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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第四章 迫りくる闇の足音

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消えた二人

 広場を抜けようとした時だった。


 二人の前に、白黒のメイド服を着た、若い女の従者が現れた。



「魔法使い様。少々よろしいですか?」


「あなたは?」


 エレナはソフィアを後ろに隠し、身構えた。残念ながら、彼女に従者の知り合いは居ない。


 もしかしたら不審者かもしれないと、エレナは警戒の色をはっきりと示した。



「私はガイラ殿下の従者でございます。あのお方が、あなたにどうしても面会したいと希望されておりまして。どうか私にご同行願います」


「へ? 王女様が? いや、それはちょっと」


「あなたを連れてこないと、私が酷い目に遭うのです。さあ、さあ、早くお願いします!」


 エレナは訳もわからぬまま、ソフィアと二人、従者にぐいぐいと背中を押された。



 そうしてたどり着いた、イスト城西側、魔法訓練地区。


 だだっ広い砂地で、ガイラは待っていた。眉間にしわを寄せ、人差し指で巻き髪をいじっている。



「あの! 私に一体、何の用ですか?」


 従者に連れて来られたエレナは、驚き半分怒り半分で問う。ガイラはふんぞり返って言った。


「あなた。このあたくしと勝負しなさい!」


「え?」


「どちらがユーティス様にふさわしいか、魔法で勝負いたしましょう! もし万が一あなたが勝ったら、旅に付いて行くのを認めてさしあげますわ! けれど、もしあなたが負けたら、大人しく身をお引きなさい! あたくしがあなたの代わりに、ユーティス様の旅に同行いたしますわ!」



 この短時間で、何をどうしたら、そんな思考になるのか。


 王女、無茶苦茶すぎる、とエレナは呆れて半目になった。



「ねぇねぇ。『ユーティスさま』って『だいけんじゃさま』のこと?」


 ソフィアがエレナの服を軽く引っ張り、尋ねてくる。無邪気に首をかしげる姿が、また愛らしい。



「そうそう! ものすごく強くて優しいんだよ! 今、私と一緒に旅してるの!」


「へー、そうなんだ! 『だいけんじゃさま』とたびできるなんて、エレナおねえちゃん、すごいんだね!」


「ちょっと、あなたたち! あたくしの話を聞いてるの!?」


 ガイラはきつい目をして金切り声を上げる。エレナは冷めた口調で彼女に告げた。



「何で私がそんなことしなきゃならないんですか? 勝負なんて、受ける義務はありません。もう帰ります」


 エレナはガイラに背を向け、ソフィアと訓練地区を出ようとする。



「あら。逃げるんですの?」


 エレナの歩みが止まる。ガイラは鼻で笑いながら挑発した。



「信じられないくらい、情けない人ね! 負けると分かってるからって、勝負すらしないなんて! これだから平民は嫌いですのよ! お優しいユーティス様も、さぞ困ってらっしゃるでしょうね? 足手まといの田舎娘を、毎日連れ歩かなきゃならないんですもの! 本当にお気の毒! 心中お察しいたしますわ!」



 ぷつん、と。


 堪忍袋の緒が鮮やかに切れる音がした。


 エレナは高速で振り返り、怒りのままに王女へまくし立てる。



「ああそうですか! 分かりましたよ! その勝負、受けて立ちましょう! その代わり、負けても不敬罪で訴えないでくださいね!」


「望むところですわ! やれるものならやってご覧なさいな!」



 全力で睨み合う二人。火花がバチバチと散っている。ソフィアは、おねえちゃんたち、こわい、と涙目でつぶやいた。



「では、勝負のやり方を説明しますわ! あそこに練習用の的がありますの! あれにどれだけ正確に光魔法を当てられるか競いましょう?」



 見ると、三十メートル先に、円の形をした的が等間隔に五つ、並べ置かれている。


「まずあたくしからやりますわ。驚かないでくださいね」


 そう言うと、ガイラは控えていた従者から杖を受け取り、構えた。


 そして魔法を唱え、見事、的のど真ん中を撃ち抜いた。



「どう? あなたに出来るかしら?」


 口の片端を上げ、ガイラは聞いた。馬鹿にしている。エレナは、この人には絶対負けない! と思って、魔法を放った。


 すると、彼女の撃った光魔法は、的を射抜くどころか、五つの的全てを粉々に破壊してしまった。



「えぇえええええええっ!? そんな!? 嘘でしょ!?」



 王女は上品な顔をこれでもかと引きつらせ、腰を抜かしてしまっている。心の底からいい気味である。



「えっと。誰が負けるって言いました?」


 エレナはガイラに近づき、自分に出せるだけの意地悪感を、存分に出して言った。


 ガイラは杖を握り締め、歯噛みしている。


 エレナは王女に厳しい視線を送り、もの申した。



「力を持てるかどうかは、才能と頑張り次第です。王女とか平民とか、身分なんて関係ありません。そんなくだらない考えで人を見下すのはやめてください。ユーティスさんと旅に出るのは私です。足手まといかもしれないけど、あなたよりは絶対、役に立ってみせます。もう迷惑なので、今後一切、あの人に近付かないでください。──さあ、行こう。ソフィア」



 彼女はソフィアの手を引き、その場から足早に去ろうとした。


 するとガイラは慌てて立ち上がり、兵士を呼ぶ。



「ちょっと! この女を捕まえてちょうだい! あたくしに無礼を働きましたのよ! こんな屈辱、耐えられませんわ!」


 ガイラは杖を落とし、両手で顔を覆った。またもや嘘泣きである。王女の声を聞きつけて、近くに居た兵士たちがエレナとソフィアを取り囲んだ。



 わ。これちょっと、まずいんじゃないかな? 


 エレナは焦った。捕まったら牢屋にぶちこまれてしまう。最悪、重い罪に問われるかもしれない。



 逃げた方がいいのか、大人しく捕まった方がいいのか。


 迷っていたその時、彼女の足元に大きな影がやって来た。



「サガシモノ、見ツケタ」


 気味の悪い声がして、影から魔物が現れた。人間と同じくらいの背丈の、黒いどろどろした液体。それが赤い目をぎらつかせて、エレナの足に絡み付いた。


「おねえちゃん、逃げて!」


 ソフィアが叫ぶ! 



 エレナはすぐに魔法を使おうとしたが間に合わず、魔物に飲み込まれた。



「いやぁああああああああ!」


 そしてガイラも同様に捕らえられ、忽然と姿を消してしまった。


 兵士たちは剣を抜き飛びかかるが、魔物はすぐさま地面に潜り、その場から居なくなってしまった。



「『かみかくし』だ」


 ぽつりと言ったソフィアが、震えながらしゃがみ込んだ。


 彼女たちは一体、どこへ行ってしまったのか。



 二人が消えた訓練地区は、不安と恐怖に支配され、不気味なほど重く静まり返っていたのだった。

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