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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第四章 迫りくる闇の足音

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幼き天使

──同じ頃、王国の城下町にて。


 たくさんの宿屋を回った三人は、戸を開けてくれた気の良さそうな店主に頼み込み、泊まる部屋を確保した。


 背中の荷物を置いたユーティスは、町の警護のお手伝いをすると告げ、颯爽と出かけていった。


 アストラは一眠りすると言って、部屋にこもっている。


 エレナはというと、二階の部屋で一人、悩んでいた。彼女は帽子を脱ぎ、荷物と杖を部屋の端っこに置いて、どさっと柔らかいベッドに横たわった。



「あー! もう、どうしたらいいんだろう!」



 あの嫌味な王女との一件があってから、エレナはユーティスを見ると、やたらどぎまぎしていた。彼の一挙一動に心臓が反応し、まともに顔を合わせられない。この感情とどう付き合えばいいのか、エレナには皆目見当もつかなかった。


 だが、これからも一緒に旅をするのだから、こんな状態ではいけない。何とかしなければ。



 もうこれは、慣れるしかない。頑張ろう。あえてユーティスさんを見よう。大丈夫。笑顔を見ても大丈夫だ。笑顔……。



 すると、ぱっと頭に、くしゃりと笑うユーティスが浮かんだ。



 わーーー!! だめだめだめ!! 思い出しちゃ!! 



 顔から湯気が出そうになる。両手で頬を挟み、一生懸命、落ち着け私! 平常心! と、自己暗示をかける。



 散々それを繰り返し、やっと心が鎮まってきたエレナは、少し息切れしていた。なかなか制御が大変である。



 どうにか熱を冷ましてから。


 彼女は改めて、ポロンにもらった発明品を確認しようと、袋を開けた。



「『言語変換』の耳飾り、『呪文無効』の香水、『風魔法入り』通信器──?」



 ちょっと把握出来ないくらい、たくさん入っている。エレナは試しに香水を自分に振りかけてみた。優しい花の香りだ。



「特に変わったところはなさそうだけど。ま、いっか!」


 次に耳飾りを付けてみる。綺麗な紫の小さな玉が三つ、連なって揺れている。



「うん! 素敵! ポロン先生ってば、いいものくれたなぁ」



 エレナはだんだん楽しくなってきた。窓を開け、外を見下ろす。鳥の声でも聞こえてこないだろうか? 


 もしかしたら彼らが何を話しているのか、魔法で分かるかもしれない。



 そんなことを考えていた矢先、誰も居ない大通りを一人歩く、子供の姿を見つけた。



 あれ? 何だろう。もしかして迷子かな?



 エレナは心配になり、帽子と杖を身につけ、宿から出ていった。



 子供はどこかへ向かっているようだ。エレナは後を追い、元気に呼びかけた。


「こんにちは! どうしたの? お母さんは?」



 くるっと振り返った子供。歳は七才くらいだろうか。ふわふわの金髪を左右で結び、淡いピンク色のチュニックを着ている。丸いほっぺに目はくりくりしていて、とても愛くるしい。



「わたし、おとうさんにあいにいくの! おかあさんには、ないしょだよ!」


「へぇーそうなんだ! お父さんはどこに居るの?」


「おしろ! そこでしごとしてるの!」


「そっかぁ。でも勝手に外を出歩いちゃ、危ないよ?」


「……おとうさん、いつもいそがしいの。でもきょうは、とくべつだもん。だからぜったい、あいにいくの!」



 少女は言いながら、何故か目をうるうるさせている。どうも深い事情がありそうだ。エレナは可哀想になってきて、彼女にこう話した。



「分かった! だったら私がお城まで送っていってあげる! それなら危なくないでしょ?」


「え? いいの?」


「もちろん! 私はエレナっていうの! よろしくね!」


「わたし、ソフィア! エレナおねえちゃん、ありがとう!」


 ソフィアは頬を染め、とろんと目尻を下げて、エレナの腰にぎゅっとしがみついた。



 か、可愛い……!! 



 一瞬、ソフィアの背中に白い羽が見えた。(もちろん幻覚だ)地上に舞い降りた天使。それはきっと、彼女を形容するためにある言葉だろう。あまりの眩しさに、エレナは危うく昇天しそうになった。



 こうして二人はイスト城へ向かった。



 その道中、ソフィアは嬉しそうに色んな話をしてくれた。


 この国の魔法使いの中で、父が一番偉い人だということ。


 今日は自分の誕生日だから、一緒にお祝いしたいこと。


 父が大好きで、将来、彼と結婚したいことなど、内緒で教えてくれた。




 二人は跳ね橋を渡り、門番と話をする。



「おお、ソフィア様! 父上に会いに来られたのですな? しかし残念ながら、あのお方はとある事件を追っており、ここには居ないのです」


「え。そんな」



 ソフィアは明らかにがっかりしていた。エレナは彼女が下を向いたのを、じっと見つめている。


 しかし留守であれば仕方がない。彼女たちは諦めて、とぼとぼと高台を歩いた。見下ろす人気のない町並みが、酷く物悲しく思える。



「おとうさんのばか。どうしていつも、しごとなの? どうしていつも、あえないの? はやくかえってきてほしいのに」



 大きな池と、緑の木々が並ぶ広場に差しかかった頃だった。


 ずっと目を潤ませていたソフィアは、とうとう耐えきれずに泣き出してしまった。ぽろぽろと大粒の涙が瞳から落ちてくる。


 エレナは彼女の辛い気持ちを察し、胸が痛くなった。



「お父さんに会いたいよね。でもきっとすぐ戻ってくるよ。だからおうちに帰って、あなたのお母さんと一緒に待ってよう? ね?」


 エレナは彼女と目を合わせ、諭すように言ってから小さな手を握った。


 幼く、か弱い少女。淋しさに壊れてしまいそうだ。


 エレナはソフィアを両腕で包み、元気になってほしいと願いながら、髪を撫でた。



 そういえば、私も昔、こうやって頭を撫でてもらったっけ。



 エレナは胸が疼くのを隠しながら、そっと語り始めた。


「ソフィアのお父さん、きっとみんなを守るために頑張ってるんだよ」


「どうして、そんなことがわかるの?」


「私のお父さんもね、魔法使いだったんだ」



 ソフィアは顔を上げる。


「エレナおねえちゃんのおとうさんも?」


「うん。いつも村を守ってくれててね、格好良かったよ」


「そうなんだ。おとうさん、いまどこにいるの?」


「私のお父さんはね、もう居ないんだ。ずっと前、遠くに行っちゃったから。でもね、離れてても分かるの。お父さんは私のこと、誰よりも大切にしてくれてたんだって。ソフィアのお父さんだってそうだよ。きっとあなたのこと、大切に思ってる。仕事が大変でも、きっとあなたのこと、ちゃんと考えてくれてるよ」


「ほんと?」


「うん! 本当!」


「……そっか」


 エレナの強い言葉に、ソフィアは少し笑顔を取り戻した。


 彼女がやっと泣き止んだところで、また手を繋いで歩き出す。



 小さな友が淋しさに震えぬよう、エレナは包み込む手のひらに力を込めた。

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