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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第四章 迫りくる闇の足音

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負けず嫌い

 翌日の朝。



 遺跡より更に東へ進んだ湖のほとりに、三人は居た。


 澄んだ水面(みなも)に映り込む新緑と空。その後ろに美しい山々が臨んでいる。


 見ているだけで心洗われる景色だが、実際のところは、非常に殺伐としていた。



「うらぁああああっ!」



 涼やかな空気を切り裂きながら、アストラがユーティスに長剣を振るっている。


 鬼気迫る勢いだ。


 次の瞬間、衝撃と共に剣は弾かれた。白いローブの彼は、鳥の模様の描かれた短剣で、攻撃をいなしている。


 激しく何度も響き渡る、鋭い音。



 エレナは戦う二人から離れ、木の側に座り込み、じっと目をつぶっていた。



 何故こんな状況になっているのかというと──



 そもそもの始まりはアストラの一言だ。



「ユーティスって、剣は出来るのか?」


 朝食を終え、荷造りを済ませてから、彼はユーティスに素朴な疑問を投げかけた。



「はい。ある程度は出来ます」


「だったら、おれの稽古に付き合ってくれねぇか? ポロン先生たちと修行して思ったんだ。戦う相手がいる方が、練習になる」


「ええ。構いませんよ」


 ユーティスは快く引き受け、袋から短剣を取り出す。



「えー、いいなぁ! 私もユーティスさんに魔法教わりたいのに!」


 羨ましい、とエレナがむくれると、彼は微笑み、人差し指を立てた。



「アストラさんと私が稽古をしている間、エレナさんは、『魔力の気配を隠す練習』と、『魔力探査の練習』をしましょう。昨日、教えましたが、やり方は分かりそうですか?」


「はい!」


「だったら、その精度をどんどん上げていきましょう。あなたは普通の人より魔力が多い分、敵に感知されやすい。先に相手に気付いた方が戦闘において有利となりますので、いち早くこの二つを習得してください」


「分かりました! 頑張ります!」


 エレナは両手を握り、明るく返事をした。



──こうしてアストラとユーティスによる剣の訓練と、エレナの基礎訓練が同時に行われることとなった。



 二人が剣を交えている間、エレナは目を閉じ集中した。まずは魔力を抑える練習からだ。



 真っ暗な視界の中、イメージを膨らませる。


 自分の持つ大きな光の玉を、外側から小さく小さく縮めていく。それを極限までやっていくと、魔力は他人に感知されなくなるらしい。



 何度か練習してみて分かったが、これが意外と難しい。力を出すより、抑え込む作業の方がよっぽど神経を使うのだ。



 けれども時間が経つにつれ、エレナは魔力を抑えるコツが掴めてきた。ある程度は形になってきたので、次は魔力探査の練習に取りかかる。



 試しに目をつぶったまま、戦闘中の二人の魔力を探ってみた。


 暗闇に光がびゅんびゅん飛んでいる様が、まぶたの奥に浮かぶ。


 あちこちせわしく動き回っているのは、アストラだろう。とても小さいが明るい魔力を感じた。だがもう一方。ユーティスには魔力がほとんど感じられなかった。


 アストラの何万倍もの魔力を持ちながら、それを平然と抑え込んでいるのだ。



 うう。やっぱりとんでもない人だな。



 知れば知るほど、エレナはユーティスの技量に感心するばかりだ。どれほどの実力差が、この二人の間に横たわっているだろう。



 早くあの人に追いつきたい。でも、私なんかがあんな風になれるのかな? 



 ふと湧いた焦りと不安が、彼女の心をざわざわと波立たせる。



 すると、ほどなく二人の動きが止まった気配がした。


 目を開くと、剣を落として地面に突っ伏したアストラと、その横にすらりと立つユーティスの姿が見えた。



「はぁ……はぁ……くそ! 剣もめちゃくちゃ出来るとか、どんだけすげぇんだ、お前は!」


「まあ、剣も扱えなければ、魔王たちを倒せませんでしたからね」


「……ちっ。嫌味な野郎だぜ」



 短剣を鞘に収め、整った笑顔で言ってくるユーティスに、アストラは小声で毒づいた。


 彼の額から大量の汗が流れ落ちている。だいぶ疲弊しているようだ。



「あーちくしょう!! 悔しいなぁ! どうやったらお前に勝てるようになるんだ? 教えてくれよ、()()()()!」


 拳を地面に叩きつけ、アストラは少し棘のある言い方をした。彼は魔法は出来ないが、剣術はきっと、ユーティスにも負けない自信があったのだろう。それをあっさり覆され、子供みたいに八つ当たりをしているのである。



 正直すぎるその態度に、エレナは眉をひそめ、抗議しようとした。だがユーティスは腹を立てるでもなく、はっきり告げた。



「私に勝つには、ひたすら練習あるのみです。それだけが強くなる近道ですよ」


「……だよな」


 アストラは半身を起こし、悔しさを色濃く滲ませている。



「今に見てろ! おれはお前を唸らせるくらい、強くなってやるからな!」


 彼はユーティスを指差し、熱く宣言した。全身から闘志がみなぎっている。


 相手が伝説の大賢者だろうがなんだろうが、関係ない。彼は根っからの負けず嫌いなのだ。



 何がアストラのやる気に火をつけたのか、エレナには分からない。しかしその青い瞳に、強い決意のようなものを感じた。



 アストラは昔から強かった。


 でもきっと、見えないところで、こうやって努力してきたんだろうな。



 振り返れば戦闘の時、彼は常に勇敢に剣を抜き、活躍していた。


 平和な村で過ごしていても、いざという時のために、鍛練は怠っていなかったのだ。



 うん。私もアストラに負けないくらい、頑張らなきゃ! 



 彼の強さを求めるひたむきさに、エレナは改めて、弱気な自分に気合いを入れ直すのであった。

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