表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/159

妖精族

「ユーティスさん。ちなみにミョルニたちは、精霊の仲間なんですか?」


「そうです。長い歴史の中で、精霊は二つの種族に分かれました。一つは小人族。もう一つは妖精族に」


「なるほど! だから恵みの石の祭壇に、妖精王様の言葉が残されてたんですね! その王様は、どんな方だったんですか?」


「……なぜ私にそのようなことをお聞きになるのですか?」


「だってユーティスさんは、妖精と人間のハーフなんでしょう?」



 エレナはさらっと聞き捨てならない発言をする。彼女の問いに、ユーティスの顔色が一気に曇った。



「どうしてあなたが、それをご存知なのですか?」


「大賢者伝記の表紙裏に紹介されてたのを、この前見つけました! お母さんは、妖精王様なんですよね!」


「ええ、その通りですが。まさかそんな詳しい身の上まで記されているとは。何とも恐ろしい本ですね」


「村にそれを持ち込んだ奴が言ってたけど、大賢者伝記は世界中のあちこちで売れまくってるらしいぜ。お前の情報だだ漏れだな」


 アストラが頭の後ろで手を組み、他人事のように言うと、ユーティスは黙って眉根を寄せた。


 どうやら本人の知らないところで、素性が調べられ、勝手に広められていたらしい。有名人である以上、皆の興味を集めるのは仕方のないことだが、了解も得ず晒されるのは甚だ迷惑なものである。



「あの、ユーティスさん! 妖精族について、色々お話聞かせてください! お願いします!」


 エレナは好奇心に目を輝かせ、身を乗り出して頼んだ。その隣でアストラも、笑顔で話を聞く体制に入っている。


 二人の圧に押されたのか、しばらくしてユーティスは、半ば諦めたように語り始めた。



「妖精族は、先の尖った耳以外は人間とあまり変わらない姿をしています。彼らは人間よりもはるかに長寿であり、あらゆる分野の知識と経験があります。私は『妖精の森』で生まれ育ち、そこで古代文字や様々な言語、魔法を勉強しておりました」


「ユーティスさんのお父さん、お母さんは、どんな方だったんですか?」


「人間である父は、私が生まれる前に亡くなっており、顔も分かりません。ただ、とても明るく誠実な方だったと聞いております。妖精王である我が母セレニエル=ニュンフェは、前王ネルバ=ニュンフェの後継者として、一人で妖精の森を治めておりました。彼女はとても強く、優しい方でした」



 ユーティスの言葉の端々には、両親に対する深い愛と尊敬の念が宿っている。


 エレナは温和な気持ちになりながら、続けて質問した。



「素敵なお父さんとお母さんだったんですね。ユーティスさんの住んでた妖精の森は、どこにあるんですか?」


「それが、私にも分からないのです」


 ユーティスは急に悲しい目をして、うつむいた。


 エレナは、興味本位に悪いことを聞いてしまったかも、と思い、口をつぐむ。



 彼はオレンジに染まりつつある空を見上げ、遠い目をした。



「私は長い間、森から出たことがありませんでした。だから分かっているのは、それが人里から離れた場所にあったという事実のみです。その昔、あの魔王フォボスによって、妖精の森は攻撃されました。力及ばなかった私は、母の魔法によって森から飛ばされ、命を繋いだ。そして、ノース王国にたどり着き、国王様に拾われたのです」



 石と石の間から差し込む夕日。


 それが凛と立つユーティスの背中を照らす。


 栗色の髪と長いまつげに、きらりと光の瞬きが重なって、まるで泣いているかのように見えた。



「私は大いなる謎と、もう一つ。すでに滅びたかもしれない故郷を探しているのですよ」



 白いローブの男は、郷愁と諦念とわずかな希望をない交ぜにして、言の葉に乗せる。



 ある日、突然奪われた、温かな居場所。


 彼はきっと、泣き叫びたくなるほど、辛かったに違いない。



 ユーティスの過去と、自分自身の痛みとが重なり、エレナの胸は酷く張り裂けそうになるのだった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
架け橋 ななの他作品

モフモフと美形の出る異世界恋愛
*毒舌氷王子はあったかいのがお好き!*
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ