ。それより私、あなたに聞きたいことがあります」



 捕まりながらも怯まぬエレナに、大きく目を見開いてから、ティシフォネは怪訝そうに聞いた。



「何かしら?」


「どうしてあなたは好きな人のために、闇魔法を使ったんですか?」


「っ!? どうしてそんなことを知ってるの?」


「女王様から聞きました。あなたは恋人さんのために、邪魔になる人間を殺したって」


「あの女から?」



 ティシフォネは綺麗な顔を憎々しげに歪めた。深い恨みを込めた声が、洞窟内に響く。



「いいわ。特別に教えてあげる。あたしには魔法使いの恋人が居たのよ。とても美しい人だった。あの人には夢があったの。王国魔法団の頂点に立つという夢がね」



 ティシフォネは恋人を思い出しているのだろう。慈しむような表情を浮かべている。



「あたしはあの人を応援したかった。だから障害となる人間たちを殺したの。あの人が誉めてくれると思って。だけど全てを知った彼は、あたしを責めた。卑怯な真似をするくらいなら、地位などいらないと言った。あたしの愛を受け入れず、あたしを拒絶した。全部、全部、あの女王のせい! あの女があの人に真実を話さなければ、あたしたちはずっと変わらず愛し合えていたのに!」


 ティシフォネは最後、吐き捨てるように言った。怒りと憎しみが彼女の心を真っ黒に染めている。エレナは重ねて尋ねた。



「恋人さんが魔物になったのは、どうしてだったんですか?」


「あたしが上級の闇魔法で、力を与えたのよ。強くなって夢を叶えられたら、あたしの愛を理解してくれると思って。またあたしに振り向いてくれると思って」


「そんな……」


「だけど、ゼクター率いる王国魔法団は、彼を殺した。あたしの愛する人を永遠の闇に葬った。だからあたしは許さない! あの人を奪ったあの女も! あの女が守ろうとしているこの王国も! 何もかも全部、滅ぼしてやるわ!!」

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